タブレット一つで異世界無双
チャーミー
プロローグ
「北見龍治(キタミ リュウジ)さん、ですね? ここは死後の世界。あなたはつい先ほど亡くなってって、あの。だ、大丈夫ですか?」
真っ白な部屋に、ぼやけた視界。
そこにほんのりと映り込まれるのは、寝転ぶ俺を心配気に覗き込むオドける少女。
突然の事で何がなんだか分からない。
目をチカチカさせながら上半身を起こした俺は、立っているその少女を見上げた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
もし女神というものが存在するのなら、きっと目の前の相手の事を言うのだろう。
テレビで見るアイドルの可愛らしさとは全く異なる、人間離れした美貌。
淡く朗らかな印象を与える桃色の柔らかな髪。
年は俺と同じくらいだろうか。
大きな胸を強調させるかのような豊潤な身体は、俗に羽衣と呼ばれる、淡いピンク色の紋様
に広く包み込まれている。
その少女は、髪と同色の、透き通った丸い桃色の瞳をパチパチさせながら、状況が掴めずぼんやりとする俺を心配気に見ていた。
・・・・・・俺は、先ほどまでの記憶を思い出す。
*
・・・・・・・・普段、学校に行かず家に引き篭もっている俺だったが、今日は珍しく外出をしようとした。
夏休みで暇をしていた友人に勉強をしようと誘われたため、久しぶりに身支度を整えて部屋から出ようとしたのだ。
もちろん、俺は行っても勉強なんかやらないし、やるつもりもない。
だから、暇さえあればいつでもゲームができるよう、きつく張られたズボンの縁に愛用しているタブレットを挟み込んでいた。
ショルダーバッグの中にスマホを入れて、よしと。
ようやく準備が整い、薄暗い部屋の入口の前で軽く深呼吸をすると。
不意に俺は、バッグの中に本を入れていないことを思い出した。
危ない、危ない。
ゲームオタク兼、多数の本好きな俺にとって『ゲームと本』は水と同じくらい日々の日常では欠かせない大切なもの。
部屋の隅に積み並ぶ通算400冊以上、重さにして70キロは優に超えるであろうその巨大な本棚はそのことを律儀に示していた。
だが、この本棚。
実は小さい頃に一度、物凄く大きな地震が来た時に倒れかけたことがある。
その時はまだ棚に入っていた本もそれほど多くは無かったので、本を増やせば心配ないと、その後に母がやたらと本を買ってきて本棚に入れ込んでいたが。
・・・・・・・・・・・・・。
今にして思えば、そんな本を増やしたぐらいで別に大して変わりないことぐらい、分かりきっていたのかもしれない。
ただ、そのことに目を背けたつけが回ってきたのか。
スマホの緊急速報が鳴り響く頃には、俺は本棚の下敷きになっていた。
そして・・・・・・・・・・。
「・・・・うわぁああ!!」
見ていた夢が現実になったかのように、ゾッと全身が浮き上がる。
俺はその女神を振り払うように、慌てふためき出した。
「な、なんだ!?え?何!?どうなってんの!!」
「だ、大丈夫ですから!お、落ち着いてください!」
「・・・・・・!!!」
目の前にいたのが彼女のような可愛げな少女でよかった。
そうでなかったら、俺はパニックでどうかしていたことだろう。
「ここは、どこ!?あんた、誰?!」
ビクビクと震えながらそう言う俺に。
その少女は、一息ついてからホッと肩の力を抜いて言った。
「ここはですね!あなたのように、若くして亡くなった人達を案内する神堂。
そして私は、ルーナ。この神堂を任せられている、め・・・・め、め、め、め・・・・!が、・・・・」
何かを言おうして、モジモジと下を俯く少女。
・・・・・・・もしかして、この人。
「女神って言いたいんですか?」
「そう!って、え?」
俺の思わぬ突っ込みに、顔をキョロめかす女神様。
どうやら、自分で自分のことを女神というのが恥ずかしいようだ。
「えええええ、な、なんで分かったの!?というか、なんでそんな冷静?!
