3章 圧夢駅 その2
ある日、夢を追う若者がいた。
だが日々を忙しく過ごす中、夢を追いかけるのは困難だった。
何故、俺たちは生きるための理由である夢を、諦めて生きているのか?
そうやって生きて何が楽しい?
夢を諦めて、生きるのでは無い。
夢を叶えるために、生きるのだ。
若者は、勤めていた会社を辞めて、夢を追った。
仕事に取られていた時間が、今はある。それが無限に存在しているように感じた。
この時間を、有効に使うぞ。
若者は張り切った。
夢は音楽を作ることだ。
朝から晩までずっと作曲していた。
この生活を続ければ、夢は叶うんだ。そう思っていた。
だが現実は、甘くはなかった。
若者は、最初こそ張り切って活動を行っていたが、有り余りすぎた時間が彼を余計に堕落させた。
時間があるから、明日すればいい。1ヶ月以内が目標だった、いや、3ヶ月以内だったか?まぁいいか、どうせ、明日も時間はある。
何かしらの目標を立てたとしても、時間はたっぷりあるからと言って、全く別の事をやっている日々。
当然働いていないので、金は減る一方だ。
夢を叶えるには程遠い生活だった。
曲のアイデアも浮かんで来なくなった。
仕事中は、いくらでもいいアイデアが思い浮かんだのに。
時間が出来た時、いざ何かを考えようと、ペンと紙を用意して机に座っても、白紙のまま1日が終わった。
若者はこの生活で夢を叶えるのは、不可能だと思った。
だが1つ分かったことがあった。
それは仕事の必要性だ。
確かに、仕事を懸命にやった所で夢は叶わない。
だが、仕事を全くやっていないと、堕落してしまう。
それなら、自分が不快に思わない程の仕事量をやりながら、その空いた時間に夢を叶えるための活動をすればいい。
それが結論だった。
それが直雄にとってこの職場、圧夢駅を作るきっかけになったのだ。
『そう思って立ち上げたのが、この会社だ』
『…理由は、分かったんだけど、それじゃ、この会社がどうやって成り立ったのか、分からないよね?』
『はぁ〜、またそれか。だからいいだろ?とにかく、必要とされているんだよ、この会社は』
『今は、それで納得しろってことか?はぁ〜分かったよ』
『明日から頑張れよ!木野!』
『もう働くのかよ』
僕は事務所から出た。
直雄は、ここに来たばかりの僕を働かせようとしていて、僕はそれを受け入れたのだ。
他にも直雄から色々な話を聞きたかったが、得られた情報は少なかったな。
・時間が余りすぎると、信念を持っていても人間は堕落する。
・夢を叶えるために必要なのは、環境の圧力。
・環境の圧力が夢を叶えるための活動を促進させる効果がある事。
・だが、仕事より夢を優先するため、自分が不快にならない量にする。
こんな所か。
生活するのに不備は無さそうだが、夢を叶えるのは、そこまでしないといけないという事か。
直雄は僕の夢を知っている。
僕の夢は、自分の人生を生きて、色んな体験をして、それを1つのストーリーにする事だ。
体験だけじゃなく、小説や映画、ゲーム、アニメ、漫画、音楽、絵、彫刻、様々な美術品。
それらには、制作者の様々な思いや伝えたい事、生き様が、詰まっている。
僕はそれらを、見て、触れて、体験して、自分が何を思うのか、それ1つのストーリーにすれば、自分が生きてきた人生の答えになると思った。
それが僕の夢だ。
この事を、高校時代に直雄に話すと、直雄も自分の夢を語ってくれた。
誰もが知っているような、凄腕の作曲家になること。
それが直雄の夢だ。
明天が持っているメダルを見るため、と自分に言い聞かせながら、僕はここで働くと決めた。
何一つ納得出来ることは無かったが、そもそも、これが現実かどうか分からない以上、無理に帰ろうと思っても、帰れないのだろう。
全員が面を付けている状況の中で、直雄だけが面をつけていない理由は、まだ現実を否定してないからだ。
彼の人生で少なくとも今までは、このことは絶対に忘れたいとか、悲惨すぎる体験は起こっていないのだろう。
だがここで働いている他の人達は違う。
この人たちは、全員、僕やあの老婆のように、面を付けるほど忘れたい記憶、壮絶な体験ががあったんだ。
一人一人に聞いて回るか?
