身を隠すは迷宮の中?

「ここか……」

「集児くんってこういうの好きなんだ?」

「好きって言うか、絶叫系が苦手になったからここにしたって感じだな。うん」



 歩くこと数分。目的地に到着する俺たち一行。

 ここはどんなアトラクションなのかというと────それは『迷路』である。


「迷路……。歩いてたらいきなり車体とレールが出てきてジェットコースターになったりしませんよね?」

「どういう疑い方してんだ……」


 ラフラはジェットコースターにトラウマが植え付いたおかげで、あらゆるアトラクションへ不信な感情を抱いてる模様。

 流石にそれは疑いすぎだ。発想が予想の斜め上を行ってるぞ。


 ともあれ俺が迷路というアトラクションを選んだのにはきちんとしたわけがある。

 まず俺──特にラフラ──が動きの激しいアトラクションが苦手だというのが分かったこと。


 実体を持ったカードでもメンタルは傷付くことが判明したから、無用な刺激は控えたいと考えている。

 もう一つがストーカーらしき人物を撒くことにある。


 迷路から出るには時間を要するのは自明の理。そのため、犯人側からしてみればいつ目標が出てくるか分からない状況を生み出せるんだ。


 無論、追うように入ってくればこっちはラフラの魔法を駆使して最速で脱出。そのまま別の場所に行ってミッション完了だ。


「ここなら自分のペースで進むことが出来る。おまけに迷路だから頭だって使う。俺にはこういうのが合ってるんだわ」

「ふーん。それじゃあさ、ここの、狙ってみようよ」「最速?」


 完璧な作戦に心の中で鼻高々になっていたら、角矢が何かを見つけた模様。そして提案する。

 言われた場所を見れば、そこには看板が一枚。


 内容を読むと、どうやらこの迷路にはタイムアタック要素があるらしく、最速タイムでゴールすれば商品が手に入る模様。


 はぇ~、そんな要素があるのか。ちょっと面白そう……でもどうする?

 もし仮に犯人が俺たちが最速クリアを狙うだろうと考えれば、出先で待ち伏せされるはず。


 それでは迷路を選んだ意味が無くなってしまう。一体どうすれば……?


「あータイムアタックは……その」

「ねぇ、やろうよ! 絶対楽しいよ!」

「う、うぅ……。わ、分かった。タイムアタックな……」


 人知れず迷う俺だが、事情を何にも知らない角矢は迷いなくタイムアタックに挑戦する意志を見せる。


 本日の主役にそう言われてしまえば否定など出来やしない。

 角矢の言うことは何でも聞く約束だからな。折角のストーカー対策がおシャカになってしまうが、最速クリアを目指すのみ。


「ここの最速は……3分弱か。速いんだか遅いんだか分からんな」

「速いか遅いかはやってみないとね!」


 最速記録の看板を見て唸る俺に対し、角矢はド正論を言い放つ。

 うむ、カードゲームとてそれは同じで、新規のカードが強いかどうかなんで事前評価だけじゃ不十分。


 実際に回してみないことには分からないのがこの世の常。

 というわけで角矢はタイムアタックに挑戦する旨をスタッフに伝え、準備をしてもらう。


 その間、俺はラフラへあることを要求する。


「ラフラ。お前、迷路のゴールまでの最短距離を導き出せるか?」

「可能だとは思いますが、一応理由をお訊ねしても?」

「そんなの……俺たちが犯人の予想を越える早さで攻略して撒くしかないからだよ。いいか、頼んだぞ!」


 相方に頼むのは迷路の最速ルートを導き出してもらうことだ。

 簡単な話不正をするのだが、これにはれっきとした訳がある。


 迷路の最速クリアを目指した以上、ちんたらと中を進むなんて手は使えない。

 ならばそれを逆手に取り、最速クリアこそが犯人の意表を突く唯一の手段になる。


 犯人とて人間だ。向こうの想定を遙かに超えるスピードで攻略すれば、意表を突いて撒くことが出来るって寸法よ。


「なるほど、分かりました。ではもう一度スペルを使います。今度は私の視界を共有して、迷路を上から見えるようにします」

「ゴールまでの道筋を表示するのは無いのか?」

「流石にそこまで都合の良いスペルはちょっと……。でも一目で分かる外れのルートは私の方で塗りつぶしておくので!」


 ひそひそ話による会議で、迷路攻略の作戦を立てる。

 迷路に入っている間、ラフラには俺から離れられる範囲ギリギリまで上を飛んでもらい、先の『運命共同体の悪戯』で視覚を共有をする。


 上空からの情報を頼りに、ゴールまでの道筋を探るのだ。

 流石に最初からゴールを導き出すスペルは無かったようだけど、それも仕方が無い。


 ラフラからのサポートもあるようだし、これでも十分役に立つはずだ。


「では魔法スペル──『運命共同体の悪戯』を発動します。先ほど言った通り、今度は私の視界の一部をシュージさんに同期させます」

「うぉ……! あ、俺の姿が見える……けど、これアレだな。目への負担がかなり大きいな」


 もう時間が無いので早速作戦開始。ラフラのスペルを発動させ、視界を共有する。


 どんな感じかを説明すると、俺の右目がラフラの視界になっている感じ。右目の視界には俺の正面姿が映っている。


 不思議な感じだ。でも左右で見える物が違うせいで、目から伝わる情報処理に負担がかかっている。


 あんまり長々とこの状態にはさせられない。迷路に入るまで片目を押さえておこう。


「集児くん、どうしたの? 目なんか押さえて」

「ああ、その……目にゴミが入ってさ。ちょっと目を開けらんないんだ」

「え、大丈夫!? どうしよう、迷路入るの待つ?」

「気にするな。別に痛いわけじゃないし問題ない」


 案の定角矢から心配されてしまったが、流石に視界共有のことは言えないからな。適当に誤魔化しておく。


 それはそれとして、迷路に挑戦する時間が来た。

 俺たちはスタッフの案内で迷路の入り口へ案内されると、軽く説明を受ける。


 聞いた内容は割愛。要はスタッフが時間を計測し、制限時間内にゴールすると商品が貰え、最速記録更新で豪華な物が貰えるってことらしい。


「目指せ一分切り! 入ったら走るよ!」

「へいへい。安心して任せろって。……じゃあラフラ、頼むぞ」

「了解です!」


 それを聞いて角矢のやる気は更に上がる。タイムを大幅更新してやるつもりみたいだ。

 安心しろ。その意気込みに見合う結果を俺とラフラが出してやるからな!



「それでは、よ~い……スタート!」



 スタッフの合図により、迷路攻略が開始された。

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