第13話 ぶいしーえすのいみ



「ゆきひめさん、私と専属契約をしませんか!?」


 エリーナの友達とやらの第一声は、そんなぶっ飛んだものだった。

 そんな第一声を受けて、エリーナがmenoと頭上に書かれたその人の頭をガシッと掴む。


「メノ?失礼のないようにって言ったよね?」

「痛い痛い、エリーナさんタンマタンマ!」

「まずは自己紹介でしょ?」

「いえっさー!」


 エリーナの鷲掴みから解放されたメノが、改めて私に頭を下げる。


「いきなり失礼しました!私はメノっていいます!」

「ゆきひめです」

「はい!私と専属契約をぜひ!」

「えっと……」


 何の話なのか全く分からない。

 目を輝かせるメノに戸惑ってエリーナに視線を送ると、エリーナはため息をついてその説明をしてくれた。


「この子はね、このゲームに人生賭けてるのよ。大学まで辞めたとか言っててね……」

「人生?このゲームで食べていけるんですか?」


 そういえば、賞金のある大会が開催予定なんだっけ。

 しかし、そう簡単に優勝を狙えるようなものなのだろうか。


 そんな私の疑問に答えるように、メノが意気揚々とこのゲームのことを語り始めた。


「それはもちろん!VCSは今最も注目されてるゲームで、レーティング形式のプロ大会が開催される予定なんです!既に企業がスポンサーについてる人とかもいて、この先行プレイ権だって二百万が相場だったんですから!」

「二百万?二百万円で取引されてたってことですか?」

「そうですよ?ゆきひめさんも買ったんじゃないんですか?あ、もしかして当てたんですか!?あの凄い倍率の抽選を!」

「私はもらったので」

「もらった!?」


 街中のおばあちゃんからね。

 あのおばあちゃん、一体何者だったんだろう。


「私はもう親に頼み込んでお金を借りて……って、そんなことはどうでも良くて!」

「いやいや二百万って相当じゃないですか?そんな価値があるとはとても……」


 先行プレイ権だって、せいぜい半月だけ先にプレイできるというものだ。

 いくら大会が開かれるからと言って、そんな二百万とか……五千人限定らしいし、全部で百億円動いてる計算になるけど……


「いやいや、大会の形式を聞いたらゆきひめさんでも納得できますから!」


 そんな事を言うと、メノは身振り手振りを交えてその大会の説明を始めた。


「わかりやすく例えるなら、テニスとか競馬みたいな感じって言われてるんです!レーティングの参加権を得るためにはまず新人限定大会で優勝する必要があって、その新人限定大会は毎週末土日に三回ずつ開催されて、その時点でもう優勝賞金が三十万あります!」

「三十万?」


 それは大金だ。

 しかし年間で三百人しか通れない道だと思うと、そんなものなの……かも?


「そして新人限定大会で優勝するとレーティング大会に参加できるようになって、レーティング大会になると賞金がもっと大きくなっていきます!今最前線で走ってる人たちは、二週間後に開催されるチャレンジャーズカップを目指してる人がほとんどだと思います!」

「二週間後?それって参加者足りるんですか?」

「はい!この先行プレイ期間はレーティング参加者を最低限揃えるためだって言われてて、四日後の金曜日の深夜24時の時点でレベルが上位5%だった人は自動的にレーティング参加権を得て、そのレベルによってレーティングが自動分配されるらしいんです!だから、ひとまずはそこが目標ですね!そこに漏れたとしたら、もう気合で新人限定大会を勝つしかありません!」

「なるほど」

「そしてなんと、チャレンジャーズカップの優勝賞金は、千五百万です!」

「千五百万」


 運営はどこからそんなお金を捻り出しているのだろうか。

 なんて質問をしてみると、メノは得意げな顔をした。


「今はVRMMOも一大スポーツとして世界中で大人気ですからね!現場で観戦しようと思うと席代が数万とかしますし、大会のスポンサーになれば宣伝効果とかもすごいですし」

「ふーん」


 そもそも私はスポーツ観戦をあまりしたことがないので、その辺の感覚はよくわからなかった。

 今の時代、ニュースとかもAIが勝手にその人が興味なさそうなニュースは弾いてくれるので、あまり触れない文化にはとことん疎くなってしまう世の中なのだ。


「でも、ゲームでそんなお金が動くってどうなんですか?ゲームって結局運が良い人と悪い人で差が生まれちゃいますし……それこそ、私みたいにユニーク種族を引けるとか引けないとか」

「だからこそですよ!差があるからこそ、そこをどう埋めるのかと盛り上がるんです!それに、色んな形式の大会が開催されますからね。自分の得意な土俵で戦いたいなら、自分に合う大会を選択していけば問題ありません」

「色んな?」

「はい!個人戦とか団体戦とか、ルールもいっぱい用意されてます。形式としても、レベル統一戦とかスキル選択戦とか、とにかく色々あるんです!もちろん一番の目玉は、コアスクランブル戦ですね!」

「コアスクランブル……」


 そういえば、このゲームの名前はそんなんだったなと思い出す。

 どうやら、その目玉の大会の名前がそのままゲームの名前になっているようだ。


「コアスクランブル戦っていうのは、三人一チームの十五チームによる制限時間二十分のバトロワ形式で、コアっていうその人のレーティングによって決まるポイントを奪い合うっていうバトルです!このルールだと基本的には倒されてもすぐにリスポーンすることができるんですが、倒された相手にコアを奪われてしまうんです。コアは奪われても失わないんですが、奪われた相手にその分のポイントが獲得されてしまいます。でも、そのコアを奪われた相手を倒し返すことができれば、コアを奪い返して相手に付与されたポイントを無効にしながら一分間のリスポーン時間を与えることができるんです!」

「ふんふん」


 つまり、レーティングが高い人を倒せばいっぱいポイントが獲得できるから、強い人は狙われやすいバトルロワイヤルということだろうか。

 しかし強い人を倒してしまうと逆にその人から標的にされてしまうので、その辺の塩梅はやってみないとわからないかもしれない。

 ……いや、そんな大会に参加する予定は微塵もないのだが。


 メノは説明は終えたとばかりにふんすと息を入れなおすと、再び会話を振り出しへと戻した。


「そこで、私と専属契約をしてほしいんですよ!」

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