第30話 なやみのたね
「さて、それを踏まえてどうステータスポイントを振っていくかですけど……」
当初のSTRを増やすという目的はパーになったので、改めて考える必要がある。
LUCにある程度割くのは決定事項として、私は何を伸ばしたいと思っているのだろうか。
「LUCだけというのは絶対にいつか困ると思うよ。VRMMOなら生存手段としてHPか足は必須だから、VITかAGIには多少振っていくべきね」
「ですね!敵のモンスターもどんどん強くなっていきますし、一緒に狩りをするのもゆきひめさんが貧弱すぎると安心できませんから!」
「この子の言うことはともかく、街を移動したりべにいもちゃんの餌を取りに行ったり、どんな遊び方をするにしても街の外に出なきゃいけないのはほとんど確定だから、その時にすぐやられてしまわないための生存性能は大事よ」
「なるほど」
たしかにそれはエリーナの言うとおりだ。
VITに振ればHPが高くなって、モンスターから攻撃を受けても耐えられるようになり、ついでにスタミナも増えるので長距離の移動とかも楽になる。
AGIに振れば足が速くなって、攻撃を避けたりモンスターから逃げたりすることができる。実際には足だけではなく、動体視力とかも強化されるらしい。それはもちろん現実の自分の脳みそによるものを超えることはできないが、AGIの値次第で物体の動きや音といった五感に与えられる情報が早くなったり増えたり正確になったり、そういった恩恵があるそうだ。つまり、AGIの高いメノと1の私ではこの世界の見え方(物理的な意味で)が実際に異なっているということである。
「メノさん理論で言えばAGIですよね。でも、私運動神経とかには自信がなくて……」
「それならVITでいいんじゃない?他のステータスで得する分で十分補えてるでしょ」
「というか、全体的に得する量が多いというか、かなり壊れ種族じゃないですか?」
「そうね……正直、うらやましいわ」
私も二人と全く同じ考えだ。
いくらなんでも恩恵の方が大きすぎるし、今後ステータスポイント周りの仕様で想定していない変化が訪れるかもしれない。
例えば、今はもらえる量が他の種族は2で私は3だが、それが他の種族は3で私は4とかになっていくとか。
なんてことを言ってみると、二人も納得を示した。
「それ、結構いい線行ってそうね」
「なんかその通りになりそうな気がします!」
「といってもそんなぽんぽんもらえる量が増えたりはしないと思うから、せいぜい普通の種族が5とかが頭打ちじゃない?」
その辺の感覚は私にはわからないが、VRMMOの経験が豊富なエリーナがそう言うのならその感覚が正しいのだろう。
となると、そこまで行ってしまうとDEXでも若干損くらいなわけだ。
「どうなろうと1多いっていうのが固定ならINTにアドバンテージがあるのは変わらないですから、私だったらガンガンINTに振っていきますね!」
「私もそこは同じね。STRとINTに差がありすぎて、もはや迷う余地すらないでしょ」
「攻撃に関係するステータスはその二つだけなんですか?」
「基本的にはね。でも、固定ダメージ系のスキルとか、他のステータス・武器のステータスなんかでダメージ計算を行うスキルとかもあるはずだから、火力をそっちのスキルに絞る前提でSTRもINTも捨てるっていう選択肢もなくはないかな」
「なくはない、ですか」
わざわざそういう言い回しをするということは、基本的にはその選択肢はなしということだろう。
このゲームは、色んなプレイヤーと一緒にモンスターと戦うゲームという認識で始めたゲームだ。なので、当然私にもモンスターと戦う気はある。
たまたま種族的な意味でこれまでずっと戦いは任せきりできたが、そろそろ自分の力でもモンスターを狩っていきたい。そうなると、INTに振るのが一番現実的なのだろう。
そしてそんな考えに至っていた私の背中を押すように、エリーナが補足説明をした。
