第23話 めののいくせいほうしん



 メノがせわしなく動かしていた手を止めると、そのまま次の話題を切り出した。


「そしてレベルが8になったので、スキルが解放されました!」

「ようやくね」


 確かに移動中から大狼を倒していたことを踏まえるとかなり時間がかかっている。

 そもそもメノは渡脚たちと合流した時点で7レベになってから相当な数のモンスターを倒してきていると言っていたので、それも加味するとレベルアップに必要な経験値が二次関数的に増えてきている。

 7から8の時点でこれだけの増加率って、この先はいったいどれだけ時間がかかるというのか。


 そして、私とエリーナが出会った時点で既に7レベだか8レベまで到達していた人はいったいどんなバーサーカーなのか。効率求めすぎでしょ。


「スキルの仕様はもうネットで色々出回ってますけど、やっぱり自分で触れてこそですからね!」

「そういえばゆきひめちゃんにはまだ話してなかったっけ?」

「そうですね」

「それなら私が解説しましょう!」


 私のレベルが8まで到達するのはいったいどれだけ先になるのかわからないが、知っておけばレベルを上げようとするモチベーションに繋がるかもしれない。

 それに、スキルというのはこのゲームの重要な要素の一つだろう。私は頭を切り替えて、メノの言葉に耳を傾けた。


「スキルというのは、簡単に言えば技ですね!ゆきひめさんはRPGゲームをプレイしたことはあるんですよね?」

「はい」

「それなら、相手を攻撃する時に通常攻撃か何かしらの攻撃技を使うか選ぶじゃないですか。あれで例えると、今まで私たちがやっていた攻撃が通常攻撃で、スキルは攻撃技というわけです!」

「なるほど」


 そういったRPGでは、技を使うとスタミナやそういった感じのものを何かしら消費する代わりに、通常の攻撃よりは大きなダメージを与えたり何かしらの追加効果が発生したりする。

 このゲームでも、スキルを使えば何かしらを消費する代わりに何かしらの効果があるということだろう。まあ、そのくらいは言われなくとも察することができたが。


「それでですね、VCSではスキルを自由に取得・カスタマイズできるんですよ!」

「カスタマイズ?」


 私のやっていたようなRPGゲームでは、そういったものは効果が固定のものだった。

 なので、こういう技があったらいいなーなんて考えたりしたこともあったが、このゲームではそれが叶うということだろうか。


「まず、スキルの取得ですね!これは、スキルツリーと呼ばれる形式となってます!」

「スキルツリー?」

「はい!最初は取得できるスキルが少ないんですが、とあるスキルを取得するとそこから派生してそれと似たような系統のスキルがいくつか解放されて、そこからどんどん枝分かれしていくように獲得可能なスキルが増えていくんです!」

「なるほど」


 だからツリーというわけか。


「実際には、取得だけじゃなくて強化することも次のスキルの解放条件に含まれていたりもしますね。ちなみにこのゲームでは、その強化にあたる部分にカスタマイズ性が織り込まれていて、そのカスタマイズ方針も条件に含まれてます!だから、ものによってはこちらの分岐を解放するともう片方は二度と解放できなくなったりもするみたいですね。なんなら最初の分岐からそんな感じらしいので、そういった取捨選択は常に迫られそうです」

「その、カスタマイズというのは?」

「はい!そもそもVCSではスキルの強化は実際にそのスキルを何度も使用することでスキルレベルが上がって強化されていくというシステムなのですが、そのスキルレベルが上がった際にどういった点を伸ばすのかを自由に選ぶことができるんです!例えばファイアーボールという魔法なら、威力を高めるのか、詠唱時間を減らして速射性を高めるのか、使用後硬直を減らして連射性を高めるのか、消費MPを減らして燃費をよくするのか、魔法の消滅距離を増やして射程を伸ばすのか、といった具合ですね!」

「……色々ありますね」

「範囲魔法とかならそこに効果範囲とかも増えますし、強力なスキルになればなるほど選択肢が増えそうですね!そしてその強化回数の合計には制限があって、それら全てを最大まで強化することはできません!」


 メノの話では、ファイアーボールならば一つの最大強化を100%まで強化するという風に言い換えると、先ほどの五つを合計で160%くらいまで強化できるらしい。そして、ステータスと同じように強化ポイントの振り直しはできないとのこと。