すぐには解決できそうにないが仕方ないか。
それから、気が付けば数ヶ月という月日が流れていた。
僕はここの仕事にすぐに順応できた。
直雄に言われた通り、前の工場とほとんど同じ作業だからだ。
短い作業時間、長い休日、生活費も全て会社負担、寮での一人暮らしだが、悪くない生活だった。
何より寮が職場の隣にあるのが最高だった。
朝早く起きて、渋滞に巻き込まれながら行く憂鬱な朝は、もう無い。
だが絶対に守らないといけないルールもあった。
それは、夢を叶えるための活動を一日に絶対、行わなければならない事。
それを会社では、ノルマと呼んだ。
ノルマは自分で定めることが出来たため、非常に簡単なものでも良かった。
だから僕は仕事が終わったら一日、一行(10文字程度)だけ小説を書く、とノルマを決めて活動していた。
その日の深夜0時、その時間までに、ノルマを達成しなけばならなかった。
そんな簡単なノルマでも、認められたのだ。
毎日が楽だった。
夢の実現に、確実に近づいている感覚が、自分に生きる意味を与えてくれた。
だが僕がやっていたのはこれだけじゃない。
面を付けて働いている人に、最近おかしな事が起こってないか、聞いて回っていたのだ。
1人でも多くの人を解放(面を壊す事)できるように、僕なりに行動していた。
『あぁ、全て思い出した。まさか自分の腕が、事故で切断されていた事を忘れていたなんて』
『辛いでしょうが、それが事実です。でも今は耐えるしかない』
僕は従業員の1人に違和感を覚えた。
名前は※※※さん。
その人は、右腕を無くし、左手の指もいくつか損傷していたが、その記憶を無くして、働いていたのだ。
片腕が無い上に、残った指も少ないから、作業に対して、明らかに不慣れな様子だった。
僕はそんな※※※さんに、話しかけ、腕や指が無くなった訳を聞いていって、失っていた記憶を思い出させた。
そして、どうにかその人の面を、壊すことがてきた。
『木野さんが話しかけてくれなければ、私は機械に巻き込まれて失ったこの両手の事を、忘れたまま生きていた。怪我をしたのはもう何年も前の話なのに』
『真実を忘れたまま過ごす。僕も同じ経験をしましたから、辛いのは承知しています』
右腕は前腕ごと欠損。
左手は残っているものの、薬指と小指が半分で、人差し指は無かった。
残っているのは親指と、中指の合計2本だけだ。
※※※さんは、随分と短くなった右腕を、指がほとんど残っていない左手でさすりながら、悲愴だが信念が宿った目で自身の決意を語る。
『……それでも事故の事は今でも恐ろしい。私がこの仕事を続けれるのかどうか、人事部の人と相談してきます。木野さん、色々とありがとうございました』
僕は差し出された左手を握りしめ、励まそうと言葉をかけた。
残った2本の指に、力が入らない感触が、掌に残った。
握手してみて、この人の痛みをほんの少し、理解できた気がする。
『頑張って下さい!』
そう言って、※※※さんは、事務所に向かった。
これで良かったんだよな。
確かに、忘れたいような悲惨な記憶を無理矢理、思い出すのは苦しいと思う。
だけど、どこかで真実と向き合わなければならないんだ。いや、いずれ向き合う事になる。
犬に噛まれたお婆さんのようには、ならなかった。
僕は初めて自分の力で、面を壊す事ができたのだ。
とはいえ、まだまだ面をつけた人は大勢いる。全員の面を壊すのは、途方もない時間が必要だろう。
それでも、面が見えるのが僕だけだ。僕がやり遂げなくてはならない。
それにしてもこんなに長い間、家を離れて生活したのは初めてだ。
だが、家から連絡が一切来ない。こっちから連絡することも出来なかった。
現実味が無い。
だから気にしても仕方ない。
これは夢だからいつか覚める。
そう自分に言い聞かせた。
帰る必要なんて、今は無いんだから。
『※※※と何かあったのか?』
直雄が後ろから話しかけてきた。
『いや、ちょっと仕事のアドバイスを貰ってただけさ』
