その終わりは思いの外あっさりと

「ほぼ初めての遊園地、どうだった?」

「結構楽しめたぞ。最初がジェットコースターじゃなかったらなお良かったかもな」



 小さな個室の中で、俺たちは会話をしている。

 今いる場所は観覧車のゴンドラの中。角矢が急に乗ろうと言ったため、こうして二人きりとなっている。


「わぁ、すごく高いですよ、ここ! 上からだと園内の全体が見通せますね。あ、メリーゴーランドがあんなに小さく」


 否、個室にはもう一人の同席者がいる。

 ラフラは窓から外の景色を見て今日乗ったアトラクションなどを上から探している模様。


 騒ぐと揺れるだろと言いたいところではあるが、その声や姿は俺にしか感じ取れない。

 そのため、ゴンドラの中は俺と角矢だけの静かな世界だ。


「ねぇ、集児くんはさ、また遊園地に行きたいって私が言ったら一緒に着いてきてくれる?」

「どうした、急にそんなこと訊いて」

「いいから答えてよ。どうなの?」


 ラフラの声が聞こえない角矢には、恐らくこのゴンドラ内は静寂な世界になっているんだろう。


 それに感化されたように何やら意味深そうなことを訊ねてくる。

 ふむ、次に来る時にも俺が一緒に同行するかどうかか……。


 ちょっと悩む話だが、選択肢としては普通にアリだと思う。

 案外楽しかったし、次に行く時は今回のようなストーカーは現れないだろうからな。


 まだ乗れてないアトラクションも多いし、迷路もリベンジしてみたい気持ちもある。

 結論としては全然構わない。また予定が合えば行ってやらないこともないかも。


「良いんじゃないか? つってもシフトが合えばの話だけど」

「ほんと!? えへへ、そう言ってくれると嬉しいな。それじゃあまたここに来ようね。絶対、約束!」


 俺の答えに角矢は何だか嬉しそうだ。パーフェクトコミュニケーションが出来たか?


 今の言葉で上機嫌になった角矢ともう一度遊園地に行く約束を交わす。まだ些か気が早いような感じもするけどな。


 それにしても今日のデートがそんなに良かったのか?

 まぁ俺の場合は主役を立てつつ相方の手綱を引き、ストーカーを警戒するという3役を同時にこなしてるため、角矢とは捉え方が違うだけなのかもしれないが。


「えっ、また遊園地に来れるんですか!? やったぁ! 次に行く日はいつ頃になります!?」


 当然、側にはラフラがいるので、今の会話に反応する。

 次があったらその時もバリバリ着いてくるつもりのようだ。ま、その時が来たらもう一人くらい増えていそうではあるが。


 この辺りで俺たちがのるゴンドラは頂点を越えて下り始める。

 観覧車ってゆっくり進むもんだと思っていたけど、思いの外動くスピードが速いな。


「あ、そうだ。お昼はファミレスでいいよね? そのあと大会が開く場所に行くってことで」

「え? 昼はここで済ませるんじゃないのか? というか今からだとまだ三時間くらい時間あるんだけど」


 と、ここで角矢が午後の予定を唐突に口にする。

 意外や意外。あろうことか遊園地で昼食を取らずに別の場所で済ませるだけでなく、そのまま会場に行くつもりらしい。


 てっきり俺は大会時間ギリギリまで遊園地を楽しむのだろうと思っていただけに、この展開には驚きである。


「だって遊園地のご飯って正直ぼったくり価格ばっかりじゃん? ポップコーンだって小さいサイズであんなに高いんだし、クーポン使ったってそう変わらないよ。それなら最初から安いとこで食べる方が合理的だよ」

「そ、そうか……。なんか意外だな」


 角矢……お前もそういうの気にするタイプだったんだな。

 意外な一面を垣間見た。まぁ昼食は一番安価な物で済ませようと考えていたから、その点はありがたくもあるが。


 それに、遊園地を出るならストーカーを撒けるかもしれない。

 あいつがどこまで着いてくるかは分からないけど、こんなにも早く切り上げるとは流石に思うまい。


「遊園地から出るんですか……? もう戻らないってことですよね? うう、もう少し居たかったですけど、角矢さん優先ですから仕方ありませんよね……」


 しかし、早めに遊園地を出るということはラフラにとっては良いこととは言い難い。

 この通り遊園地を出ると聞いてテンションがだだ下がりしてしまった。


 いくら角矢優先だとは事前に言い聞かせていても、せっかく楽しめるようになってきたところでお開きになるのは本人にとって快くは思うまい。


 次に機会があれば行くとはいえ、ちょっと可哀想だ。後で慰めてやるべきかな。


「お、もう観覧車も終わるね。すっかり次の予定とかを話し込んで景色を見るの忘れてたや」

「そうだな。ま、次があればその時はアトラクション全制覇くらいの気持ちで行こうな」


 色々と駄弁っていたら、俺たちの乗るゴンドラはじき地上に降りる所まで下がっているようだ。


 最後のアトラクションが観覧車になるとは。

 時間帯は些か早いものの、実に遊園地らしい風情ある終わり方になったな。




 いつメンたちにお土産を買うと約束していたのを思い出し、観覧車を出てすぐ土産品のコーナーへ直行。


「んー、何買う? やっぱりポップコーンとか?」

「無難な物がいいよなぁ。あ、そうだ。チケットって鳥場さんからのプレゼントで貰ったのだろ? あの人には一番良いやつにしろよな」

「あ、やっぱりバレてた?」


 案の定チケットの出処が鳥場さんの物であると判明。まぁ最初から分かってたことだけどさ。


 なおさらあの人には良いのを買ってやらないと。

 多分、あの中じゃ一番俺のことを恨めしく思ってるだろうしなぁ……。


 あと迷路で貰った券はお土産にも適用出来たから、無駄にならずに済んだのは幸いだったぜ。


「……あいつ、流石にいなくなったか。何だったんだ、ほんと」


 最後に例のストーカーだが、確かに土産物のコーナーに着くまでは居たのをラフラ経由で聞いていたのだが、そこから出る頃には消えていた。


 果たしてあの人物は何だったんだろうか……?

 依然として気になるところではあるが、謎のストーカーはお土産コーナーを出る頃にには完全にその姿を消したのは事実。


 これ以上深く考えるのは無駄だろう。

 なんであれ遊園地デートは終わった。あとは午後の大会に向けて角矢の気力を高めさせるだけだ。

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