第25話 ぽいずんすらいむのへんか




「……ゆきひめちゃん、何してるの」


 どうやら前から来たポイズンスライムは倒し終えたようで、こちらへとやってきたエリーナがそんな私たちの様子を見て呆れたような声を出した。

 一方でメノはポイズンスライムから滴る泥を見てトラウマが蘇ったのか、若干青ざめた顔でポイズンスライムのことを見ていた。


「なんだか可愛くなっちゃって」

「いや、そういうことじゃ……まあスライムは可愛い部類だとは思うけどね?」

「それ、攻撃されないんですか?カーソルは赤いままですけど……」

「ん?」


 私の返答がおかしかったのか、まだ変人を見るような視線をこちらへと送ってくる二人。

 まあ、普通ならポイズンスライムには触れないわけだし、そこが原因なのかな。


「ていうか、カーソルがゆきひめさんの顔の目の前にありますけど、邪魔じゃないんですか?」


 そんなメノの言葉だったが、私からは特にそんなものは見えていなかった。


「ん?そんなの見えないけど……」


 ポイズンスライムを少し前に移動させてカーソルを探してみるも、さっきまでは表示されていた赤いカーソルがどこにも見当たらない。

 と思ったら、至近距離過ぎるとカーソルが消えるという仕様なのか、突然ポイズンスライムを頭上にカーソルが現れた。


「あ、今見え……青?」


 突然現れたそのカーソルは、青色のものだった。

 今まで私が見たことのあるモンスターを示すカーソルの色は、緑色と赤色だ。敵対状態ではないモンスターのカーソルは緑色、敵対状態のモンスターのカーソルは赤色。

 では、この青色はいったい何の色なのか。


「青って、カーソルの色のこと?」

「はい」

「ふーん……聞いたことないわね、青なんて」

「私も初耳です!新情報!」


 何かを考え込むエリーナに、興奮した様子のメノ。

 私はどちらかといえばメノ側の反応で、ポイズンスライムを再びギュッと抱きしめた。


「これって、もう友達ってことですか?」

「友達……うーん、どうなんだろう。テイムできましたみたいな通知は来なかったの?」

「テイムですか?」

「そう。モンスターを使い魔としてゲットすることね」

「うーん、来てないと思いますけど……」


 改めて確認してみたが、やはりそんな通知は来ていなかった。

 ということは、ゲームシステム的にこのポイズンスライムとの繋がりを得たというわけではなさそうだ。


「ぷぎー」

「ん?どうしたの?」

「ぷぎっ」


 しかし、ポイズンスライムの私に対する反応が明らかに変わったのは間違いない。それに、カーソルの色が変化するという現象も起きているのだ。


「うーん……あと一歩、何かが足りてないのかな。もしテイムできたりしたら、本格的にネットが大騒ぎになるくらいの大発見になると思うんだけど」

「ですよね!何か色々試してみましょうよ!」

「試す、ですか……」


 色々試すと言われても、何も思いつかない。このポイズンスライムと楽しく暮らす日常ならいっぱい思いつくけど。


「……あ」

「何か思いついたの?」

「いえ、この子のごはんはどうしようと思いまして」

「……もう飼うことは決定しているのね」


 呆れたようにエリーナが言うが、こんなに可愛くて懐いてくれたのだから飼わないという選択肢の方がないだろう。

 このポイズンスライムのために、私はこのゲームの廃人になってもいい。


「うーん、やっぱり毒を食べるんでしょうか」

「そうじゃない?それこそ、そこ毒沼の泥とか」

「毒沼の泥……」


 そういえば、先ほどポーションの空き瓶で毒沼の泥を獲得できたっけ。

 私は早速それを試してみるべく、解毒ポーションを取り出した。


「ゆきひめちゃん?むしろそれはポイズンスライムには逆に毒なんじゃ……」


 解毒ポーションを飲ませようとしていると勘違いしたのか、エリーナがストップをかけてくる。

 だが、もちろん私にもそんなつもりは毛頭ない。


「いえ、こうするんです」

「あーっ!もったいないです!」


 解毒ポーションの中身をその場にぶちまけた私を見て、メノが叫び声をあげる。

 だが、その後空になった瓶を持ち続ける私を見て、今度は首を傾げた。


「あれ、消えないんですか?その小瓶」

「はい。なんか、空き瓶になって残るみたいです」


 ポーションは、アイテムとして使用する(口から摂取して中身を八割以上飲みこむ)と、その空き瓶も同時に消滅する。しかし、中身を捨てた場合は先ほどやってみた通り空き瓶がアイテムとして残るのだ。

 ポーションの中身を捨てるなんてことをしたプレイヤーは私の他にいなかった、もしくはいてもネットとかに書き込みをする人ではなかったらしく、その情報は二人とも知らなかったようだった。


「ふーん、それで、沼の泥をすくうってこと?」

「はい。そしたら、毒泥が入った小瓶っていうアイテムになるんです」

「へー、そうなのね」


 その説明をしながら、片腕でポイズンスライムを抱いたまま残りの片腕を使って実際に毒泥をすくい上げてみせる。

 すると、無事にそのアイテムが完成した。


 ≪毒泥が入った小瓶 双翼の森の毒沼の泥が入った小瓶≫


「本当ね。色々と使いどころが多そうな小技だわ」

「早速投稿を!」

「ちゃんと発見者に許可を取ってからね」

「構いませんよ。どうせ近いうちに誰かが見つけるでしょうし」


 一応一旦は二人に伏せてみた情報だが、こんなことは些細なきっかけで誰でも気が付けることだろう。実際、私もそうであったのだ。

 今はそれよりも、この泥をポイズンスライムが食べてくれるのかということの方が大事である。

 私は早速、その毒泥が入った小瓶をポイズンスライムの口へと運んでみることにした。



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