第8話 すらいむ、ふたたび
「よーし。それじゃ、とりあえずは私が狩るから近くで見ててね」
「はい」
エリーナは一メートルほどの長さの剣を両手で構えると、突っ込んでくるスライムに対して相手の勢いを利用するようにして斬りつけた。
「ぴぎっ!」
スライムは、そんな断末魔を残して身体を塵へと変えていく。
「え、もう?」
「ん?どうしたの?」
「いや、一発だったなーと思って」
「あはは、まあスライムだしね。あ、もしかしてスライムと結構戦っちゃった感じ?」
「そうですね。結構……いや、かなり?」
そんな私の曖昧な答えに、エリーナは苦笑いをする。
「えーっとね、言いづらいんだけど……スライムでも、STR2以下だとダメージを与えられないみたいなのよね」
「……」
やっぱり。
だってどう見てもダメージ入ってる感じしなかったもん。
「まあ、レベル上げてSTRに振れば問題ないから!ちなみに、他のステータスはどんな感じなの?」
「LUC以外は全部1ですね」
「え、何その鬼畜種族……」
鬼畜とは酷い言い様だなと思ったが、エリーナのステータスを聞いてみればそれも納得の内容だった。
「私の場合、種族は魂人っていうINTタイプでエピックレアの種族なんだけど、それでもSTRは初期値で4あったわよ?INTは9だったかな」
「へー……ちなみに、LUCは何でしたか?」
「2ね。今のところLUCの初期値で一番高いって言われてるのが7だったはずけど、ゆきひめちゃんは?」
「13でした」
「おお、流石に高いね」
「今は28あります」
「28!?」
うん、良い反応をしそうだと思って言ったけど、期待を裏切らない反応だ。
「1レベで28って……そりゃ極致だよ。今レジェンド引いてずっとレベリングしてる最前線の人が7レベだか8レベでSTRとVITがどっちも15前後って聞いたから、28あればそりゃ間違いなく一位だよね」
「ふーん……ところで、LUCって何なんですか?」
「それは……なんなんだろうね?LUCはゲームによって結構効果違ったりするから。昔は戦闘面でもかろうじてクリティカル率とかに影響してたらしいけど、今のクリティカル判定は弱点部位に弱点属性で攻撃することが条件だから全く関係ないし」
つまり、戦闘以外で使うステータスということだろうか。
まあMMOの楽しみ方は色々あるらしいのでそれならそれで構わないのだが、レベル上げには苦労しそうだ。
「とりあえず、パーティー組んでる限り経験値は分散されるからこれでゆきひめちゃんのレベルを無理やり上げてくよ。まあ、なんか色々複雑な貢献度計算で分配されるらしいから、何もしてないゆきひめちゃんには一割くらいしか入らないけど」
「一割ですか……」
つまり、エリーナのレベルが上がった時点で倒した敵の数の約九倍くらいを倒さないと私のレベルは上がらないということになる。
「それで、レベルが上がればステータスポイントが2もらえるから、それでなんとかSTRを……いや、でもVIT1もさすがにヤバすぎるし……まあ、その辺はゆきひめちゃんの好きにやればいいかな?」
「そうですね。さすがに武器を持てるくらいのSTRは欲しいですけど……今更振っても焼け石に水という説もありますし」
「まあ、明らかに戦闘に参加するタイプの種族じゃないからね。とりあえずは転生も視野に入れつつのポイント温存とかでもいいかも?それに、そのうちSTR1でも装備できる強武器とかも出てくるだろうし!MMOは焦らずちゃんと考えながらプレイするのが大事だからね」
「なるほど」
つまり、何も考えずに最初の5ポイントをLUCに振った私の行動はダメダメだったということか。
「それを考えると余計に今のうちにレベルを上げてあげたいし、私のレベルが上がってきたらちょっと無理してでももう少し良い狩場に行こっか。最前線で走ってる友達がいるから色々良い狩場とかも知ってるし、種族によって経験値テーブルが違うらしいから、もしかしたらユニークのゆきひめちゃんはレベル上がりにくいかもしれないけど」
「ありがとうございます」
先ほどからちょいちょい出てくる最前線というワードは、文脈的にこのゲームのトッププレイヤーという意味だろう。
エリーナはその発言に聞き慣れない用語とか知識を織り交ぜてくるので、こういうゲームに関しては相当やり慣れている玄人と見える。それに、私のために力を尽くしてくれるそうなのでいい人だ。