「このゲームでもそうだと断言はできないけど、本来INTっていうのは魔法攻撃力だけじゃなくて魔法防御力とかMPにも影響するステータスよ。それに、魔法攻撃力っていうのも単純に言葉まんまの意味だけじゃなくて、例えば回復スキルの回復量とかバリアを張る魔法の耐久力とか、そういう魔法系スキルの色んな効果に影響を及ぼすからあって得をする場面は多いわ」
「なるほど……ちなみに、DEXはどうなんですか?」
「うーん……」
私の問いに、エリーナは即答せずに考え込んだ。
その行動が示す結果は、一つである。
「LUCと同様に、まだよくわかってないのよね。意味的には器用さだけど……」
「あいまいですね」
「そうね。それも従来のMMOなら命中率とかそういう感じだったけど、VRMMOだとそういうところはプレイヤーの実力で決まるからね」
「なんか、私は他のステータスのどれにも当てはまらなそうなのがDEXに集められてるってイメージです」
「私もそんな感じかも。あとは、武器の装備に要求されることが多いイメージね」
「そういえば、DEX値で装備できる武器の数が増えるゲームもありましたね!」
ゲーム次第で最もブレ幅が大きいステータスのようだ。
つまりこのゲームでのDEXの立ち位置はまだよくわかっていないようで、ガチ勢ほどひとまずは触らないで様子見状況らしい。
「うーん、よくわからないといわれると、不思議な魅力がありますね……」
生憎と私はそこまでこのゲームに入れ込んでいるわけではないので、他の人が様子を見ているといわれると非常に好奇心が湧いてきてしまう。
DEXはマイナス補正組の中では一番マシなステータスだし、これに振るのも悪くない。
つまり、私が振りたいと感じているステータスは……LUCは確定であとINTとDEXとVITかAGI。
いや、ほぼ全部じゃん。てか最初はSTRに振りたいって話だったし、ほぼというか普通に全部じゃん。
これが噂に聞くMMOの一生尽きない悩みの種というやつか。
「ふふ、ゆきひめちゃん、そんなに悩ましい?」
「え?まあ……そうですね」
何がおかしいのか、悩む私を見て笑みを浮かべるエリーナ。
私は不快というよりは困惑といった感じの視線でエリーナを見つめると、エリーナは微笑んだまま謝罪の言葉を口にした。
「ごめんね、嫌だった?」
「いえ、急にどうしたのかなと」
「あー、そういうこと。なんか、VRMMOを始めたての頃のことを思い出しちゃって」
「始めたての頃ですか?」
どうやらメノにはエリーナの言葉にピンとくるものはなかったようで、コテンと首を傾げた。
「まあメノにはそういうことがなかったのかもしれないけど、私も最初の頃はレベルが上がるたびにステータスの振り方に悩んでたなあって」
「なるほど……私は最初からずっとVITAGI型です!」
「ブレないわね。ていうかそんな型あんた以外に聞いたことないし」
なんでも、耐久力という面に関して中途半端にVITを振るのはあまり強い振り方ではないらしい。
なので、VITに振る人はほとんど全部のポイントをVITにつぎ込み、そうではない人は最低限で済ませるのが主流なんだとか。
それに、VITとAGIの共存は、耐久力を考えるとどうしても重量の高い防具を着込むことになりAGIが無駄になってしまい、逆に軽装備で済ますなら全部躱すのを狙う方が良いのでVITは最低限でAGIを極めた方が圧倒的に良いのであまり相性が良くないのだそうだ。
「まあそんな話は置いておいて、ここはVRMMOの先輩としてアドバイスをさせてもらうね。悩むのも大事だけど、ちょっとここで長時間悩まれるのはアイテムの消費が激しいし」
「あ、そうでしたね。すみません」
私は毒状態にならないので関係ないが、二人は定期的に解毒ポーションと回復ポーションを飲まなければならないのだった。
二人のためにも早く決めねばと、私は真剣にエリーナのアドバイスに耳を傾けた。
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