面のことは、誤魔化した。
『そうか、相変わらず真面目だな。もう少し楽にしてりゃいいのに』
『そうはいかないよ、僕は不器用だし、要領が悪いからね』
『あんまり仕事ばっかり気にしてると、ノルマが出来なくなるぞ』
『大丈夫』
『ならいいが。まぁ俺も今日は仕事が多いから、残業だ。だから人のことは、あんまり言えないんだけどな〜。ノルマを、優先したいのによぉ』
『なおの、ノルマは何?曲作りのことに関してだとは思ったんだけど、どのくらいの事をやってるの?』
『俺か?1曲作成』
『1曲作成!?それ、期限に間に合うの!?』
『いっつもギリギリだが、何とかな。自分で定めたノルマだ、これくらいこなしてみせるさ』
『そこまでしなくても…』
『ほら、これが昨日作った曲!』
直雄はまたしても、音楽を聴かせてきた。
『だから、聴こえてこないんだって!』
『まだかかるか』
『まだかかる?』
直雄は、音の無いこの空間でどうしてそこまでして、自分の作った音楽を聴かせてこようとするのか?
僕には理解出来なかった。
『そのうち聴こえるようになるさ!それじゃあな!』
『あ、あぁ』
直雄は、仕事に戻った。
1日1曲作成。直雄は仕事をしながら、それをこなしているのか。
ノルマは休日も達成しなければならない。
直雄とすれ違った時、あいつの耳に大きな傷の跡が見えた。
※※※さん程とは言わないが、僕にはそれが痛々しく見えた。
やはり工場勤務に労災は耐えないのだろう。
そんな、苦労をしながら、夢を追っているのか。
夢に関しては、あいつの方が熱心だな。熱心……。
僕が今、熱心になっているものは、メダル……か。
そうだ、メダルの事も忘れちゃならない。
だが、何も手がかりは見つかっていない。
明天、どこにいるんだ?
案内しておいて、何も言ってくれないのかよ。
まぁいいさ、今回も僕は独自に探してみせる。
それから、僕は四時間という短い業務を終わらせて、帰る準備をしていた。
さて、今日も小説の続きを少しだけでも、考えなくては。
考え込みながら僕は帰る支度を整え、ロッカールームから出ようとした。その時。
『ば、化け物ぉ!?』
※※※さんの大声が聞こえた。
いや、聞こえたように感じた。
音が聞こえなくても、声の感じ方で誰なのかは、判断できたのだ。
事務所の方からだ。
そこに目をやると、※※※さんが慌てながら扉を突き飛ばして出てきて、尻もちを着いていた。
※※※さんは、目を思いっきり見開いて、恐怖し、震えていた。
『※※※さん!?どうしました!?』
※※※さんは、僕の声を無視して、倉庫の方へ千鳥足で駆けて行った。
すると、事務所の扉から、巨大な茶黒い色の腕が見えた。
『え…?』
その腕は毛深く、筋骨隆々で、動物園で見たゴリラのような、あるいはそれ以上の太さをしていた。
爪は黒くて鋭く、先が三角形に尖っていた。
やがてその図体が、のっそりと事務所から姿を現した。
『化け…物だ』
この場所に対しての、認識が甘かった。
こんな化け物が存在しているとは。
最初に来た時の警戒心が、完全に無くなっていたんだ。
事務所の扉が小さく感じる程の巨体を、捻りながら、その化け物は出てきた。
その姿は、人に似ているが、遠目からでもハッキリと化け物だと認識できる。
全身が黒い毛に覆われ、顔は黒子が付けているような、白い垂れ布を顎まで垂らしている。
尖った両耳からは矢のような細い棒が突き出ていて、そこから血が流れていた。
そして筋骨隆々の黒い肉体で、全身は3メートルを超えていた。
顔面ではなく、頭頂部にあの面を帽子のように被っていた。
面の底部からその布が垂れていた。
アニメやゲームに出てきそうな、邪悪な存在、それが一番印象に近いだろう。
細部までは認識出来なかったが、僕にはあれが、恐怖の権化にしか見えなかった。
『ヅダァワラナィヨォォォ!』
化け物は意味不明な奇声をあげながら、※※※さんを追って倉庫の方へ歩いていった。
何だ!?あいつは!?