……都合のという言葉は含んでないよ。
「それじゃ、少しずつ狩場を移しながらどんどん狩ってくよー!」
「おー!」
なんて声を上げてみても、私は見ているだけなのだが。
途中から段々と暇になってきた私は、エリーナがスライムを狩りまくる傍らで再びスライムと戦ってみることにした。
なんというか、エリーナが楽しそうに狩りをするので私もまた戦いたくなってきたのだ。ダメージが通らないとか言われたが、まあ倒せなくても構わないのでちょっと体を動かしたくなったのである。
もちろん、痛覚設定は下げておいた。
元が20%で、50%以上は危険なので別途同意書とかを書かないと設定できないらしい。最低値の1%にしようとしたらそれだと普通の感覚も鈍るからおすすめできないとエリーナに言われたので、10%に設定してある。
「ぷぎ……?」
「お、お前は……!」
わざとらしく、ごくりと唾をのむ。
そう。徐々に街を離れるように移動しながらスライム狩りをしていた私たちは、偶然私が最初にスライムと戦った場所まで戻ってきていたのだ。
まあ、だからといってこのスライムがあのスライムだという保証はないけど。
スライムなんて全部同じに見えるし、ただのノリだ。
「いくぞっ!……って、あれ?」
エリーナの戦闘を見続けていたからか、どこかハイになって謎のノリを続ける私。
しかし、そんなテンションから一気に素に戻るくらいの衝撃が私を襲った。
「まだ攻撃してないのに、カーソルが赤……まさか、本当に?」
「ぷぎ……」
ファイティングポーズをとる私と、そんな私の出方を窺うようにじっとその場を動かないスライム。
何やら、このスライムとは奇妙な縁があるのかもしれない。
「……って、結局武器も買ってないし、これじゃさっきのが戦略的撤退じゃなくてただの涙目敗走になっちゃったじゃん」
そんなどうでもいいことに気が付く。
なんて一人コントをしているうちに、スライムがこちらへと突っ込んできた。
「何度も同じ手をくらうと思ったか!」
「ぷぎっ!?」
そんなワンパターンな攻撃が、人間様に通用すると思わないでほしい。こちとら、学習能力というものを備えているのだ。
スライムの体当たりを華麗に避けた私は、すぐさま反撃に移る。
「とーっ!」
「ぷぎーっ!」
私の蹴りをくらったスライムが、コロコロと転がる。
なんか叫び声をあげてくれてるけど、これダメージ0らしいんだよね。向こうもノリでやってくれてるのかな。
「ふーっ……」
私はコロコロと転がるスライムへの追撃は避け、体力の温存に努める。
VIT1の私は、体力管理も大事だと学んだのだ。なるべく体力を使わずに、身動きの少ないカウンター作戦でこのスライムを倒すというのが私の作戦である。
……もちろん、仕様的に一生倒せないというのはわかっている。
「ぷぎぎ……」
攻撃がいとも容易く凌がれたスライムは、悔し気な声を出しながらこちらを睨んできた。
なので、得意げになった私は掌を上に向けてクイックイッと曲げることで相手を挑発する。
「どうした?その程度か?スライムさんよ……」
「……」
「ん?」
ふと視線を感じて振り返ってみると、エリーナが温かい目をこちらに向けていた。
「あ、その、これは……」
「ゆきひめちゃん、後ろ後ろ」
「え?……っとあっ!」
「ぷぎーっ!」
間一髪……とはいかず、戦闘中によそ見をするという失態を犯した私はスライムの体当たりをもろにくらってしまった。
だが、痛覚設定のおかげか前回ほどの痛みは感じない。でも受けてるダメージは変わらないはずなので、痛覚設定を下げるとそこの感覚の乖離が罠になるかもしれない。
「このっ、卑怯者めっ!」
痛みで怯むことのなかった私は、何も悪くないスライムを非難しながら蹴りを入れる。
コロコロと転がるスライムを見ながら、私の後ろでエリーナがくすくすと笑い声を漏らした。
「ゆきひめちゃん、ほんとに小学生じゃないの?」
「いやっ、これはほら……そういうノリっていうか」
「ふふふ……あー、おかしっ」
おなかを抱えながら笑い声を漏らすエリーナ。
……そんなに笑ってくれるなら、恥ずかしい思いをした甲斐もあったのかもしれない。
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