第35話 あんちゅうもさく
もろにポイズンマジシャンの魔法攻撃をくらい、スタン状態になるエリーナ。
メノに続いてエリーナもスタンさせられ絶望的な状況かと思われたが、スタンの効果時間は上書きされないという仕様なのかメノが最後の被弾から考えると随分と早い時間でスタンから解放された。
「ゆきひめさん、真ん中で!」
「……はい!」
エリーナに代わって指示を出してくるメノ。
臨機応変にそういうこともできるのは、やはりVRMMOの経験の多さからなのだろうか。
「ふっ!」
「とーっ!」
メノと私が息を合わせて魔法攻撃を繰り出す。
その標的となった真ん中のポイズンマジシャンが、撃破とまではいかずとも大きなダメージを負って怯む。
しかし残りの一匹が魔法攻撃の準備に入り、更には左からもう二体のポイズンマジシャンが迫ってくる。
「なんとかこいつだけでも倒しましょう!」
「はい!」
意気込む私たちだが、現実はそんな目標ですら絶望的な状況だ。
あと一発。あと一発で倒せるはずだが、先にメノを攻撃した二体の内の私たちに狙われなかった方は既に魔法攻撃の準備をほとんど終えており、後に攻撃した方も魔法の準備段階に入っている。
そして、そのターゲットは先の方がメノ、後の方がエリーナだ。
メノは自分が犠牲になってでも私たちにチャンスをくれようとしたのか、エリーナを狙う方に突っ込んでいく。
「私のことは構わないので、エリーナさんは真ん中のを───ゆきひめさんっ!」
「?」
こちらをちらりと見たメノが、突然私の名を叫ぶ。
いや、その視線はわずかに私から外れており、その視線が示す先は───
「うしろ?」
「ぷぎーっ!」
私が振り返るのとほぼ同時に、私の視界に黄色い光が飛び散った。
この光には見覚えがある。遠くからメノやエリーナがくらうところを見ていた、ポイズンマジシャンの地属性範囲魔法攻撃のエフェクトだ。
ああ、そうか。柵の後ろも安全ではないということを忘れていた。私は柵の外から現れたポイズンマジシャンに狙われ、そしてその魔法をくらって……あれ?
「??」
「ゆきひめちゃ……え?」
「ん?」
その瞬間、確かにこの場の全員の───ポイズンマジシャンをも含めた全員の動きが止まった。
いや、正確には、ポイズンマジシャンの範囲魔法攻撃をくらって吹き飛ばされたべにいもだけは宙を舞っているのだが。
「?」
「どういう……ぎゃーっ!」
メノの叫び声が聞こえてくる。
「ゆきひめちゃ……ぎゃーっ!」
続いて、エリーナの叫び声が聞こえてくる。
「ぷ……ぎ……」
地面にたたきつけられたべにいもが、その姿を塵に変える。
この一瞬で私以外の全員が倒されてしまったが、私だけは全く無事な状態でその場に立っていた。
「どういうこと?」
私が漏らしたそんな疑問の言葉に答えるように、左から迫っていた二体のポイズンマジシャンが私に向かって魔法攻撃を放つ。
私の視界を舞う黄色い光のエフェクト。
そして、何のダメージも追わずにその場に立つ私。
「??」
私が首を傾げるのとシンクロするように、攻撃を放った二匹のポイズンマジシャンも「あれ?」みたいな表情をする。
明らかに相手の魔法攻撃が効いていない。原因は不明だし思い当たることすらないが、ぱっと浮かぶのは当然アレだ。
「LUC?でも、LUCで魔法が当たらなくなるなんて意味わからなくない?」
そんな考えに至る間にも、次々とポイズンマジシャンの攻撃が放たれる。
やがて、私の視界は常に黄色い光に包まれ、周囲の状況をまともに確認できる状態ではなくなった。
そんな中で、はっきりと視界に映り込むものが一つ。
≪称号:檻の中 を獲得しました≫
≪レベルが11になりました≫
システムメッセージだ。
一応、詳細を確認しておく。
≪檻の中 同時に二十体以上のモンスターから狙われた人に贈られる称号≫
ああ、もう二十体に囲まれてるんだ。
だが、相手の攻撃が全く効いていないので何体いようが変わらない。エフェクトはかなり鬱陶しいが。
と、そんなことは置いておいて。
「その量に攻撃され続けても効かないってことは、間違いなく何かしらの影響で相手の攻撃を無効化してるよね……」
LUCを上げただけでそんなことになるのならば、LUCの効果があまりにも強すぎるだろう。
だとすると、種族的な話だろうか。
「ラッキープリンセス……運が良いから攻撃が当たらない?」
なんて、そんな無茶苦茶な話があってたまるか。
そもそも、私は最初にスライムの攻撃をちゃんとくらっている。だとすると、当たらないのは魔法攻撃だからだろうか。
他にくらったことのある魔法攻撃といえば毒ブレスだが、あれはそもそも参考にならない気がする。
「……」
というか、彼らはいつまで私に魔法を撃ち続けるのだろうか。
なんか音がどんどん重厚になっているし、まだ増え続けている気がする。
私から彼らが見えていないように、もはや彼らからも私のことは見えていないはずだ。なのにしっかりと私を狙ってくるのは、彼らが視覚以外の情報で私をことを判別できているからだろうか。
……なんて思っていたところを、今度は未知の衝撃が襲いかかてきた。
「ぐえっ!?」
腹部に強い衝撃を感じ、同時に脳内が揺れるような気持ち悪さを感じる。
そして、一面黄色い光だった視界の隅に、紫色の靄がかかった。
「え、何……毒!?」
まさかと思い、ステータス画面を確認する。
すると、そこには間違いなく毒状態の表記が記載されていた。
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