第3話 へんなひと



 あの後二時間ほどかけて街を隅々まで散策してから、私は街の外に続く門を出て外へとやってきていた。


「おー……人ばっかり」


 街の周辺は人でごった返している……というほどではないが、どこにいても視界内に必ず人が一人はいるくらいには人がたくさんいた。

 おそらくは全員がプレイヤーなのだろう。談笑する者や武器を手にモンスターと戦う者、私のようにきょろきょろしている者とその内情は様々だが、ここにいる人にはある共通点があった。


「全員人だなー」


 まあ文字通りの意味だとそれは当然の話なのだが、ここでの人とは、現実の人間と相違ない見た目をしているという意味だ。


 例えば、猫人族なら猫の耳としっぽという本来の人間にはない特徴があった。だが、ここにいる人は皆人間以外の特徴を持ち合わせたりはしていない。

 もちろん、私もそうであるように全員の種族がただの人間というわけではないだろう。だが、ここまで統一して特徴がない種族のプレイヤーが集められているということは、選んだ種族によって開始地点が違うとかそういうのがあるのかもしれない。


 なんて予想していると、突然知らない人に声をかけられた。


「お嬢さん、ちょっといいかな?」

「なんですか?」


 お嬢さんという歳でもないが、まあここでの私はどこからどう見ても少女なので特に怒るようなことでもないだろう。


 声をかけてきた人はさわやかなイケメンだったが、まあこの世界の人はだいたいそうだ。


「突然ごめんね。何やら君が凄そうな称号を付けてたから、気になってしまって」

「称号?」

「ほら、頭の上に」


 そう言われて頭上を見上げてみたが、何も見えなかった。


「?」

「ああ、ごめんごめん。自分の名前と称号は他のプレイヤーからしか見えないんだったね。ほら、『運の極致』っていう称号。自分で付けたんだろう?」

「あー」


 すっかり忘れていた。

 他人からしか見えない称号って、なんか自分はお得感ないね。


「そうですね」

「……うん。それで、もしよかったらどんな称号なのか教えてほしくてさ。お兄さん、色々とこのゲームの攻略情報を集めているんだ。もしよかったら、色々気になることとか質問してくれても構わないんだけど、どうかな?」


 現実で似たような声掛けをされたら胡散臭いったらありゃしないが、ゲームとなると見境がなくなる人も多いと聞く。

 見知らぬ少女に声をかける成人男性とか現実なら通報ものだが、ここだと普通のことなのだろうか。まあ、そもそも私は少女ではないけどね。


「なんか、LUCっていうのが一番高い人に贈られる称号らしいです」

「へー、じゃあゆきひめちゃんはLUC値がとても高いんだね」


 うん。言ったことをそのまま言い換えされてもね。


「ちなみに、どんな種族を選んだのかとか教えてもらえたりするかな?」

「ラッキープリンセスっていうのです」

「ラッキープリンセス?」


 聞いたことがないな……なんて呟きながら左手をせわしなく動かすその男。

 ゲーム内からでもインターネット上にアクセスできるようなので、ネットで調べ物でもしているのだろうか。


 そういえば、頭上に名前があるんだっけ。えっと、この男は……JIMって書いてあるね。なんでわざわざ英語の名前にしてるんだろう。


「ジムさんは何にしたんですか?」

「お兄さんは鷹人族だよ。とても遠くまで見える種族なんだ」

「ふーん」


 種族次第ではそういう特徴もあるのか。

 遠くまで見えるとか、ちょっとうらやましいな。私なんて……そういえば、種族の説明全然読んでないや。


「ところで、そのラッキープリンセスっていうののレアリティは何だったか教えてもらえるかい?」

「ユニークコモンっていうのでした」

「ユニーク!?」


 ジムは相当驚いたようで、面白いくらい目を見開いてそう叫んだ。


「ユニークって、これで三つ目……いや、四つ目か?ゆきひめちゃん、とても運がいいんだね!」

「はあ……」


 まあ、運はいい方だと思うけど。


 三つ目だか四つ目というのは、まあ所詮はインターネットに出ているものでという話だろう。

 先ほどの予想が正しければ、ユニークレアなんてレアな種族は開始地点が独特だったりしそうだし、私みたいに特にネットは使わない人がなっている可能性もある。実際にはもっと多くいるんじゃないかな。


 ていうか、少女扱いはまだいいんだけど、ちゃん付けはちょっと抵抗感あるな。慣れるしかないのかな。


「ラッキープリンセスか……うん。突然話しかけちゃってごめんね。ありがとう!」

「いえ」


 もっと無遠慮に根掘り葉掘り聞かれるかと思ったのだが、この人も案外その辺の常識は持っているらしい。

 まあ、もし私が少女ではなくこの人と同じくらいの男性とかだったら、もっと根掘り葉掘り聞かれていたのかもしれないが。


「それで、もし何かわからないこととかあったらお兄さんが教えてあげるよ?さっきのお礼ってことでさ」


 ジムはさわやかな笑顔を浮かべながらそんなことを言ってくる。

 VR空間上といえど、さわやかに笑えるのはこの人の武器なのかもしれない。思ったよりもいい人かも。


「えっと、じゃあこの……STR?とかよく意味が分からないんですけど、これはどういう意味なんですか?」

「あー、もしかしてゆきひめちゃんはこういうゲームをやるのは初めてなのかな?」

「はい」

「オッケー!ちょっと難しい話になっちゃうかもしれないけど、お兄さんが説明させてもらうね」


 なんだかこの人がチュートリアル代わりになってくれそうだ。

 これもレアな種族を引けた恩恵かな。なんて思いながら、私はジムの話に耳を傾けた。


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