最速攻略のグリッチは空から
「──ッ! 次のヒント! どっちだと思う?」
「ああ。えーっと……こっち、右だ!」
迷路に入ってから数十秒が経過。俺たちは順調に攻略していた。
迷路の中には正しい道を示すヒントパネルがあるようで、それを見ながら正解のルートを通っていく仕様らしい。
二択のなぞなぞ形式で書かれているそれは、案の定この遊園地内に関連するクイズになっている。例えば────
『園内のマスコットキャラの名前は何?』とか、
『ポップコーンのフレーバーは全部で何種類?』みたいな。
当然覚えてなければ知りもしない。
つーか来て間もないために迷路を攻略するヒントは俺たちにとって、これはほぼ無意味なものだ。
「ねぇ、一応訊くんだけどさ、本当にこの道で合ってるの? 当てずっぽうじゃないよね!?」
「ああ、安心しろ! もし仮に間違ってても、最悪超高速で左側の壁に沿って行けばゴールに着く!」
だが、そのヒント板が出てくるたびに、俺は即座に道を決めて迷わず進んでいく。
この即答ぶりに角矢はやや懐疑的な目で俺を見てくる。
まぁそう思うのも訳ないこと。怪しいと考えるのは正常だ。
というのも、今の俺の右目は特別な仕様になっている。
上空を浮遊しているラフラの視界を共有することで、迷路の中にいながらここの地形を全て把握することが出来るからだ。
「次のヒント! 今度はどっち?」
「えー、待てよ。次の道は──」
早速次のヒント板が出現。そうすると、俺は右目の封印を外して、代わりに左目を手で塞ぐ。
すると見えるのは当アトラクションを上から見ている光景。
所々が黒いもやで隠れていて、俺たちが通ってきたコースとハズレの道が一目瞭然。
そう──これがラフラによるサポート。
まず俺の直上へと飛んでもらい、そこから見える景色をこの右目に投影。
さらに俺はゴールから正解のコースをたどり、ラフラにはハズレの道をスペルで塗りつぶしてもらうことで完璧なルートを作り出している。
ラフラという存在に気付けなければ不正の証拠はない。そして気付ける者はどこにもいない。
これなら誰にも疑われることなく最速ルートでこの迷路を突破することが出来るのだ!
「今度は左ッ! ゴールは近いぞ、多分!」
「まるで道筋が分かってるみたいじゃん。どういうトリック?」
「まさか。ただの勘だって! 最速目指すなら思い切った方がいいだろ!」
俺の即断即決ぶりは角矢をも圧倒。疑いの目は晴れないが、適当に誤魔化して突き進む。
そんなギミックを完全無視した迷路攻略は、俺の右目によるともうじき終わりを迎える頃合いだ。
目標タイムの一分台ゴールまであと少し。このまま突き進む!
──だがしかし、ここで思わぬハプニングが。
「ここを曲がればゴールは目の前──って、あれ!?」
信じて疑わなかった最速ルートだが……それは突如として現れた壁によって絶たれてしまう。
「行き止まり……! ちょっと、この道で合ってるんじゃないの?」
「いやまさか……ここで間違えるなんて……!?」
ここでまさかの行き止まり。こんなの俺の計算に無いぞ!?
い、一体どこで間違えた? 俺は右目で全体のルートを今一度確認。ゴールからルートを逆算してみることに。
すると、行き止まりに当たった理由が判明する。
「……隣の道と間違えたんだ。俺としたことがこんな凡ミスを……!」
原因は実にシンプル。本来進むべき通路ではなく、一つ分ずれた位置の道を進んでいると勘違いしていたんだ。
過信しすぎた……! 自分だけ上から全体図を見れるという特権に気を取られすぎたあまり、ろくな確認もせず真っ直ぐ突き進んでしまったのが原因。
畜生ぉ……。角矢に安心しろと大見得を切ったというのに、こんなことになるなんて……。
「……ごめん、自信あったんだけど道間違えてたみたいだ」
「変に自信満々だからうっすら怪しいと思ってたけど、やっぱり何かズルしてたんでしょ?」
「う~ん、そんなとこ」
しょっちゅう疑いの目はかけられてたからな。案の定不正を疑われていた模様。
それをした上で失敗したんだ。最早認めざるを得ない。
まぁその内容は教えられないけど。
「まったく、いくら最速記録更新を目指したとはいえ、そういうのは良くないよ? 集児くんは勝つためにイカサマするわけ? しないでしょ?」
「はい……」
行き止まりの通路にて、発覚した不正行為について怒られてしまう俺。
そりゃそうだ。いくら角矢のためとはいえ、不正をした事実は好ましく思うわけない。
直上のラフラからはどういう目で見られていることやら。
見ないでくれるとありがたいが、右目にはしっかりと上空から怒られる俺の姿が映ってしまっている。
なんともみっともない姿だ……。
穴があったら入りたいとはこういう状況なんだろう。今日一の失態である。
「反省してる?」
「はい……、深く反省してます……」
「ならよし! 変にカッコつけるのも無しね。……それに、普段の集児くんの方が私は好きだしね」
「へ? 何て?」
「な、何でもない! 次同じことしたら大会の件は無効って言っただけ! ほら、もう早くゴールに行くよ」
最後にぼそっと何かを言ったような気がしたんだが、どうやら恐ろしい内容を口にしていたようだ。
うぐぅ……。忘れていたわけではないが、大会の代理参加を取り辞めにされるのは流石にマズい。
そうなってしまうと
であれば角矢様々、慈悲深いお心に感謝をしなくては。
「どんなズルをしてたのかは知らないけど、あんなにスムーズに進んでたってことはゴールまでの道は分かるんでしょ? ほら、早くしないと景品も貰えなくなっちゃうよ」
「あ、ああ。こっちだ」
角矢の言う通り早いとこ出なければ貰える物も貰えなくなってしまう。急ぐに越したことはないな。
そんなわけで俺たちは行き止まりから離れて、改めて正解のルートへと急ぐ。
今度は道を間違えるなんてしない。右目の案内通りに進む。
俺と角矢、そして直上で浮遊するラフラ共々、迷路をついに突破するのであった。
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