第22話 めののほうこく
「うぅ……最悪な体験でした……」
「えと、すみません」
「いえいえ、得たものもあったので平気です!」
一息つくために一度森の方まで退避した私たちは、そのメノが得たというものの報告に耳を傾けていた。
「まず、これはちょっと……いや、なかなかに不名誉なことなのですが……」
「不名誉?」
メノの前置きに、エリーナがオウム返しをする。
「はい。何と言いますか……『毒好き』なる称号を獲得してしまいまして……」
「『毒好き』って……」
「獲得条件は、戦闘以外が原因の猛毒状態になるのを短期間で三度繰り返す……だそうです」
「うーん、まあ、確かにその条件は満たしてたね」
好き好んでというわけではなかったので『毒好き』という感じではないと思うが、条件は満たしていたので獲得できてしまったのだろう。
称号なんて手に入れて損があるものではないので入手し得だが、不名誉といえば不名誉だ。
「ですが、そのおかげで大きな発見もありました!」
『毒好き』の話から打って変わって、テンションを上げるメノ。
「なんと、その称号を獲得したと同時にレベルが上がったんですよ!つまり、称号を手に入れると経験値がもらえるということです!」
「ふーん……確かにそれは大きな発見ね」
エリーナ曰くメノが言ったような話の報告は未だになく、称号は今のところ転生やジョブを手に入れる際に必要なものという認識で広まっていたそうだ。
もちろんそれも確認済みの話なようで転生やジョブを手に入れる際に必要だというのは変わりないが、経験値がもらえるというのならそれらに必要のない称号も集める意味が生まれるとは思う。が……
「でも、今までそういう報告がなかったってことは大した経験値はもらえないんじゃないですか?」
気になるのはここだ。
まだプレイしてないという人もいると思うが、このゲームがそんなプロとかもある大規模な大会とかを想定して作られたゲームなら、先行プレイ権を持つ五千人はほとんどが本気でやりに来ている人だと思う。
そんな人たちが五千人もいて、すでに数時間以上プレイしているという状況の中での新発見なら、今まで称号を獲得した人がその際にレベルアップしたという報告はなかったということを指し示してもいる。
私は称号獲得の際にもらえる経験値が多いのならばそれに矛盾するので逆に少ないのではと思ったのだが、その考えはエリーナに否定された。
「そもそも、まだ称号の獲得自体報告が少ないのよ。それに、むしろそういった情報は発見しても秘匿する人が多いと思うわ」
「そうなんですか?」
「ええ。VCSはプロを想定して作られてるから。情報はなるべく仲間内だけで共有したいと思ってる人が大半だと思う」
「……二人は違うんですか?」
エリーナが何故このゲームをプレイしているのかはまだ聞いていないが、メノはプロを目指していると言っていた。
しかし、二人とも手に入れた情報をネットに流すという旨の発言をしていた気がする。少なくとも、メノは嬉々としてネットに流そうとしていた。
「私は個人勢ですので!共有する仲間がいないですし、まずは名前を売りたいのです!」
「んー、私は黙秘ってことで」
ミステリアスに微笑むエリーナ。
その口ぶりは情報の取り扱いがどうでもいいことだと思っているわけではないということを滲ませており、むしろその辺は彼女にとって大事なことのように思えた。
「とにかく!私は早速このことを報告してきます!」
メノはそう言って宙に向かって文字を打ち込みだす。
他人が表示しているウィンドウは他のプレイヤーからは見えないので彼女が何をしているのかはわからないが、掲示板かブログかその辺りで報告するための文章を作っているのだろう。
エリーナも彼女自身で発見した情報の取扱いに関しては口を出す気がないようで、その様子をただ見守っていた。
(うーん……私もそういう情報の扱いとか気を付けた方が良いのかな)
思い返されるのは、ジムとのやり取りだ。
あの時の私は他のプレイヤーになんて興味がなかったし、他のプレイヤーも私と同じ感覚だと勝手に思い込んでいた。
だがその後エリーナと出会ったことで、私がユニーク種族や極致称号のことを包み隠さずジムに話し、それを彼がネット上で話してしまったことで不要な注目を集めていたということを知った。
そもそもジムに教えなかったか、あるいはジムに他言無用だと釘を刺しておけば、そういった事態には繋がらなかったのかもしれない。今回に限っていえばそれがエリーナとの出会いに繋がったので良かったのだが、そういった事態は時に余計なトラブルも巻き込んでくるだろう。
そして私は、すでにエリーナに聞きたいなと思っていたことがいくつかあった。
核のことや、毒蜥蜴の卵のこと、ポーションの空き瓶のこと。
しかしそれらのことを聞くということは、私から見たそれらの情報をエリーナに明け渡すということだ。エリーナは私に良くしてくれているのでそれなりに信頼はしているが、まだ出会って数時間なことに変わりはなく、警戒心が全くないというわけではない。
(んー……まあ、わからないっていうのもゲームの楽しさの一つだよね)
わからないことはエリーナに聞いて解決するという方針でここまでやってきた私だが、このゲームを始めた当初の気持ちを思い出し、それらのことは詳細不明のまま私の中で温めておくことにしたのだった。
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