恐ろしい…。
確かに※※※さんが驚くのも納得だ。
どうする?追うか?
僕が追ってどうにかなるのか?
でもこのままじゃ、※※※さんが襲われてしまう。
行こう、もう誰かが死ぬ所なんて見たくない!
意を決して、僕は化け物の後を追った。
不安はあった。僕はまた、後悔すんじゃないのか?
それでも、動かなくちゃ!僕が気が着いた時にはいっつも遅いんだ!
だったら、迷ってる時間は無い!
倉庫に着いた。
暗いな…だが化け物は間違いなくこの場所にいる。
※※※さんは、どこだ?無事か?
電気をつけ…いや、辞めておこう。
何の音も聞こえない、何も見えない。
探そうにも、これじゃ探せない。
嫌な予感がする。
僕が追って、助ける?
どうやって?引き付けて時間を稼ぐか?
それは甘い考えだったんだ。
※※※さんは、もう殺されていて、僕も見つかってしまう。それであの化け物に……っ!?やめろ!そんな事考えるな!
僕が何とかするんだろ!だったら救う方法を考えるんだ!
そうだ!先に見つければいいんだ!
化け物よりも、絶対先に※※※さんを見つけてみせる!
恐怖から生まれたネガティブな感情を、何も解決しないゴリ押しな迷案で、誤魔化した。
そうでもしないと、化け物と静寂と暗闇に、精神を壊されてしまう。
何が分かる?この五感で、今何を感じる?見えない、聞こえない、匂い…は、錆びた物が多すぎてよく分からない。
そう思っていたら、倉庫に置いてあった機械の備品に手が触れた。
そうだ、今唯一頼れるのは手の感触、五感の触覚だけだ。
どうか、化け物に触れませんように!
手元、足元に細心の注意を払い、ペタペタと機械の端を触りながら、進んでいく。
ペタペタ、ペタペタペタ。
ペシャッ(消音)
足元には零れた機械油が、掃除もされずに放置されている。
どこだ?何処にいる?
硬い機械の感触ばかりだ。
たまにある柔らかい感触は、恐らく機械につけたクッション材だろう。
手汗が止まらない。うっかり化け物に触れてしまったらと、考えたら進めなくなるため、なるべく考えないようにした。
それにても、錆の匂いがほんとにキツイ場所だ。
んっ!?
何かを掴んだ!
機械じゃ無い、クッション材とも違う……っ!これは!手だっ!誰かの手……※※※さんの手だ!
間違いない。この少ない指の感触が皮肉にも伝えてくれた。
この手は※※※さんの手だ。
良かった!化け物に襲われる前に、※※※さんを見つけれたんだ!
僕は化け物に見つからないように小声で、話しかけた。
『※※※さん!僕です!木野です!さぁ、早くここから逃げま――』
その時、僕が手元に引いた※※※さんの手に、力は無く手首からダランっと下に垂れた。
あれ?※※※さん??
それが示していたのは、そこに居るはずの※※※さんが居ない事だった。
まさか、僕が握っていているのは、切断された※※※さんの……!?
パチッ(消音)
急に電気が付いた。
光が僕が掴んだ手の、正体を照らす。
そう、僕が掴んでいたのは、腕だ。それ以外は何も無い。
腕だけだった。
『あぁっ!!?』
それを脳が理解した瞬間、僕は思わず手を離してしまった。
ベチャッ(消音)
それが落ちたのは、真っ赤な血溜まりの中だ。
『うわあああっ!!』
後ずさりして、後ろにあった機械のクッション材に触れた。
だが、それは嫌にブヨブヨしていて、ベトベトだ。
これ……違う!?これはクッション材なんかじゃない!これは、人の……肉片!?
