第37話 じっけんとなぞのゆか
図鑑は一度閉じて、再びスキルのページに戻る。
そういえば、『アイススピア』を随分と撃ったがレベルは上がっていないだろうか。
(お、4になってる)
最初のスキルだから成長が早いのか、最大レベル10のうちのレベル4まで上がっていた。これなら一つの強化内容に特化させればギリギリ次の段階の魔法も取得可能だ。
問題は、どこを強化してどの次の段階の魔法を狙うかだ。
『アイススピア』の強化内容は、先ほど説明を受けたファイアーボールの例と同じく威力・速射性・連射性・消費・射程の五つだ。
分岐先は五つで、それぞれの強化率を50%まで上げれば解放される。
強化ポイントはスキルレベルが1上がるにつれて2ポイントもらえ、それぞれMAX強化までに12ポイントが必要になる。
どうやら1ポイントにつき強化される度合いはそれが何ポイント目の割り振りかによって変動するようで、最初は一気に強化されるが徐々に伸びが悪くなっていくという仕様だった。
具体的には、1レベ~3レベは+13%、4ベ~6レベは+9%、7レベ~10レベは+7%、11レベ~12レベは+3%という感じだ。レベルを5まで上げないと50%を超えないので、最大で三つまでしか次のスキルを解放することはできない。
最後の方は伸びが悪いので強化のし甲斐がないように思えるが、一つの強化内容をMAXまで強化するとMAX強化ボーナスというのがあるらしいのでそうでもなさそうだ。だが、その詳細は???となっている。
(連射でいっぱい撃つのとか魅力的だけど……)
私の脳内に、この光のベールの奥にうじゃうじゃと溜まっているであろうポイズンマジシャンの姿が思い浮かぶ。
ここならポイズンマジシャンを倒し放題だし、威力を上げて彼らをカモにするというのもありかもしれない。
(いや、やっぱりいいや)
そもそも別にレベル上げに効率を求めてたわけでもないな。と思い直した私は、自分の気持ちに素直に連射性に全強化ポイントをつぎ込んだ。
≪連射性に強化ポイントを6割り振ると、連射性0→連射性6となります。よろしいですか?≫
≪アイススピアの連射性強化率が50%を超えたので、氷双弾がアンロックされました≫
連射性の分岐先は『氷双弾』というスキルだったようだ。名称的には、氷の弾を二つ飛ばす魔法だろうか。
とりあえず取得しておこうと思ったが、どうやらスキルポイントを3も消費するようだったのでやめておいた。この氷魔法も最低限の攻撃手段が欲しくて取っただけなので、スキルポイントがレベルアップ以外でも入手できるのならガンガン使っても良いと思うが、現状他の入手手段があるのかわからないので温存しておきたい。
それに、魔法を使うのは結構難しい。
武器を構えると目の前に現れる五×五の二十五個の点の指定された点を結んで魔法を発動するわけだが、ただその点を結べばいいだけでなく、武器に仕込まれている三つのボタンの指定されたものを押しながら結ばなければならない。そして発動させる際に、そのボタンを離すといった感じだ。
今は一番レベルの低い魔法なので、一つのボタンを押しながら開始の点から次の点まで一回結ぶだけで済んでいる。しかし、魔法のレベルが上がっていくと、結ぶ点の数が増えたり、指定される点同士が遠くなったり、点と点を結ぶ際に押さなければいけないボタンが途中で変わったりするらしい。
そして魔法をたくさん取得すればするだけ覚える量も増えてこんがらがっていくと思うので、現状は『アイススピア』だけでなんとかしていこうと思う。
ちなみに『アイススピア』は、右から左に1の行から5の行、上から下に一の段から五の段とすると、3四から4四に結ぶだけなので非常に簡単だ。
押すボタンは、エリーナからもらったスタンダードステッキでいうと、人差し指・中指・薬指の位置にある三つのボタンの人差し指のところだけだ。が、エリーナからもらったスタンダードステッキはスタンダードステッキ(右)という右利きのもので、私は左利きなので少し使いづらい。武器屋に(左)に変更してくれるサービスがあるそうなので、街に戻ったら忘れずに武器屋に寄るとしよう。
(さて、ちょっと試してみようかな)
せっかく強化したので、『アイススピア』の連射性がどれだけ増したか確認しておこう。
レベル6まで上げたので、強化率でいうと66%だ。まあ、この数字だけを見ても何がどう66%なのかはわからないのだが。
一旦ポイズンマジシャンの渦から逃げ出し、そのまましばらく走る。ポイズンマジシャンは移動速度がかなり遅いので、逃げようと思えば簡単に逃げることができるのだ。
(……ん?なにあれ?)
私の元に集まってきたポイズンマジシャンから逃げるように走っていると、ふと何やら青白い光を放つ床がを発見した。
さらにはそこを中心に半径三メートルくらいの空間にはポイズンマジシャンが一切入り込んでおらず、それまでそちらの方に歩いていたポイズンマジシャンも、そこのラインまで行くと謎の力が働いてるようにくるりと身体を反転させていた。
(ひとまずあそこに行こう。と、その前に確認もしなきゃね)
その謎のラインの手前まで行き、ステッキを構える。
私の元に集まってきたポイズンマジシャンは撒けたが、もうだいぶ奥の方まで来ているので周囲には十匹ほどのポイズンマジシャンがいた。うだうだしているとまた光のエフェクトにのみ込まれてしまうので、さっさと魔法を発動させる。
「ほっ!」
まずは一発。
一応狙いを差がめていたポイズンマジシャンに命中し、相手が怯む。
そしてすぐさまステッキを構えると、再び二十五個の点が現れる。
この時クールダウン中のスキルは視界の右端にその時間が時計マークで表示されるのだが……
「おー」
思わず声が漏れる。
強化なしの時は四秒くらいが目安だったのだが、時計マークの針の進み方が今までのとは比べ物にならないくらい早い。
「てゃーっ!」
すぐさま二発目を撃って、同じポイズンマジシャンに攻撃する。
具体的には、二秒くらいまでクールタイムが減っている。半分だ。強化率の計算方法にもよるが、66%で1/2になったということは、MAXまで強化すれば1/3になって1.3秒くらいになりそうだ。
(よし、それじゃあ……)
青白い光を放つ床のすぐそばまで行き、ポイズンマジシャンがこちらに寄って来ることも魔法を撃ってくることもないことを確認する。
私はそこで腰を下ろすと、そっとログアウトボタンを押した。
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