第15話 どくぬまえりあ


「そういえば、メノさんはどんな所から始まったんですか?」


 グリーシャの街から双翼の森を目指して移動を開始した私たちは、今更スライムを狩っても大した経験値は入らないので適当な話題を探してはぽつぽつと会話をしながら足を進めていた。


「天空都市フェルンって所です!上空を移動しているようで、今はちょうどグリーシャの北辺りを飛んでたのでエリーナさんと合流出来た感じですね!」

「天空都市……どうやって行くんだろう」

「さあ……私も羽があるとはいえ飛べるわけではないので、もう戻れません!」


 笑いながら言うメノだが、本当に笑い事でいいのだろうか。


「街を見て回ったりはしたんですか?」

「そうですねー、少しは見て回りましたが、大したものはなさそうだったのですぐに飛び出してしまいました!最初の街はどこも同じ感じらしいです!」

「ふーん」


 それは残念だ。

 天空都市なんていうからもっとすごそうな場所を想像したのだが、そうではないらしい。

 だが、天空都市なんてものがあるということは、きっと他にもそういう場所があるはずだ。むしろ他の天空都市もあるかもしれないし、冒険心をくすぐられたのは間違いない。


「あ、そういえば!」


 私が先のことを考えて期待に胸を膨らませていると、突然思い出したようにメノが声を上げた。


「私のレベルが今7で、7に上がってからもだいぶ狩りをしたのでそろそろレベルが上がると思うんですよ!毒沼エリアに行く前に少し狩りをしてスキルを解放してから行きたいです!」

「りょーかい」

「天使族の基本スキルだとタンク系のスキルがないので、現状ではゆきひめさんを守れませんから!」

「わかりました」


 タンク系のスキルと言われても、MMO初心者の私はピンとこなかった。

 だが、ドロップ率の検証という意味では新たなエリアに挑戦する前に確かめておく方が確実だと思うし、私はこのゲームの攻略を急いでいるわけでもないので、特に問題はない。


「それじゃ、どの道まずは大狼ね。戦える人が二人いればちょっと無茶なやり方もできると思うけど……あそこも人が増えてきたらしいし、あまり迷惑なことはできないね」

「そうですねー。反感を買うと後が面倒ですからね」


 他のMMOについては知らないが、少なくともこのゲームでは頭上にプレイヤーネームが晒され続けている。

 なので、どんなに装備やなんやで顔を隠そうが、名前を隠すことはできないのですぐに正体がバレて名前が流出してしまう。迷惑行為の抑止力としては、十分なものだろう。

 特に、このゲームに人生を賭けているような、スポンサーとの契約を狙っている先行プレイ勢にとっては致命的だ。


「ちなみに、その無茶なやり方というのは?」

「そうだねー、例えば大きな音とか匂いを放つアイテムとかでモンスターを呼び寄せるとか?」

「範囲攻撃を乱発して手あたり次第攻撃してみるとかですね!」

「なるほど……」


 確かに、そんなことをしたら他のプレイヤーの迷惑になってしまう。

 しかし、先ほどの大狼狩りの時の大狼との遭遇率と、パーティーメンバーが増えたこと、そして同じところで狩りをする競合相手も増えているということを考慮すると、何の作戦もなしに行っても成果が乏しくなってしまうのは明らかだろう。


「うーん……まあ、まずは行ってみて状況を把握してからじゃないと悩んでも仕方ないかな?」

「はい!それに、人が増えてるといってもようやくここに足を踏み入れた人がほとんどでしょうし、奥の方ならまだ大丈夫かと!」

「そうかもね」


 そんなわけで、ひとまず私たちは毒沼エリアに近いところまで行ってみてから考えることにした。




「さてと、ここまで来たけど、レベルは上がらなかったわね」

「はい……それに、モンスターもあまりいませんでしたね」

「ですね」


 無事に毒沼エリアの目の前まで到着できたのはいいが、その道中で大狼に遭遇することはあまりなかった。

 その数回の戦闘での感想だが、ドロップ率に関してはメノ曰く「上がってる気がします!」とのことで、対してエリーナは「こっちは何も落ちなかった」とのこと。まあ、数回の感想じゃサンプル数不足過ぎて意味ないけど。


 そんな状況を踏まえて、エリーナがある提案を出す。


「こうなったら、毒沼エリアのいつでもこっちに逃げれるくらいのところで狩る?」

「あそこは何が出るんでしたっけ?」

「今のところ確認されてるのはポイズンスライムとポイズンマジシャンかな。スライムは体当たりの他に毒のブレスと毒の弾を飛ばす魔法を使ってくるらしいね。マジシャンは多分地属性系の範囲魔法を使ってくることだけ確認されてる」

「マジシャンはともかく、スライムなら何とかなりそうですね」

「あ、スライムの方は武器の耐久値をすごい勢いで削ってくるんだって」

「じゃあそっちも辛いじゃないですか!」


 流石は次のエリアとでもいうべきか、どちらも厄介そうなモンスターだ。大狼とは比べ物にならないだろう。

 だが、冷静に考えてみるとエリーナは大狼複数相手を基本ノーダメージで狩っていたわけで、そのくらいでないと次のエリアとしては相応しくないのかもしれない。


「そういえば、ずっと毒沼エリアって言ってますけどそういう地名なんですか?」

「そうだね。正確に言えば、双翼の森の毒沼エリアって感じ」

「なるほど」


 てっきり森を抜けて別の場所になるのかと思っていた。


「今のところはまだ予想の段階なんだけど、毒沼エリアをある程度探索した人曰く毒沼エリアの形が二枚の翼に見えるから双翼の森って名前なんじゃないかって話があるわ」

「となると、このエリアに何かお宝が隠されてそうですよね!」

「たしかに。地名の由来になってるなら何かしらありそうですね」


 目を輝かせるメノと、内心のワクワクを隠しきれていない私。

 エリーナはそんな私たちを見て、困ったように微笑んだ。


「それじゃ、まずは気兼ねなく探索できるようにレベル上げからね」

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