第12話 れべるあっぷ
その後もう一匹を自らの手で倒すことに成功した私は、ようやくレベルが2に上がっていた。
ついに努力が認められたということなのだろうか。自分の手で倒したモンスターでレベルが上がるのは、何とも言えない達成感があった。
まあ、99%くらいはエリーナのおかげだけど。
「いやー、危険な目に合ったけど、おかげでついにゆきひめちゃんもレベルアップかぁ」
しみじみとそう言うエリーナは、むしろ私よりも達成感を味わっている表情をしていた。
「おかげさまで……って、あれ?」
「ん?どうかしたの?」
「えっと、ステータスポイントが3あるんですけど」
「3?」
エリーナの話では、レベルが上がった際に得られるステータスポイントは2だったはずだ。
ところが、私の目が腐ってなければそこには3と書かれている。
「えー、なんだろ。種族によってもらえるステータスポイントが違ったりするのかな?」
「運が良いと3もらえるとかは?」
「いや、それはないと思うよ」
なんでもこのゲームは大手ゲーム会社がかなりの力を入れているVRMMOで、賞金つきの大会を定期的に開催することがすでに発表されているらしい。
なので、そういった育成段階の運の色が強い要素はなるべく避けているはずなんだとか。
「じゃあ、種族によって違うんですかね?」
「ラッキープリンセス、ちょっと初期ステータスが弱すぎるしその救済なのかもね?でも、この先もずっと1多いってなったらかなり破格だけど……」
まあ、先のことを予想で語り合っても意味はない。
ひとまずは、この3ポイントをどう振るかという話だ。
「もらえるポイントが多いなら、今からゴリゴリの戦闘ビルドに育てるのもありかもね。とりあえずSTR4にしちゃえば結構武器の選択肢も広がるし」
「うーん、将来のことはともかく、流石に武器くらいは持ちたいですもんね」
当然といえば当然なのだが、STRに振るということでエリーナとも意見が一致したので、早速ポイントを振っていく。
流石に、武器をまともに持てないのは死活問題……すぎ……
「る?」
STRにポイントを割り振ろうとしたら、割り振り結果がこう表示された。
≪STRにステータスポイントを3割り振ると、STR1(1+0+0)→STR1(4+0-3)となります。よろしいですか?≫
いや、よろしくないですねぇ。
私がしかめっ面になったのに気づいたエリーナが、心配して声をかけてくる。
「ゆきひめちゃんどうしたの?STRに振れた?」
「いや、それが……」
事情を説明する。
一番右の数字は種族補正ということだったので、最低値が1なので今までは表記上存在しないように見えていただけで、実際のところは種族的にSTRにマイナス補正があったということだ。
「な、なるほど……どのくらいマイナスなのかはわからないけど、それなら確かにもらえるポイントが多いのも納得だね……」
「でも、ちょっと嫌な予感がするというか……」
まさかと思いながら、他のステータスにもポイントを割り振ろうとしてみる。
その結果、INTだけはかろうじて普通に上がるようだったものの、それ以外のVIT、DEX、AGIはSTRと同様にマイナス補正がかかるようだった。
「INTかあ。スキルが解放されれば魔法も使えるようになるけど、それまでは基本スキルしか使えないしねー……」
スキルというのは戦闘系から非戦闘系のものまで様々なものが用意されているが、レベル8にならないとその機能が解放されないので、それまでは自由に使うことができない。その代わり、種族ごとに基本的なスキルが何個か設定されていて、それならレベル1でも使える……という仕様らしい。
らしいというのは、ラッキープリンセスにはその基本スキルとやらが何も設定されていないから私には関係のない話なのだ。不遇過ぎない?
「とりあえず、マイナス補正がどのくらいなのかも気になるし、一旦温存が良さそうかも?」
「んー、まあ、INTに振ってもまだ恩恵ないし、LUCに振ってもまだ恩恵がわからないですからね。温存……ですねー……」
レベルが上がったというのに、ステータスの成長が一切ないとはこれ如何に。
いや、もしかしたら、内部ステータス的にはHPとか体力とかが上がっているかもしれない。実際、VITの差を考慮しても私の体力のなさはエリーナのそれに比べて異常だし、それがレベルの差だといわれれば納得できる。うん、そう思うことにしよう。
「さて、それじゃあ気を取り直して……ん?」
突然何かに気が付いたような声をあげるエリーナ。
どうしたのかと私がじっと見つめると、エリーナは左手を動かしながら口を開いた。
「んーっとね、友達がそろそろこっちに着くって。もう戻り始めた方が良いかも」
「なるほど。着くってことは、他の場所にいたんですか?」
「そうそう。なんか種族ごとに開始地点が違うらしくてね、それで一緒にやろうとしてた人と合流ができないとかで大変な目に合ってる人も多いらしいよ」
「へー」
それは大騒ぎだろう。
MMOなんて友達と一緒に遊ぶのが売りなのに、それができないんじゃほとんど詐欺みたいなものだ。
まあ、私みたいな人からしたら関係のない話だが。
「私もそれで色々予定が狂っちゃってねー。一緒にやるためだけにやりたくもない種族を選ぶのもちょっと違うし、そこはもう運ってことで諦めようってことになって、なんとか合流できそうなのが今から来る一人だけだったんだよね」
「……」
他人事に思ってすみませんでした。
しかし、開始地点が違ったということはその人はここら辺で見るような種族ではないということか。
「その人はどんな種族なんですか?」
「んー?まあ、それは出会ってからのお楽しみということで!」
「えー」
余計に気になってしまう。
「それじゃ、戻ろっか」
「はい」
まあ、どうせもうすぐに会えるのだ。
エリーナの友達なのだし、悪い人ではないだろう。どんな人が来るのか楽しみだ。
……なんて思った矢先に、エリーナに保険をかけられた。
「えっと、あの子がゆきひめちゃんに失礼しちゃったらごめんね?ちょっと、今テンションが上がってるっぽいから……」
「……大丈夫です」
なんか急に不安になってきた。
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