第6話 作家仲間の話をしよう
「じゃ、適当な高校の文化祭探してくるから、先生、亜優、また今度ねー」
「お疲れ様でーす」
「おつかれー」
原稿を茶封筒に詰め直してバックに詰め、綾さんが出ていく。あの人にも感謝しないとな。編集者としての仕事に加えて、俺の要望まで叶えてくれるとは。頭が上がらない。
「そういえば、先生。日菜美ちゃんは無事に高校入学できたんだよね?」
「あぁ。それがどうかしたか?」
「いや、ただ、私みたいな思いをしていないかなぁと」
「…大丈夫だよ」
「微妙な間があった」
「あいつから学校の話聞かないからな。生返事するばっかだよ」
こちらから聞いても、「普通」だの、「んー」だのしか言わないからな。まぁ、外傷がないのは確かなんだけど…。昔っから他人に迷惑かけたくないからって無茶することもあったから、そこは気にかけてたんだけどな。
「…少しはコミュニケーションとったら?」
「日菜美に言ってくれ」
普段俺の事を褒め称えてくれる亜優が、まるで軽蔑でもしているかのような顔をする。
「いやだってさ、あいつ俺が何回か話すと『キモイ、しつこい』ばっか言うんだぜ?それでも話せるほど俺のメンタルは強くねえよ」
「相当嫌われてるね…」
「ホントな。もう少し可愛げのある性格にならないもんか…」
「逆に興味が出てきた。今度会わせて。いいモデルになりそう」
「まぁ、見てくれはいいな」
「むふー、たのしみ…」
あいつは会いたがるかどうか分からないが。大学の美術科の知り合いとでも言っておこうか…。デザイン科か?
「そういえば…、先生、話変わるけど」
「ん?」
「文化祭って秋にやるよね?私たち秋まで何するの?」
「…確かに!俺らそれまで足踏みか!?そんなぁ…、いや待てよ、ひとつ解決策がある!助っ人を呼ぼう!」
「助っ人…?」
俺はスマホを取りだし、数少ない電話帳の中からある電話番号をタップする。
一時間後…。
「よっす、一!スランプだって?」
「あぁ、学園モノの先輩であるお前の助言が欲しい」
「任せろ!」
彼の名前は新田清修。ペンネームは静寂清修で、俺の同級生だが、デビューは清修の方が先だ。まぁ、実際会って見れば見ての通りの変わり者だ。ジャージにカッターシャツ、そして竹刀。ちなみにこの竹刀は仕事の時も手放さないらしい。彼いわく、「これは俺の体の一部」らしい。
「げっ…」
「げっはねぇだろ、げっは」
「あいつはいないよね」
「ん、来てるぞー」
あー、こいつら犬猿の仲だからな…。その時、勢いよくドアが開かれた!
「相っ変わらず辺鄙なとこに職場構えてるわねー!まぁいいわ、茶を出しなさい」
「うげぇ…」
「あら、来てたのね、存在がちっこくて気が付かなかったわぁ」
「年中フリルで着飾って悪目立ちしてるあんたに言われたくない」
仏頂面で亜優と言葉の殴り合いをしているのは早川翔子。新人のイラストレーターで、今は清修専属のイラストレーターのようになっている。確かにこいつは年中フリルだ。まるで着せ替え人形のようだ。髪は少しカールしてて、金髪に染めている。俺もこいつのことは苦手だ。清修のことは同業者の先輩、また同級生として尊敬しているが。
「ぼっち」
「承認欲求の塊」
「陰キャ」
「DQN」
ギスギスしてる…。こいつらが揃った時点でそうなることは覚悟してたが。
「あいつらはほっといて、俺らは俺らで話し合おうぜ」
「そうだな。で、話なんだけど…、お前って前まで学園モノ書いてただろ?今は超能力モノだけど。そこで…」
「ん?」
「文化祭ってどうやって書いた?」
「普通に経験談で」
…、しばしの沈黙。あぁ、こいつリア充だった。
「お前なぁ、誰もがお前みたいに青春してると思うなよ?」
「文化祭なんて誰もが経験するだろ。お前しなかったの?」
「お前に聞くの間違いだったかも…」
「そうかよ。てか飯行かね?腹が減ったら書くものも書けんだろ」
確かに、もう昼か…。この近くに飲食店は結構あるし、選択肢はある。亜優もお腹を鳴らしてる。
「そうするか…、お、ここ予約行ける。いいか?」
「異議なし!」
「早く行こー」
画して、俺たちはレストランに向かった。結局、そこでも他愛のない会話をしていた。清修からはアドバイスらしいアドバイスは貰えず、亜優と翔子は喧嘩をしてばかりだった。
俺と翔子は駅に向かっていた。その途中、不意に翔子が声をかけてきた。
「ここ、いい場所ね。海も見えるし、落ち着いた街並み。まるで、物語の街みたい」
「それはあいつらに直接言いな」
「嫌よ、柄じゃない。それに、あいつらはライバルよ。互いに高め合いましょうなんて性にあわないし、どっちかって言うと出し抜きたい」
「ふ、素直じゃねぇ」
「あんたもね」
こいつも俺とかなり長い付き合いだ。互いに互いのことを大分分かってきた。
「適当にでもアドバイスしてやればよかったのに」
「んな事したらあいつ迷走すんだろ。あいつの持ち味は自分の経験を元にしたリアリティだろ」
「迷走したら落ちる所まで落ちるでしょ」
「そこまでして勝ちたいわけじゃねぇ」
「変なとこ真面目よねぇ、あんた」
「それに…」
俺は足を止めて、海を見つめた。翔子も立ち止まり、俺の方を見つめる。ギリっと、奥歯を噛み締める。
「俺はあいつに食われるぞ…、何れ、いや、すぐにでも」
「…!」
俺の言葉に驚いたのか、真剣な表情に驚いたのか。とにかく、彼女の表情が若干強ばった。
「そうならないために、私が居るの。かならず、あんたの作品を最高の形で描いてみせる。あいつらには絶対に負けない」
「珍しく燃えてるな。よし!俺も翔子の絵に釣り合うストーリーを考えるぞ!目指せ一千万部だ!」
「気が早いわね」
クスリと翔子が笑ったのがなんだか嬉しくなり、俺も笑う。そうだ。俺は何も競うのが好きだから小説家になったんじゃない。小説を書くのが好きだから、小説家になったんだ。現に、今もアイデアが湯水のように湧いてくる。楽しんで書く、それが俺だ!
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