第10話 おおかみのしゅうげき



「うーん……やっぱり、コモンといえど流石はユニーク……」

「ですね」


 あれからしらばく大狼を狩った私たち(実際はエリーナ一人)だったが、エリーナのレベルが6に上がってもまだ私のレベルは上がっていなかった。


 当然だが、1レベから2レベに上がるのに必要な経験値と、5レベから6レベに上がるのに必要な経験値とでは大きな差がある。

 そもそもエリーナもエピックレアの種族であり、必要な経験値はそこそこ多いらしい。なので一割といえど流石にそろそろ上がるかな?と思っていた私のレベルよりも先にエリーナが6レベに上がってしまったことに、私たちは乾いた笑いを浮かべることしかできなかった。


 とはいえ、私としては自分のレベルよりもエリーナのレベルの方が重要だ。

 どうせ私のレベルが上がっても戦闘には大して貢献できないわけだし、それならガンガンエリーナに強くなってもらってまた美味しい狩場に連れて行ってほしい。

 むしろ、それまでは街中を観光しつつ戦闘以外のコンテンツに触れてみるというのもありだろう。


「それに、ゆきひめちゃんもそろそろ見てるだけじゃ飽きてくるんじゃない?戦ってみる?」

「うーん、そうですね……でも、スライムならまだしも狼相手に素手はちょっと」

「それもそうだね」


 気を使ってくれたエリーナには申し訳ないが、普通にあの狼は結構怖い。


 もちろん、戦ってみたいという気持ちもある。

 だが、エリーナ曰くデスペナルティとかいう死んでしまった時のペナルティをくらうと二時間ゲームにログインできなくなるというので、ここでそれをくらってしまうとエリーナの友達とやらと合流する流れに乗れずにそのまま疎遠になってしまいそうだから避けたいという気持ちもあった。

 エリーナが私との縁に価値を感じてくれているのと同じように、私もエリーナのようなこのゲームをよくわかっている人との縁は大切にしたいのだ。


「せめて、何か武器でもあれば……あ、あれとかいいかも」


 そう言って、ふと目についた木の枝を拾い上げる。

 当然ただのその辺に落ちていた木の枝が何かしらのアイテムなんてことはなく……と思ったが、そんな木の枝ですらアイテムという判定ではあるようだった。


 ≪木の枝 ただの木の枝≫


「こなところにまでデータを割かなくても……」

「あはは。でも、だいたい何にでもアイテム判定があるのがMMOのいいところだよ。適当に拾ったものがとんでもないものだったりするから、トレジャーハントみたいな楽しみ方をメインにしている人もいるし」

「へー」


 それはちょっと面白そうだ。

 そういうのって、LUC値とかも関係してくるのかな?だとしたら私は結構有利だが……LUC値が高い人が来たから急にレアなものが落ちてくるとかだとちょっと意味が分からないか。

 それに、よく考えるとそこにあるものを探すのがトレジャーハントの醍醐味なのに特定の人が来たから急に現れるとかだとその醍醐味も薄れてしまうので、むしろそうではない方が楽しそうではある。


「一応アイテムってことは、これで戦うこととかもできるんですか?」

「まあ、一応はね。かろうじてダメージは与えられると思うけど、一瞬で折れちゃうと思うよ。まあ、ゆきひめちゃんのSTRなら折れないかもしれないけど……」

「それは……不名誉ですね」


 木の枝すら折れないほどの力しかないなんて、思いたくない。

 が、なんだか嫌な予感がするので、試すのはやめておこう。真相を闇の中にしまっておけば、その真相はいつまでも不明なのだ。つまり、そんな不名誉をかぶることもない。


 そんなわけでポイっと木の枝を捨てた私に対して、エリーナは疑問符を浮かべる。


「あれ?試してみないの?」

「木の枝すら折れないわけないじゃないですか。全く」

「ふふ……なるほどね。まあ、そういうことにしておいてあげようかな」


 若干の煽りを含んでいるエリーナの言葉だが、そこに不快感はなかった。


「そういえば、その友達とはどこで落ち合うんですか?」

「グリーシャだよ。ゆきひめちゃんのことももう伝えてあるから大丈夫」

「じゃあ、一旦戻らないとなんですね」

「だねー。準備できたらメッセージが来るはずだから、それはまでは狩りを続けても大丈夫……っと、きたきた」


 来たというのは、メッセージではなく大狼のことだ。

 大狼の存在は、大狼がこちらに近づいてくる音で相手に遅れて私たちもその存在に気が付くことができる。

 こちらの索敵範囲よりも、大狼の索敵範囲の方が広いのだ。といっても向こうにそれを活かす知性はないので、一直線に突っ込んでくるから非常にわかりやすいのだが。


 そういえば、ジムは鷹人族で普通のプレイヤーよりも遠くまで見ることができるとか言っていた。

 彼ならば、大狼のことも相手より先に発見できるのだろうか。今は相手の知性が低いので大丈夫だが、いずれは彼のような人が必須になってくるのかもしれない。


「よし……はっ!」


 大狼の攻撃に合わせて、エリーナがカウンターを決める。

 もはや何度も繰り返したそれは、エリーナにとってはおちゃのこさいさい……ではあったが、STRをあまり伸ばしていないため一撃で撃破とはいかないのもまたいつもの流れだった。


「ん……よっ!ほっ!って、ちょ、いつもより多くない!?」


 突っ込んでくる大狼を一匹一匹捌きながら、慌てたようにエリーナが叫ぶ。

 一撃では倒せないため、捌くといっても瀕死のそれがエリーナの周囲に取り残されていくのだ。いつもなら二、三匹なので向こうの追撃よりも先にエリーナがとどめを刺してしまえるのだが、今回はなんと六匹も突っ込んできたため、エリーナの追撃よりも先に相手の態勢が整うのが先になってしまった。


「……あれ。なんか、こっちを見て……わっ!」


 大狼がどういう基準で狙う敵を定めているのかは知らないが、そのうちの一匹が自分を攻撃してきたエリーナではなくそれを見ていた私の方へと狙いを定めてきた。

 ぼーっとしていた私は回避行動が遅れるも、何とかすんでのところで攻撃をいなすことに成功する。


「ゆきひめちゃん大丈夫!?」

「何とか無事です!」

「良かった!ちょっと、流石にこの量は手がかかるから何とか持ちこたえてほしい!」

「はい!」


 危険な状況になってしまったが、むしろ残りの五匹に囲まれてもまだこちらの心配をする余裕があるエリーナはすごいと褒められるべきだろう。

 そんなエリーナに負担をかけないためにも、何とかして瀕死の大狼との攻防を無事に気えり抜けなければならない。

 スライムとの闘いとは比べ物にならない程の緊張感が漂う私の戦いが、今幕を開けたのだった。


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