第9話 さらば、すらいむ
結局、例のスライムとはまた引き分けという形で別れることとなった。
私たちが見逃したところで、他のプレイヤーに呆気なく倒されてしまうのがあのスライムの末路だろう。それがあのスライムのモンスターとしての定めでもある。
だが、なんとなく自分の目の前で死んでほしくはなかったのだ。
そして例のスライムと別れた私たちは、エリーナの知るという美味しい狩場とやらを目指して森の中を進んでいた。
最初の街・グリーシャの街を出て南西の方角にある森である。双翼の森というらしい。
エリーナは既に5レベまで上がっていて、最初は剣で戦っていたものの、段々と魔法の仕様に慣れるためと言って魔法で戦い始め、今ではすっかり魔法メインで戦うようになっていた。
なんでも魔法を撃つのが結構難しいらしく、説明を聞いたが聞いただけではあまり理解できないくらい難しそうな話をしていた。
なんでも、魔法を使うための武器を構えると五×五で二十五個の点が目の前に現れ、発動させたい魔法に応じて特定の手順で何かしら他の動作も交えながら点を結ぶとあーだこ-だとか。まあ、私も魔法が使えるようになったら学べばいいだろう。
「さて、そろそろ狩場に着くわけだけど……一つ気づいたことがあるんだよね」
エリーナが、改まってそんなことを言ってくる。
何も思い当たる節がない私は、頭上にクエスチョンマークを浮かべながら耳を傾ける。
「それはね……なんか聞いてた話よりモンスターのドロップ率が良い、です!」
「ほー」
「気のせいかもしれないけど、気のせいとは思えない存在が目の前にいるっていうか、どう考えてもゆきひめちゃんの影響っぽいというかね?」
「うーん?」
言いたいことはよくわかるが、私には一切ドロップアイテムが入ってこないのでよくわからない。
なんでも、倒したモンスターのドロップアイテムは貢献度とやらで確率が上下するらしい。当然、全く貢献をしていない私の手元に入ってくるドロップアイテムは0である。
「このゲームの先行プレイ権を手に入れてから、他のゲームで知り合った人とかとやり取りして情報共有目的のグループを作ったんだけどね?どうにもそこで出回ってる情報と私の体感ドロップ率が倍くらい違うんだよね」
「なるほど?」
「まあ、私自身のドロップも他の人の検証を総合した話もまだまだサンプル数不足だから、たまたまって可能性も捨てきれないんだけど……」
それはそうだろう。
私たちが狩りをした時間は、今のところせいぜい一時間も経っていないくらいだ。
それに、貢献度でドロップ率が上下するという話もまだまだ検証不足で詳しいことはわかっていないらしい。
そんな状態で結論を出すのは、いささか早急と言わざるを得ないだろう。
「ということで……都合が大丈夫そうなら、友達と合流するまでって言ったけどその後も私たちに付き合ってくれない?このことを話したら、色々試したいことがあるって言っててさ。もちろん、私もそう思ってるし、ゆきひめちゃんともまだまだ一緒に遊びたいし」
「いいですよ」
特に断る理由もないので、すぐさまOKを出す。
こちとら、リアルの用事は一切何も全くないのだ。何時まででも付き合える。
「ほんと?ありがとね」
「こちらこそ助かりますから」
むしろ、立ってるだけで経験値を分けてくれるというのだからこれほどいい話はない。
もし私がいることでドロップ率が上がるというのが本当なら、間違いなくwinwinというやつだろう。向こうは少しの経験値の犠牲と私という枷が付いてくることに対してドロップ率上昇という恩恵を得、私はただで経験値がもらえる。素晴らしい関係である。
「よーし。それじゃ、大狼を狩っていくよー!」
「おー」
話を終え、エリーナの宣言と共に新たな狩場での狩りが始まる。
話の通り、大狼というのが新たな狩りのターゲットだ。
二、三匹で群れて生息しているモンスターらしく、こちらを察知する能力が高いらしい。
そして、スライムとは違ってこちらを見つけ次第攻撃を仕掛けてくるそうだ。
ここまでの話を聞けば厄介そうだが、実際は意外と簡単に倒せるモンスターだという。
なんでも、知能はそこまで高くないらしく、慣れてしまえばスライム同様ワンパターンの攻撃方法なので対処が簡単なんだとか。
しかも必ず複数匹で行動しているため、その分だけ経験値も増えるし、向こうから襲ってくるので探す手間も省ける。
相手のステータスもかなり攻撃寄りで、攻撃さえ受けなければサクッと倒せる良いカモらしい。
ちなみに、大狼はスライムよりも柔らかいから私でもワンチャンあるとかないとか。
無理をして死んでしまっては元も子もないので深追いをするつもりはないが、隙があれば戦ってみたいところだ。
「ふっ!せいっ!」
エリーナが、大狼を発見し次第剣で斬り裂いていく。
何度見てもエリーナの動きは手練れっぽい感じで、素人の私でもすごく強そうだなーという印象を受けるものだった。
ちなみに、魔法は失敗すると危険だからという理由でここではひとまず封印しておくという方針だそうだ。
「エリーナさん、お疲れ様です」
「うん、ありがと」
大狼の群れを倒したエリーナに、水を差し出す。
それが私の唯一の仕事だ。部活のマネージャーにでもなった気分……なんていうと、本当は他にもいろいろと仕事があるのだろうしマネージャーをやったことがある人に怒られてしまいそうだが、イメージ的にはそんな感じだ。
「そういえば、そんなに剣を使うのが上手いのになんで魔法系の種族を選んだんですか?」
たった一時間ほどだが、されど一時間ほどエリーナと行動を共にしてきた。
それによって私の中のエリーナに対する心の距離は、戦闘の合間にそんなことを聞いてみようと思えるくらいには近づいていた。
「んーっとね、別に深いことを考えてのことじゃないよ?ただレアリティが一番高いのを選んだだけ。どうせ転生できるって話だったし」
「なるほど。他のゲームでは剣士をしてたんですよね?」
「まあねー。でも、せっかくなら違うことをしてみたかったっていうのもあるかも」
ゲームなのだし、特にこだわりがなければ色々なことをしてみたいと思うのは当然のことだろう。
こういったゲームをやるのが初めてではあるが、その感覚は私でも理解できた。
「ゆきひめちゃんはそういうのないの?このゲームでやってみたいこととか」
「うーん……今のところは特にないですね。どういうことができるのかもよくわかってないですし」
「そっかそっか。MMOの先輩としてはゆきひめちゃんにもこのゲームを楽しんでほしいから、私に頼みたいこととかあったら遠慮なく言ってね」
「はい。ありがとうございます」
私としては現在進行形で十分付き合ってもらっているつもりなのだが、エリーナとしては物足りないくらいらしい。
その裏にはユニーク種族で特異なステータスをしている私との縁を繋いでおきたいという思惑もあるのだろうが、まあ大人になってからの人間関係なんてそんなものだろう。それでも楽しく一緒に遊べれば、十分大切な友達足り得る。
私としても、エリーナとの縁は繋いでおきたいなーというのが素直な気持ちだった。
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