第6話 ぶきやでぜつぼう
「……要求STR値?」
一度街に帰ってきた私は、そのまま武器屋へと直行していた。
本当は疲労がたまっているので一度街に戻ったら休憩を挟もうかと思っていたのだが、街まで歩いている間に体力が完全に回復したのだ。おそらく、戦闘をしていない間は体力を回復し続けるのだろう。何とも便利な身体である。
まあそんな身体のことはともかく、問題はこの要求STR値とかいうわけのわからない代物だ。
武器屋で武器を物色していた私は、やっぱりリーチがある方が良いよねと思い槍を購入しようとしたのだ。
すると、こんな注意メッセージが出てきた。
≪注意 この武器の要求STR値を満たしていないため、この武器は装備できません。それでも購入しますか?≫
そして、冒頭に至るというわけだ。
たしか、ジムはSTRのことを力だと言っていた。
つまり、私はこの槍を扱えるほどの力がないから装備することすらできないということなのだろう。
力がないから武器に頼りたいというのに、力がないから武器を持てないとかどうすればいいのだろうか。
まあ仕様に対して文句を言っても仕方ないので、購入しようとした槍をキャンセルして棚に戻す。
店主のおじさんは、自ら槍をカウンターに持ってきて買いますと言った直後にやっぱりやめますと言って棚に戻すという奇行をした私に戸惑いの視線を送ってくるが、恥ずかしいのでやめてほしい。
NPCが生きた人間のような反応をするのは現実感が増して良いと思うが、こういう時にはちょっと恥ずかしい。というか、その注意メッセージ槍を持った時点で出してよね。
なんて文句を思ったが、よく見たら値札のところに要求STR値の記載があったので、そんな文句は思わなかったということにしよう。最初から文句なんて全く思い浮かばなかった。うん。
「えーっと、つまり要求STR値が1のやつを探せばいいんだよね」
脳内の思考を誤魔化すように、そんな言葉を口に出す。
棚の端から一つ一つチェックしていったが、壁際に掲示されている目玉商品と思わしき物は全部要求STR値が4以上だった。
「4って……そんな無理難題言われても……」
こちとら1なんですけど。4は1の四倍なんですけど。
いや、仕様に文句を言っても仕方ないんだった。他の棚を探そう。
「えーっと、なんか、短剣とかなら持てるのかな?」
壁際の商品は、基本的には槍や大剣といった大きな武器だった。
中には小型の武器もあったが、何やら凄そうな効果とかが書いてあったのでいい素材を使っていて重かったりするのだろう。知らないけど。
「んー……うん」
無理。
鉄製品は無理。短剣でも要求STR値3って書いてあるんだもん。現実的に考えたら絶対こんな体だろうと持てるのに。
もう新聞紙ブレードとかの出番じゃない?これ。
なんて冗談を思いながら、再びカウンターへと足を運ぶ。
「すみません。私でも使えそうな武器ってありますか?」
要求STR値とかいう話をしてもNPCに上手く伝わるかがわからなかったので、そういう聞き方にしておいた。
すると、店主のおじさんは私の身体を見てため息をついた。
「いや、うちにはねえな」
「え……ない?」
「ないない。うちは玩具屋じゃねえんだぞ」
「……」
なんかNPCの当たりが強いんですけど……
いや、向こうは冷やかしだと思ってるのかも。実際さっきは私が冷やかしみたいなことしちゃったわけだし。
「そうですか、わかりました。すみません」
一言謝罪をしてから、武器屋を後にする。
あのNPCからの心象は相当悪いかもしれない。まあ、NPCにそんな概念があるのかはわからないけど。
そんなことよりも、武器が買えなかったというのは非常に大きな問題だ。
素手ではスライムすら倒せないのに、どうしろというのか。
STRが低い人なんて私以外にもいるはずだし、選んだ種族次第で詰むなんて馬鹿な話が……
「あ、だから5ポイント自由に割り振れたのかな」
あれは、最低限の水準に満たしてないステータスに振ってねということだったのだろうか。
いや、でもそんなの最初によくわからず振っちゃう人もいるでしょ。私みたいなさ。
「んー……でも、なんとかしてモンスターを倒す術を見つけないと……」
一度でいいからレベルを上げることができれば、ステータスも成長するはずだ。
レベルを上げるには、モンスターを倒せばいい。
モンスターを倒すには、ステータスが必要だ。
ステータスを上げるには……あれ?
堂々巡りになってしまったので、ここは発想を変えてみよう。
今私が困っていることの根本が何かを考えてみる。
それは、モンスターを倒せないことだ。モンスターが倒せれば、何の問題もない。……いや、本当にモンスターを倒す必要はあるのか?
「そうだ。他の人に倒してもらえばいいんだ。MMOは、みんなでパーティーを組んで遊ぶゲームなんだから」
昔のMMOなら立派な寄生厨の発想だが、VRMMOにおいてはそうではなかった。
VRMMOは、戦うことが全てではない。モンスターを倒す以外のことでパーティーに貢献できれば、それは立派なパーティーメンバーだといえる。
ヒーラーがモンスターを攻撃しなくても文句を言われないように、戦闘中でも戦闘以外のことで必要なことが多いVRMMOでは、戦闘員ではないパーティーメンバーがいることは特に珍しいことでもなかった。
「うーん、だとすると、他の人に私を売り込む必要があるよね。私にできることは……できること……は……」
何もない。
いや、ユニーク種族だから、ユニーク種族だから……なんだというのか。
LUCが高いと何に優れているのかというのが現状のところわからないので、自分を売り込む方法がわからない。
うーん……まあいいや。考えてもわからないし、広場に行って優しそうな人に声をかけてみよう。一人くらいは物好きもいるでしょ。
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