 そしてその分岐先の解放条件がそれぞれの五つに対して50%まで強化を伸ばすというものなので、最大でも三つまでしか解放できない。そして解放先のスキルは解放条件を満たしてからしかどんなスキルか判明しないようなので、ここら辺は先行プレイ勢と正式リリース後に開始するプレイヤーとの差を埋めるための後からやる方が有利な要素の一つとなっているのだろう。


「それで、メノさんはどんなスキルを取ろうと思っているんですか?」

「そうですね……最終的に欲しいスキルとかは考えているのですが、それがどこのツリーに埋まっているのかわかりませんからね。まあ、系統的に考えるとこの『クラッシュ』ですかねー」

「『クラッシュ』?」


 クラッシュ。破壊。何やら物騒なスキルだが、物理攻撃系のスキルなのは明らかだろう。

 そしてメノの説明と合わせると、『クラッシュ』というのは威力低めの攻撃+相手の防御力をダウンさせるというスキルのようだ。クラッシュという割に威力は低いのかと思ったが、相手の防御を崩すという意味でクラッシュなのだろう。


「メノはほんとデバフ系好きよね」

「デバフは最強ですから!」

「デバフ?」


 聞きなれない言葉を聞き返してみると、どうやら弱体効果のことをデバフというらしい。逆に、強化効果はバフなんだとか。まあ、言葉の意味的にはデバフの方が逆側の立場ではあるのだが。


「そういえば、弱体効果とかを付与するのは魔法っていうイメージがありましたけど、そうでもないんですね」

「いや、基本的にはその認識で間違いないわよ。ただ、デバフ付きの攻撃にもメリットとデメリットがあるから、状況次第でどちらが適解なのかは変わってくるわね」

「私は断然にデバフ攻撃派です!一度で二度おいしいんですから!」


 なんてメノの冗談はともかく、基本的には魔法のデバフの方が効果は強いらしいが、例えば魔法無効の相手だとデバフ魔法は無効化されるがデバフ付き攻撃ならデバフを無効化されずに付与できるとか、威力低めの攻撃といえどデバフが重なって防御力の減った敵なら相当なダメージが期待できるとか、例えば一度攻撃を無効にするみたいなダメージを与えることで何かしらのギミックが解除されるような敵ならデバフを付与しながらそのギミックを解除できるとか、色々とそのデバフ付き攻撃が刺さる状況も多いらしい。

 が、刺さる状況が多いという表現をされるあたり、基本的にはやはり純粋なデバフ魔法の方が強いのだろう。


「それでも私はこの道を突き進みますよ!むしろ、対人戦ならこれが強いと思ってます!」

「そうなんですか?」

「はい!対人戦なんていうのは、人の嫌がることをするのが一番強くて、一般的には数が少ないからあまり対策を用意しない戦略とかが良く刺さるんですから!」

「確かにそういう意味では最強よね。VIT振りで硬いくせに種族的な高水準のAGIでちょろちょろ動き回られて、やっぱりVITが高いからスタミナも無尽蔵。火力はあまりないけど、基本的なデバフ魔法対策では通じないデバフ付きの物理攻撃をしてくるからうざくて無視もできない。ていうか、もっと言えば天使族ってSTRよりINTよね?中途半端な物理耐久じゃデバフで崩されるけど、ガッツリ物理耐久を盛ると今度は魔法攻撃で攻められるって思うとほんと厄介だわ」

「えへへ、ほめても何も出ませんよ!」

「ほめてはないけど」


 エリーナのわかりやすい解説で、なんとなくメノの目指すところを理解できた。

 相当嫌われそうな戦い方だが、元気いっぱいなメノのイメージ的にはたしかに合っているのかもしれない。


「あとは、ヘイト系のスキルですね。こっちは狩りのために必要ですから」

「そうね。メノがヘイト取ってくれれば、安心してゆきひめちゃんも同行できるわ」

「ヘイト……」

「敵の攻撃対象を自分に吸い寄せる攻撃のことよ」

「なるほど」

「残りは後でじっくり見てから考えます!」


 MMO、用語が多すぎない?

 それらをいちいち聞き返す私に笑顔で答えてくれるエリーナには感謝しかない。


 と、そんな感じでメノが無事にスキルを習得したので、ようやく私たちの毒沼エリアの探索が始まったのだった。


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