第4話 過去についての話をしよう

 2ヶ月前は京都に行った。亜優と二人で。彼女も何やら刺激を受けたいと言っていたからな、インスピレーションが湧いてくるように外部から刺激を与えることを試したのだ。

 遡ること二ヶ月前…。


「おーい、先生こっちー」

「絶景だな、亜優」

「ん。さすが清水寺」

 現物を見た感想を簡単にメモアプリに打ち込む。亜優も簡単なスケッチをしてるようだ。

「八ツ橋、おいし」

「あぁ、そうだな。でも程々にな。他にも食べ歩くんだから」

「がってん」

 へー、最近のものはカスタードやチョコなんかも入ってるのか。二泊三日の修学旅行の全てのイベントを一泊二日で消化しなければならない。かなりのハードスケジュールだし、その分食事もほぼ二倍食べなければならない。

 とまぁ、一通り京都を観光して、その後…。

「おーい、亜優あと何枚だ?」

「先生が書き終わればこっちはあと一枚でノルマは終わる。今は適当に間の挿絵の挿入箇所を選考してる」

「こっちも佳境に入った」

 旅館に行けるほどの金も残ってないし、そもそも交通費も食費も馬鹿にならないので、安いビジネスホテルを借りて一気に作品を書きあげる。帰りの新幹線でも、かなり疲れたせいか二人ともいつの間にか眠ってしまっていた。


「では、次巻こそは水瀬先輩全面的に押し出してね?」

「先輩パートはもう少し先です」

「ぶー、先輩いいと思うけどなー」

「なんで俺が彩さんの為にストーリーを変更しなくちゃ行けないんですか」

「まぁ別にいいけどさー」だとか言って、ぷくー、と頬を膨らませた。さてと、ここからどう水瀬先輩を活躍させるか…。裏を返せば、四巻の内容に関しては特に直す箇所もなく、このままの形で大丈夫ってことか。今のとこは。

「で、何やら悩んでたみたいだけど、どうかしたの?」

 あ、そういや俺は五巻の内容で悩んでいたな。一応彩さんにも相談しようか。

「実は、次巻で文化祭を舞台にしようと思っていたんですが、思った以上に筆が乗らず、かと言って四巻で伏線を張ってしまったし、それに学園モノを書いている以上文化祭を省く訳にはいかないでしょう」

「ふむ、分かった。ここは、私に任せなさい」

 ポンッと、胸を叩く彩さん。なんだろう、彼女が今はとても頼もしく見える。が、何やら彼女の真意は俺の作品のためだとか、そんな理由じゃないことは分かった。良くないことを考えてる大人の目だ。

「その代わりとして、水瀬先輩の出番を…」

 協力してくれる交換条件か。それくらいなら。

「分かりました。なるべく彼女の出番を増やします」

「交渉成立!」

 俺と彩さんは固く握手する。にしても、文化祭か。どんな協力をしてくれるのだろうか。過去のビデオでも持ってきてくれるのか?

「というか、君たちは文化祭を知らないの?んなわけないよね。だったらなんで…」

「あの時は周りの目を気にしてて楽しむどころじゃなかったなぁ…」

「いじめで休み時間はずっとトイレにこもってた」

 ズーン、と重い空気が立ち篭める。「あいつキモくね?」「うわ、陰気臭ぁ」。あいつらの薄ら笑った顔が後ろ目に蘇った。ギリっと歯を噛み締めた。オロオロと俺たちふたりを交互に見比べる。何だ、こいつも灰色の青春を送ってたのか。

「亜優、そんなことあったの?」

「あ、これお姉ちゃんにもまだ言ってなかった」

 とんでもなく気まずい空気になった。まさか、彩さんにも話していない秘密が飛び出てくるとは…。

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