第14話 てんし、めの
「えーっと、そういうのに参加するつもりは今のところないんだけど」
というかそもそも、LUC以外が1なのだ。参加しようと思ったところで無理だと思う。
「もちろんわかってます!いや、もしよかったら一緒に参加も検討してくれると嬉しいんですけど、本題はそうじゃなくて、私のキャラ育成に力を貸してほしいんです!」
「あー」
例のドロップ率がどうとかの話をエリーナから聞いて、それを頼りたいという話か。
それならば、私としてもメリットがあるので断る理由はない。が……
「それは構わないんですけど、専属っていうのはちょっと……」
私がそう言うと、その言葉を待ってましたとばかりにエリーナが口を挟んできた。
「だから言ったでしょ。ゆきひめちゃんは初心者なんだから、まずはゲームとして自由に楽しみたいだろうって」
「むー!でも、他の人との差を付けたいじゃないですかー!」
随分と素直な子だ。
とはいえ、そもそもその根本を確かめようということで今ここに集まっているわけである。まずはその検証が先だろう。
「とりあえず、そのLUCとドロップ率の話を先に確かめてしまいませんか?もしかしたら、間違いってこともありますし」
「そうだね。ここでうだうだ話していても時間の無駄だし」
「たしかにそうでした!早くレベリングに戻らないと!」
メノはこのゲームにガチになりすぎて、もはやボーっとしていると他のプレイヤーに抜かれてしまうという強迫観念を感じていそうだ。
まあ、大学を辞めてまでこのゲームに賭けてるならそうなっても仕方ないのかもしれないが。
「そういえば、メノさんの種族はなんなんですか?一見ただの人間に見えますけど」
「おっと、その説明がまだでしたね!」
メノはそう言って両手を合わせると、瞑想するようにして目を瞑った。
すると、メノの背中から大きな羽が生えてくる。
「改めまして!私は天使族のメノです!なんとレジェンドレアですよ!」
「……なるほど」
だからテンションが上がっているのか。
人生を賭けたガチャでレジェンドを引ければ、それは誰でもテンションが上がって然るべきだろう。
ちなみにメノは純白の天使をイメージしたキャラクリをしたようで、白髪のボブに可愛い寄りの顔つきだった。
「初期値だとAGIがかなり高めで、次点でINT、DEXって感じでした!今はVITメインにステ振りしてます!前衛はお任せあれ!」
「メノは何のMMOをやってもタンクをやりたがるからね。またVITに振ってるんだ」
「もちろんです!敵から狙われるのが一番ヒリついて楽しいですから!」
私にはよくわからない感覚だが、まあ楽しいと感じるものは人それぞれだろう。
「あ、そうだ!フレンド登録をしておきましょう!」
「りょーかい」
「ゆきひめさんもぜひ!」
「はい」
フレンド登録をして、そのままメノがパーティーに参加する。
メノはフレンド登録の流れからそのまま何か連絡だか調べ物だかを始めたようで、両手をせわしなく動かしながら口を開いた。
「そういえば、ゆきひめさんは普段いつ頃INできるんですか?」
「IN?」
「このゲームをプレイするという意味です!」
「あー、いつでもできるよ」
「ほう!」
目を輝かせるメノに対して、エリーナはやれやれという表情を浮かべた。
「そんなこと言ったら、この子にずっと付き纏われちゃうよ?そこは嘘でも一日一時間くらいって言わないと」
「嘘はいけません!それに、もうフレンドなんだからINしてればわかるんですから!そうだ、何かSNSとかはやってないんですか?」
「初対面で距離詰めすぎ。それ以上は禁止ね」
「うぐっ、すみません……」
暴走気味のメノに、エリーナがストップをかける。
見た目と喋り方からそこまで不快感を感じないのは、VRMMOのよくないところかもしれない。基本的に全員が美男美女だから、気を許しすぎないように気を付けないとずるずると抜け出せない関係になってしまいそうだ。
「それじゃ、狩りに行こっか。また大狼のところでいいかな?」
「はいはい!私は更にその奥に行くことを所望します!」
懲りないメノは、怒られたばかりでも全く遠慮する様子を見せずに主張してきた。
「奥って言うと、毒沼エリアだったっけ?敵の行動パターンも増えてて大変そうだからってまだまともに攻略してる人いないんでしょ?」
「はい!せっかくなら、未踏の地を冒険したいじゃないですか!」
「ん、それはわかります」
ゲームといえば、冒険だ。
事前に情報を掴んでいるエリーナとの狩りも楽しかったが、やはり知らない場所や敵に挑むというのはゲームの醍醐味だと思う。
十年前にゲームをやっていた時はそれを楽しみにやっていた記憶があるので、少なくとも私の中ではそういうイメージが強い。
「まあ、二人がそう言うならそれでいっか。デスしても拗ねないでよー?」
「もうそこまで子供じゃありませんよ!ていうかむしろ、この時点でのデスはアドまであります!」
「いや、それはないでしょ」
年季を感じる二人のやり取りを眺めながら、私は微笑みを浮かべるのだった。
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