謎の人物とポップコーン

「何ぃッ……!?」



 その報せを耳にした瞬間、俺はすぐさま後ろを振り向く。

 すると、少し遠い場所に怪しい人影が咄嗟に物陰に隠れたのが見えた。


 うわマジか。本当にいた。ラフラの言う怪しい人……不審者が。

 今の咄嗟に隠れるっていう挙動をしたってことは、ただの偶然なんかじゃない。


 今の奴は間違いなく俺たちを付けていたんだ。一体いつから……!?


「どうしたの?」

「え? あ、いや……な、何でもない。もしかしたらトイレに忘れ物したかもって。気のせいだったから大丈夫」


 俺が急に後ろを振り向いたことに驚く角矢。

 おっと、俺が不審なことをしちゃマズい。取りあえず再び適当な言い分で誤魔化しておく。


 しかし……これを教えるのは良くないよな。

 せっかくの遊園地デート。角矢は楽しみにしてたっぽいから、不審者がストーキングしていると知れば楽しさは半減だ。


 分かるぞ。犯人の目的は角矢に違いない。

 仕事で人と会話することがあり、なおかつ誰にでも優しく接するこいつのことだ。どこかで人の恋心でも奪ったんだろう。


 不届き者はストーカーの方であることに変わりはないが、罪な女だぜ。


「……角矢。俺ちょっとしょっぱい物が食いたくなってきた。早いとこポップコーンの売り場に行こう」

「え? なんか急だね。いいけど」


 俺は角矢に後ろを向かせてしまわないよう、次の目的地へ行くのを急かす。


 誰かがついてくるのなら、それを撒くに越したことはない。

 今日の主役は角矢だ。こいつが不快にならないよう、徹底して犯人から遠ざけるべきだ。


 ボディーガードを名乗るには若干心許ないけど、これも全て午後の大会のコンディションに影響を出さないため。


 その役目、勇んで買ってやろう。敵の攻撃を防御するブロッカーの如く、今日一日守り切ってみせる!


「…………!」

「……あ、はい。分かりました。後ろは私が見張っておきます!」


 移動の最中、俺はラフラに目配せをする。

 流石ストーカーを最初に発見しただけに、事態はある程度理解しているようだ。背後の警戒を担ってくれる模様。


 いやぁ、これは助かる。ラフラを連れてきたのは正解だった。

 俺だけじゃ後ろを気にしすぎて犯人の存在に気付かれてしまうだろうからな。


 おまけに逐一後ろを見たら犯人にバレるだろうし、直接視認せずに済むのはありがたい。


 俺のもう一つの目となってくれるラフラには感謝だ。

 このデートの結末はどうであれ、こいつにもあとでお礼でもしとくべきだな。


「あ、見て。あそこじゃない?」

「ぽいな。じゃあ賭けに負けた以上、俺が奢んなきゃな。何味にする?」


 警戒しながら歩いて行くと、目的地に近付いてきた。

 目と鼻の先には大勢の人だかり。周囲に香ばしい匂いが濃くなってることから、飲食系のコーナーらしい。


 まだ昼までもう少し時間があるけど、まぁ人が多いこと。

 はぐれたらすぐには見つからなさそうだ。気をつけよう、特にラフラが。


「あー、あったあった! ほら見て、沢山種類あるよ」

「ポップコーンってこんなに味の種類があるんだな……」

「これがポップコーン……! 白くてふわふわした見た目ですね。以前テレビで見た白カビに覆われるみたいです」


 ポップコーンを売る店を見つけると、早速購入のために品定め。

 ラフラの何とも言えない例えに俺だけ微妙な気持ちになるが、そんなことは置いておき、フレーバーの種類に舌を巻く。


 基本の塩味は勿論、キャラメル味、醤油バター味、チョコをコーティングしたものからチーズ味、ミルクティー味など、様々な種類が用意されている。


 俺の職場にも袋菓子のポップコーンは置いてるけど、塩しか種類がない。今の味付けってすげぇんだな。


「私決めた。塩キャラメル味!」

「俺は醤油バターでいいや。って、意外と高いな……」


 しばらくの吟味をした後、角矢は塩キャラメル味を選択。

 俺はシンプルに醤油バター味だ。しょっぱい物が食べたいってのもあながち嘘でもなかったしな。


 それと薄々気付いてはいたけど、ポップコーンって結構高い。Sサイズで500円もするとは。

 これ一つでカードパック三つ分のお値段。なんか複雑だ。


 だが俺のはまだいい。角矢の選んだ塩キャラメル味に到っては同じSサイズで800円!

 いくらコーティングされてる手間の掛かっている物とはいえ、これぼったくりだろ!


 職場の店なら一袋でこれの二倍の量入ったやつを余裕で四袋は買えるし、カード換算なら五パックだ!


 でもそんな不満を口には出すまい。ツッコミは心の中に留めておくのが大人よ。

 本日は主役の仰せのままに。好からぬ不満は噛み殺すぜ……。


「んふふ、美味し~い!」

「ポップコーン自体久々に食べたけど結構美味いな。今度店にあるやつでも買って食べよっかな」


 心の中で血涙を流しつつポップコーンを二種類購入。

 1300円は天に召されてしまったが、味はそれを保証するものだった。


 美味い! 濃いめながらもあっさりとした食べ応え。

 普段の低カロリーな節約食に物足りなさを感じていたが、これはそんな口寂しさを打ち消してくれる一品だ。


 流石に高い金額を払っただけはある。全く、高級品を掴まされてしまったな。


「次どこ行く? フリーフォールとか?」


「ひえっ……」

「いや、絶叫系は遠慮しとくわ……」


 菓子をつまんでいると話題は次のアトラクションになる。

 どこから持ってきたのか、角矢はいつの間にか遊園地のパンフレットを出して吟味し始めていた。


 ラフラと一緒にパンフレットを覗き込んでみると、遊園地の敷地内を表した絵が載っており、近くにはいくつかアトラクションがある模様。


 一応刺激の少ないやつにしてもらうつもりではあるけど、そんな気持ちなど露知らずといった感じで角矢は絶叫系を再度希望している。


 次からはそういう系はそういうのは一人で乗ってもらうとして、俺らは何にしようかな……。

 今はストーカーらしき人物が後をつけている状況だ。可能なら奴を撒ける場所が望ましい。


「……お。ここ行ってみないか?」

「あー、ここか。そういえば私もこういうの初めてかも」


 パンフレットを見て、あるアトラクションを発見。

 一目で分かった、俺が求めている完璧な場所! ここが良い!


 絶叫系大好きな角矢だが、どうやらこのタイプのアトラクションは初めての模様。


 ならば丁度良い。次のアトラクションはここで決まりだ。

 ポップコーンを食べながら、その場所へと向かうとするか。ストーカーにも追いつかれないようにな。

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