鳥のお姫様が待ち侘びる大会へ
「ふぅ~! お腹いっぱいだぁ~」
「角矢って意外と食うんだな……」
ファミレスでの食事を終えた俺たちは、次の目的地に向けて歩みを進めていた。
食後の運動がてらの徒歩移動。健康的で悪くない。
まぁ真相を言うとファミレスから目的地までそう離れていないってだけなんだけどな。
「んで、大会までまだ一時間半くらいあるけど、その間どうするんだ?」
「エントリーはネットで済ませてるから、本戦が始まるまで各自自由行動ってことで」
プレイヤー代行が言うには自由に行動しても良いらしい。
ふーむ、ならばそのお言葉に甘えよう。俺は試合が始まるまで漫画でも読んでようかな。
代行を申し込んでおいて他人事みたく振る舞うのは申し訳なく思うけど、残念ながら今回はマイデッキは置いてきたから俺に参加の資格は無い。
参加者が一人でも減ることで角矢の勝利に繋がるなら本望だ。
陰ながら応援してるぜ。
「シュージさん、大会が始まるまで自由時間ならエンバーニアさんにご挨拶しに行きませんか?」
「それもそうだな……」
ここでラフラからの提案。せっかくここに戻ってきたんだから、一週間ぶりにあいつと会話するのも悪くない。
とはいえ大会が開催されるんだ。混雑が予想されるから、そう長い時間おしゃべりは出来なさそうだけど。
「ん? 何か言った?」
「いいや、何でも。それよりもほら、店が見えてきたぞ」
おっと、危うく独り言を聞かれるところだった。
ラフラとの会話は他人に聞かれると誤解を招きかねないから、注意しないと。
秘密の会話はなあなあにして誤魔化しつつ、タイミング良く見えてきた目的地を指差して話をずらす。
何はともあれ時は来た。
この大会で角矢が優勝を収め、俺がエンバーニアを安く購入するという目標は目前にまで迫っている。
頑張って優勝してくれよな、角矢!
無論、その腕を信用していないわけじゃないが、予期せぬことはいつだって起こりえるものだ。
最低でも準優勝! そのラインは越えられない!
一人心の中で大会の行く末を心配する俺は、いよいよ大会が開催される店舗へと足を踏み入れるのだった。
†
店の中は予想通り人で混み合っていた。
九割男性のムサい空間。ああ、それらしい奴らが買取カウンターやらゲームコーナーに大勢居る。
駄弁るなりフリープレイしていたりと、今日に限っては行きつけの店より多い気がするな。
そして……匂いも。うっ、カードゲーマーの負の側面っぽい匂いだ。
「ここが大会が行われる場所ですか……。なんだかちょっと臭います」
「角矢、ここの店は向こうみたいな異臭対策はしてないのか?」
「それなんだけど、まだ間に合ってなくて……ごめんね?」
だそうだ。若干香るのは対策をしていないからとのこと。
この店のカードコーナーは最近角矢が手を加えるようになってから見違えるレベルで変化している。
多分エンバーニアを発見出来たのも彼女のお陰かもしれない。そういう点では感謝だな。
とはいえ、行きつけの店のような異臭対策が間に合ってないのは良くないことだ。
早いとこ改善されるよう願おう。……まぁ、次にここへ来るか否かは今日の大会に掛かっているが。
「じゃあここで一旦解散ね。時間になったらカードガチャ機の前に集合で」
「ああ。試合は全部見るから。頑張れよな」
「ふふん、まっかせて! でもサプライズもあるから、楽しみにしててよね」
そう約束すると、角矢はどこか上機嫌そうに人がごった返すストレージコーナーへ姿を消した。
実に頼もしいぜ。流石は系列店の店員だ。
にしてもサプライズとは……? そこは気になるところだが、角矢の言うことだ。期待して待つとしよう。
「……さぁ、それじゃあ我が儘お姫様に挨拶しに行くか」
「はい! きっとエンバーニアさんも期待して待っているはずです。行きましょう!」
代行がいなくなり、俺たちは俺たちで出会うべきカードの元へと急ぐ。
一週間ぶりに自身の存在を認知できる奴らが来ればさぞ喜ぶことだろう。
もっとも、プライドがそれを許してはくれないだろうけどな。
そんな奴の顔を拝みに──本当に拝めるわけではないが──、俺たちはスタッフルームの入り口付近を目指すのだった。
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