さっきまで、あんなに不安がっていたのに!!」
いや、誰だって分かるだろ。
それに、目の前の女神様がこんなんだから、すっかりと緊張も解れてしまった。
・・・・・・・・
つまり、そういうことか。
俺はスカした笑みを浮かべて全てを見通してたかのようにして答えた。
「・・・だいたい話は分かった。要は現実で死んでしまった俺が、今ここへとやってきたってわけだな」
「ど、どうしてそんなにあっさりと!?」
どうしてと言われても。
アニメではお決まりの展開。
「ふっ、俺レベルの人間になると、こういうこともすぐに分かるようになるのさ」
「す、すごい!すごいです!若くして瞬時に状況を見抜けるだなんて!」
褒められて調子に乗ると。
「まぁ、これでも一応はプロゲーマーとして活躍していた時期もあったからな」
「!?」
・・・・・・・・・・・・・・・・
「今、なんて言いました?」
「え?なんてって、プロゲーマーとして活躍していた時期もあったって。」
すると、ルーナは先程よりも目を光らせながら俺の手を握ってこう言った。
「実はですね!あなたにとっておきの話があるんです!」
目を輝かせてとっておきの話とやらの説明を始めるルーナ。
その話を要約すると、こうだった。
ここではない世界、すなわち異世界の中にも1つ、ゲームが存在する世界があるらしい。
その世界では、あらゆる物事が全てゲームの勝敗によって決まるらしく。
それは一国の王の座までもがゲームで争われるんだとか。
・・・・・・なんだそのとんでもない世界は。
この世界のコンセプトは、ゲームそのもの。
つまり、世界そのものがゲームとなっていて、そこには盟約と呼ばれる神が定めたこの世界のルールがあるとかなんとかで。
そのルールを破ると、つまりゲームでいう敗北となり、それはすなわち死を意味するらしい。
あまりの現実離れし過ぎた話に頭が追いつけない・・・。
聞くだけならなんだか凄くワクワクする話に聞こえるが。
どうにもなにかが引っかかるような、うーーん。
「それで、どうですか? この世界、もしよければ行ってみませんか」
「・・・・・・・行くって、俺が?」
「はい!あなたのような才能を持っている方であれば、この世界できっと上手くやっていけるはず。違いませんか?」
唐突にそんなことを言われて、混乱する俺。
待って、まだ話に全然ついていけてないんだけど・・・。
だが、あれだけ格好をつけてしまった中、考え込むような姿など見せられるはずもなく。
「えええ、ええ。いいじゃないですか。好きですよ、そういうの」
「ほんとうに!?では早速、転送の準備をしますね!」
すると、ルーナという名の女神は、空中に浮かび出された透明なタッチパネルのようなモノを流暢に操作し始める。
なんだか嫌な予感しかしないのだが・・・・。
「あの、・・・俺、そういうのもいいって言っただけで、行くとは一言も・・・」
「え・・・・行き、ませんか?」
「・・・・・・・・・」
待望の眼差しを送りつけて来る女神。
こんな健気な美少女を前にして、そんな顔をされては断れるはずもなく。
俺は自ずと口走ってしまっていた。
「い、いや。行きます。行きますとも!」
「よかった」
なんだか、上手く丸め込まれただけのような気がするが、そんなことを思ってももう遅い。
俺は突如として足元に発生した魔法陣かなにかのようなモノにより、体が徐々に浮き上がっていく。
「それでは、今からあなたを異世界へと送りますね。
そちらの世界に着いたら、サポートアイテムが支給されていると思いますのでご確認を。
あ、最後にポケットの中を見せてもらっても?」
「ポケット?」
俺は言われるがままに、浮き上がらせた体でポケットを裏返す。
「特に何も入ってないみたいですね」
「どうして、ポケットを?」
ホッとした様子のルーナを見て、そう尋ねると。
「実は、元いた世界のモノは天界の規則で持って行くことはできないんです。
稀に身に着けていた衣類の中に入り込んでいることがあるのですが、リュウジさんに限ってはどうやらその心配は無さそうですね」
そう言って微笑むルーナであったが、俺は先程から感じていた後ろに当たる違和感に手を当てると。
・・・・・・・・
そこには、外出しようとした時に持っていこうとしたタブレットが。。。
「それでは、キタミリュウジさん!願わくば、あなたの活躍が多くの人を幸せにしてくれることを願っています!期待していますね!それでは!」
「ちょっ!待ってー!タブレット、入ってるんですけど!!!!!!!!!!」
タブレット一つで異世界無双 チャーミー @KingNoodle
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