目に映ったのは、どこの部位かも分からない程、ぐちゃぐちゃにされた肉片だった。
ま、まさか。僕が通ってきたのはっ!?
恐る恐る振り返った。
その辺り一面が、肉片、骨、内蔵、見分けが付かないくらい、おびただしい量のそれらが、散乱していた。
血溜まりを踏んで歩いた、自分の足跡を見て、僕がどこを通ったのか、何を触ってきたのか理解した。
機械の備品にべっとりとこべり着いた、肉片を触ってきたのだ。
肉片だけじゃない。
身体から剥き出た脳、目玉、心臓、肺、腸、腎臓、肝臓、血管、それらがそこら中に、ぐちゃぐちゃに散らばっている。
所々剥き出した白い部分は骨だろうか。
それらをクッション材と勘違いして。
当然、自分の手も真っ赤に染まっていた。手汗なんかじゃなかった。
『……ぁあぁ……ぅおぇえっ!……』
嗚咽、目眩、吐き気、涙、言葉にできない感情が湧き上がってくる。
目に映るもの、匂い、感触、全てが気持ち悪い。
聴覚と視覚が無かっただけで、ここまで気づけなかったのか!?
その失意していく感情の中で※※※さんが死んだ事を、じっくりと確実に理解していった。
既に遅かった。
結局僕は何もできなかった。
そういえば、化け物は?っ!?まだここにいる!?
というか、なんで突然電気がついたんだ?
まだ恐怖は終わってない。
『暗かったから電気つけてみたらよぉ、おいおい、何だこの凄惨な現場は?』
『なお!?』
そこに居たのは、顔を傾け、片手で耳を抑えながら、もう片方の手で電気のスイッチに手を当てていた直雄だった。
化け物じゃなかったのか。
いや、まずい!まだ化け物が近くにいるんだ!
『木野、大丈夫か――』
『今すぐここを離れよう!化け物がっ!化け物が近くにいるんだ!』
僕は直雄の肩を掴んで、揺さぶりながら必死に忠告した。
ここに留まっていてはダメだ。
『落ち着けって』
『これを見て落ち着いていられるか!?化け物が、奴がやったんだ!僕は見た!事務所から出てくる化け物の姿を!あれは、悪魔そのものだった!』
『……だから騒ぐなって』
どうして何も動じてないんだ?まさか、この悲惨な光景が見えてないのか?
『どうして!?』
『音楽が聴こえないだろ』
『は?』
『音楽?こんな時に何を言っているんだ!これが見えないのか!?』
僕は直雄にバラバラの肉片を指さした。
『そこら中にバラバラで転がってるのは※※※だ。知ってるんだよ。だってそいつは、期限内にノルマを達成できなかったんだからな』
『ノルマを達成できなかった?』
『あぁ、だからこうなった。納期のデーモンに狩られたんだ。デーモンはノルマを達成できなかった社員を、処刑する悪魔。ノルマ達成の重大性を示すのに必要な存在だ』
嘘だろ。
ノルマを達成できなかったら、そんなペナルティがあったなんて。
あの化け物が、そのデーモンだと?
『どういう事?何でそんなこと知ってるの?』
『俺は人事部だからな。これも必要な罰則だ。ノルマが達成できないやつは、ここで働く理由も、生きる価値も無い』
何を言っているんだ?
直雄は、両手を広げて高らかに宣言した。
『ここは、夢を叶えるための理想郷!夢を叶えるために働き、生きる!そのために※※※は死んだ!そうしなければ生きるのは楽しくないんだよ!分かるだろ?それが理解出来れば俺の音楽が聴こえてくるんだよ、木野』
僕の知っている直雄は、こんな狂った人間じゃない。
夢を叶えるのに必死だったが、人の死を無下に思う人間ではなかった。
一体何があったんだ?
何がお前をそんな風にしてしまったんだ!?
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