第11話 あじけない、はつしょうり


 私に攻撃をいなされた大狼は、その勢いのまま偶然後方のちょうどいい位置に生えていた木にぶつかってよろめいた。

 その隙に私はワンチャンにかけて、大狼に近づいて蹴りを入れる。


「てゃっ!」


 ぽすっと大狼の腹部に入った私の蹴りは、毛皮に勢いを殺されてダメージを与えるどころかその衝撃を相手の肉に伝えることすらできなかった。


「くぅ?」


 大狼が、何かしたか?と言わんばかりに首を傾げてくる。

 このゲームのモンスター、なんか煽りスキル高くない?


「この……舐めるなっ!」

「ぎゃっ!」


 今度は、相手の顔に蹴りをかます。

 流石に顔の守りは甘いようで、大狼は身体のバランスを崩すとまではいかなくとも少し後退るくらいにはダメージを受けたようだった。


「手ごたえあり!」


 もしかしたら少しくらいのダメージなら与えられているのではないかと思うほどの手ごたえに、テンションを上げる。

 とはいえ、顔に攻撃を仕掛けるのはそのまま噛みつきの反撃されるリスクも高いだろう。この勢いのまま突っ込んでも、いい結果が出るとは思えない。


 しかし、相手からの攻撃はワンパターンの突っ込んできて噛みつくの一択だ。

 エリーナが戦っていたのを傍らで見ていただけではあるが、見よう見まねで対処するのは案外容易だった。


「ぎゃうっ!」

「ほいっ」


 闘牛士のごとく、拾っておいた木の枝を使って大狼の突進の勢いを逸らして躱す。

 しかし大狼はスライムと違って攻撃後の硬直時間が短いので、その間に攻撃というわけにはいかなかった。


「ふー……どうしよう」


 私のVITは1だ。

 その低さは伊達ではなく、この数回の攻防で既に息が切れ始めていた。


 ちらりとエリーナの方を見てみたが、あちらはあちらで被弾を避けることを第一にしているため少し手間取っているようだった。

 エリーナはINTをメインに攻撃寄りのビルドを目指しているようで、種族としての初期値も低くVITの値は私とさほど変わらない。なので、攻撃力だけは高いという大狼の攻撃を少し過剰と思えるくらいに警戒しているのだ。


 尤も、デスしてしまうよりは時間をかけてでも慎重に倒していく方が良いと私も思うので、その過剰な警戒に文句があるわけではない。

 だが、スタミナという意味で戦闘が長引くことに不安があるのもまた事実だ。

 エリーナのスタミナが切れたら一巻の終わりだし、向こうが早く片付けられるようにもう一匹くらい引き付けた方がいいのかもしれない。しかし、二匹同時に引き付けられるほどの器用さは持ち合わせていないので、もう一匹引き付けるにしてもまずはこの一匹を倒さなければ。


「長引いたら不利なのはこっちだし、次で決めるっ!」

「ぐるる……」


 私の次の攻防に勝負をかけるという意思を察知したのか、大狼が警戒するように唸り声をあげる。

 数秒見合った後にこちらへと突進してきた大狼。私はギリギリのところまで大狼を引き付けると、手に持っていた木の枝を大きく開けた口に向かって投げつけた。


「とー!」

「ぎゃっ!?」


 運良く、木の枝が口の中に吸い込まれる。

 大狼は突然口内に舞い込んできた木の枝に怯むような声をあげたが、当然木の枝如きでは突っ込んでくる勢いは止まらなかった。


 しかし、そんなことは想定範囲内だ。

 私の本当の狙いは、突っ込んでくる大狼の顎を下から蹴り上げることで口の中に入れた木の枝が口内を傷つけてダメージを与えることである。


「ちょあーっ!」

「ぎゃっ!」


 そして、これまた運良く蹴り上げが狙い通りに決まる。

 いや、もうここまできたら実力なのではないだろうか。


「ふっ、勝ったな……」


 あまりに思い通りに運んだもので、思わずそんなことを口に出してしまう。

 しかし、少し待ってみても横たわる大狼が塵と化すことはなく、それはまだ大狼を倒せていないということの証明に他ならなかった。


「……」


 少し恥ずかしいが、まだ倒せていないならそんなことを言っている場合ではない。

 改めて大狼に追撃をしようとした時に、横たわる大狼の首の辺りに大きな切り傷があることに気が付いた。


「ていっ」

「ぎゃーっ!」


 傷口を抉るように蹴り上げると、大狼は大きな断末魔を残して塵と化した。


 うん。最初からエリーナのつけた傷口を狙っとけば良かった。そりゃそこが一番攻撃通るよね。

 結局、私の作戦のやつはダメージ通ってなかったのかな……


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