第2話 らっきーがーるです



【ラッキープリンセスが選ばれました。それでは、次に容姿のエディットをしていただきます。なお、ある程度種族による強制的な身体的特徴があるのでご了承ください】


「容姿……」


 VRのいいところとして自分の好きな姿になれるというところがあるが、私はあまりそういったことに興味がない。

 むしろ、ネットリテラシーがどうとかでいちいち架空の姿を作らなきゃいけないのが面倒だと思っているくらいだ。かといって、ランダム生成だとピンと来るものは───


「お、結構いいかも」


 あまり期待せずにランダム生成を押してみたところ、一発で良さげなものが生まれてきた。技術の進歩か、ただの運か……それともラッキープリンセスの強制的な身体的特徴のおかげかな?


 それは、青よりも赤の色素が強い薄紫色でふわふわの髪に、あどけない無垢な少女の顔。少女の顔にしては少し違和感を覚えるくらいに各パーツが整っているが、まあプリンセスらしいしそういうものなのかもしれない。

 身長がかなり小さめなのは、私のリアルステータスの影響もあるのだろう。なんかどこからどう見ても未成年プレイヤーだな。別にいいけど。


 容姿を決定すると、ようやくゲームが始まるようで、VR世界ではの馴染みの注意喚起が始まった。

 やれ現実の肉体への影響が出やすい行動がどうだの、迷惑行為がどうだの、利用規約に同意しろだの。

 それを半ば聞き流しながら同意すると、ようやくゲーム本編がスタートした。


【それでは、良い旅を】


 アナウンスと共に、視界がホワイトアウトする。

 次に目を開けた時、私はいつの間にかどこぞの街の中に立っていた。


「おー……こんな凄かったっけ?VR」


 最後に私がVR世界を訪れたのは高校生の時だから……七年ぶりくらいだろうか。

 まあ、七年もすれば技術も進歩しているのだろう。


「さて……私は何をすれば?」


 MMOというものがどういうゲームなのかを知らない私は、いきなり街に放り出されたという状況を前に困ることしかできなかった。

 いや、早くゲームを始めようとして色々説明をすっ飛ばした私が悪いのかもしれないが、なんか私のやったことがあるようなゲームなら、序盤はこうストーリーに沿ったチュートリアルみたいなものがあったと思うんだけど。


 とはいえ、嘆いていても仕方がない。

 ひとまずは適当に街中を歩いてみてみることにしよう。


「あれは雑貨屋……ギルド?あ、神殿だって。工房……へー、露店みたいなのもある。そういやVRの味覚エンジンの発達がすごくてVR世界のごはんがめっちゃ美味しいって聞いたことあるなー」


 ぶつぶつと独り言を言いながら歩いていく。

 しばらく歩き回ると広場のような場所に出てきたので、そこのベンチに座って一息つくことにした。


「この街、結構広いなあ……もう十五分くらい歩き回った気がするけど、全然回れてないとこありそうだし」


 有名タイトルのRPGゲームくらいしかやったことがない私は、ゲームの世界の街なんてせいぜい必要な施設がいくつかあって終わりかと思っていたが、どうやらそうではないらしい。

 世界観を作り込むためなのか、住宅がやたら多く、実際にそこに住んでると思わしきNPCもいた。中には空き家なんかもあって、家を買えたりもするようだ。むしろ、空き地を売ってるパターンもあった。


「えーっと、それで、こう……かな?」


 街中を回っていて、一つ気づいたことがあった。

 それは、他のプレイヤーと思わしき人たちの多くが左手で宙をスクロールしながら街中を歩いていたということだ。


 それが何か意味のある事なのだろうと思って、見よう見まねでそれをやってみる。


「あ、なんか出てきた」


 これは、メニューバーのようなものだろうか。

 ステータスやバッグ、システムとか色々コマンドがある。中には、暗くなっていてまだ選択できないものもあった。


「まずはステータスだよねーっと」


 ゲームといえば、ステータスだ。初心者の私でもそのくらいはわかる。


 ステータスを確認しようとしてステータスのコマンドを選択した私だが、やはりそこにはよくわからない情報が羅列されていた。

 STR、VIT……よくわからないものが、全て1と表示されている。LUKとかいうやつだけは13あるけど、これは多分LUCKYの略語だよね、私の種族的に考えて。


 そして、そのLUCの13は、詳しく書くと13(1+0+12)と表示されている。他は1(1+0+0)だ。

 タップしてみると、括弧の中の数字は左から順に基礎値・ジョブ補正・種族補正と書いてあった。

 ちなみにそのよくわからないステータスのところをタップしてもその効果の説明はなく、HPや攻撃力みたいな私でもわかるステータスは一切なかった。


 ───なお、それは具体的な戦闘に関わる数値やそのパラメータが何の能力に影響を及ぼすのかを明記しないことで、数値に管理されたゲームの世界であるという印象を薄くし、より現実の感覚へと近づけるための運営の方針だったのだが、他のVRMMOを知らないゆきひめがそれを知る由はない。




「ん?称号ってところにnew表示がある」


 しばらくステータス画面とにらめっこしていると、自分の名前が表示されているところの上部にそんなものがあることに気が付いた。


 タップして称号一覧を開いてみたが、ぱっと見で獲得済みの称号はなかった。

 少し下にスクロールしてみるしてみてから、とんでもないことに気が付く。


「スクロールバーちっちゃ……」


 どんだけ称号用意してるのこれ。

 この中から頑張って探さなきゃいけないのか?と思った矢先、獲得済みのみという表示を発見したので迷わずそれを選ぶ。


「『運の極致』?」


 なにやら文字が刻まれたプレートに豪華な装飾が施されたそれをタップしてみると、その詳細が出てきた。


 ≪『運の極致』 全プレイヤーの中でLUCが一番高い者に送られる称号 ※LUC値が他のプレイヤーのLUC値を下回ると、この称号は剥奪されます≫


「ふーん」


 よくわからないが、なんかすごそうなのでセットしておく。

 ついでに、奪われると癪なので最初から持っていた自由に割り振れるステータスポイントとやらを全部LUCに振っておいた。まあ、5しかなかったので適当に振ってしまっても問題はないだろう。


 すると、13に5を振って18になると思っていたところ、実際はもっと高い数値に成長した。


「あれ、なんか28になってるけど……あ、種族補正が22になってる」


 つまり、今の私のLUC値は38(6+0+22)だ。

 基礎値を5増やしたら種族補正が10増えたから、種族補正は基礎値の二倍なのかな?でも最初から22あったし、10+2*基礎値って感じになるか。


 まあ、LUCがどんなパラメータなのかはわからないのでこれをどう判断すればいいのかは不明だが。



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