第7話 けいじばんのうわさ
「んー……できれば女の人が良いよね。初心者同士で集まっても仕方ないし、なんかこのゲームをよくわかってそうな人で……」
なんて高望みをしながら、広場をうろついてみる。
どうやらこの広場には私と同じような目的の人も少なからずいるようで、パーティーを組みたがっている人が集まる場所にもなっているようだった。
中には、大声でメンバー募集呼びかけている者もいる。
「んー……あ、あの人とかいいかも」
私の目に留まったその人は、ベンチでサンドイッチを食べながら手を動かしている女の人だった。
こんなところで食べ物を食べているというのがまずゲーム慣れしている証拠だし、手を動かしているのは色々と情報収集をしているのだろう。顔つきも……いや、それはアバターだしあまり関係ないか。
頭上にはエリーナと書いてある。
「あの、少しいいですか?」
「ん?何か……え?」
声をかけてみると、エリーナは私にやさしく微笑みかけた後、ちらりと頭上の見て呆けたような表情を浮かべた。
もしかしなくても、称号を見て驚いたのだろう。
と思ったが、エリーナは驚いたというよりは納得するような声を漏らした。
「ふーん、なるほどね……」
「?」
「あー、ごめんね。何でもないよ。私に何か聞きたいことでもあるの?」
再びやさしく微笑んでくるエリーナ。
絶対何かあるでしょ、と思いつつも私は本来の目的の方に話を切り替えた。
「えーっと、さっき外に出てみたんですけど、モンスターが倒せなくて」
「ふーん?武器とかは使ったの?」
「いや、それがSTRが足りなくて装備できないみたいで」
「え……3くらいあれば最低限の武器は使えるわよ?」
「それが、1なんですよね」
「1……?」
エリーナが眉をしかめる。
「えーっと、ステータスポイントってわかる?」
「あー、それももう使っちゃって」
「あらら……」
「それで、その……力を貸していただけたらなー、と」
「あぁ、そういうこと」
エリーナは少し迷うような素振りを見せた後、私を安心させるように笑顔を浮かべた。
「うん、いいよ。この後友達と約束してるから、それまでなら……って、そういえばゆきひめちゃん学校とかは大丈夫なの?」
現在、十時に限定リリースされてから三時間半経っての十三時半だ。
まあ、小学生だと思われてるっぽいしある意味では当然の疑問かもしれない。
「えと、一応成人済みです」
「えっ……えっ!?」
エリーナが今日一の驚き顔を浮かべる。
慌てたように姿勢を正すと、おずおずとした様子でこんなことを聞いてきた。
「え……っと、ちなみに、おいくつか、とか聞いても大丈夫な感じですか……?」
「二十五です」
「年上!?」
何故かショックを受けたように言うエリーナ。
そして、再び姿勢を正して頭を下げてきた。
「あの、ごめんなさい。その、子ども扱いするような真似を……」
「え?あー、全然大丈夫ですよ」
「いやいや、でも、その……」
「まあこんなナリですし、このゲームの中では子ども扱いでもいいかなと思っているので」
実際、自分自身ですらどこからどう見ても小学生くらい、よくて中学生くらいにしか見えないと思っているのだ。
リアルなら身長が低いだけで顔が年相応……いや、ちょっとは幼い顔つきだけど、それでも顔つきのおかげで子供と間違えられることはない。が、このアバターはそこがむしろめちゃくちゃ幼く見えるのだ。これを見て子ども扱いをする人を責めていたら、理不尽極まりないしキリもない。
エリーナはそんな私の考えをあえて口に出して肯定することはしなかったが、態度ではそれを示した。
「そっか、うん。それじゃ、こっちもそうさせてもらうね」
「はい」
「多分二時間か三時間くらいしか付き合えないから、早速行こっか。あ、それと……」
「?」
何やらコマンドをいじるエリーナの姿を見つめていると、一通のメッセージが届いた。
「……フレンド申請?」
「そ。フレンドになっときましょう」
「えーっと、どこをどうすれば?」
「え、もしかしてゲーム初心者?」
「はい。十年ぶりくらいにやってます」
「十年ぶり!?てかそれでよく先行プレイ権持ってるわね?手に入れるのに結構苦労したのに……」
言われてみればそれもそうだ。
まあ、実際はただの貰い物なのだが。
と、そんなよりも、最初の意味深だった反応のことを聞いてみよう。私に声をかけてきたジムのこともそうだし、歩いているだけでもやたら視線を感じるので、何やら変な噂とかが流れているのかもしれない。
「そういえば、最初に私を見てなるほどって言ってたのは何だったんですか?」
「あー、あれね。ゆきひめちゃんのことが掲示板で噂になってたからさ」
「掲示板で……それは何て?」
「えっと、ユニーク種族なんだよね?」
「はい」
そのことを教えたのはジムだけなので、きっとジムが掲示板に書き込んだのだろう。
それは別に良いのだが、それがどう納得につながるのだろうか。
「その書き込んだ人が、ユニーク種族の人を見つけたっていうのと極致系の称号の話だけをするだけして、なんてプレイヤーなのかって聞かれても一切答えてなくてね。そんなんだからデマなんじゃないかって言われてたんだけど……」
「はあ」
「それがこんな女児にしか見えない人だったから、なるほどなあって」
「……?」
首を傾げる私に、エリーナがさらにそのわけを説明する。
「いやー、ほら。ネットの人たちって自分より弱い人には容赦ないから。ゆきひめちゃんみたいな子がユニーク種族なんて持ってるって知ったら色々嫌がらせとかしてきそうだから、その書き込んだ人もそこは伏せたのかなって。でも、その称号を付けてる限りはバレバレよね」
「なるほど?」
ネットの人ってそんな陰湿なのだろうか。
あまり触れてこなかった文化なので、正直よくわからない。
「その人ももっとうまく書き込めって話よね」
「そうなんですか?」
「そうなの。とにかく、何かあったら私に相談していいからね?」
なんてやり取りをしながら、エリーナに手ほどきを受けてフレンド申請を受理する。そして、ついでにパーティーも組んだ。
うん。やっぱり、私の見立て通りエリーナは優しい人だったね。ラッキー。
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