絶叫、絶望、大後悔!

『おお、動いてます! ここからどうなるのでしょう?』

「ん、結構高いな……」



 ジェットコースターに揺られ、車体は坂道を登る。

 テレパシーのように聞こえるラフラの声の様子から察するに、どうやら問題なく外界の変化を感じ取れているらしい。


 楽しめているようで何よりだが、まだアトラクションのピークは来ていない。

 絶叫系アトラクションの代表格みたいな物だからな、ジェットコースターは。


「…………っ」


 ちらっと下を確認。足も竦むような真下の景色が視界に入ると、ちょっとだけ恐怖を感じる。

 ううむ、情けない自覚はあるけど、ちょっとだけ後悔中だ。


 実を言うと初めからこのアトラクションに乗りたいとは思っていない。

 別に高所恐怖症ってわけじゃないが、だからと言って高所が好きというわけでもない。


 何しろ俺にとってジェットコースターに乗るのはこれが人生初のことになる。

 安全性の保証はあっても、やはり怖いという気持ちは湧き出てくるんだ。


 でもそれも含めて楽しむのがこのアトラクション。

 楽しもうとする気持ちが大事だ。……多分


「へいへい怖がってるぅー」

「バカ言え。こんくらいどーってことは……」


 隣の角矢がまたしても挑発。この野郎……自分は平気だからって人をおちょくりやがって。


 と、内心ぶつくさと考えていたら車体が止まる。

 どうやらレールの最高地点に到着した模様。流石に遊園地で一番高いところだ。ここで停止するのは流石に肝が冷えるな。


『た、高いですねー……。車体が前方方向に動いたのを察するに、もしかしてこの後は──』

「来るぞ……。覚悟決めろよな」

「それはお互い様ってことで」


 数十秒間の停止状態。ラフラもこれから起こることを何となく予想できているようだ。


 そして、僅かに車体が動くと──次の瞬間、車体は加速しながら下り始める!



「ぐおっ……!?」

「わあっはぁっ!」



 猛烈な勢いと風圧が乗客全員を襲う。

 乗客たちの叫び声と共に猛スピードで前方へと走っていく車体はまさに絶叫系の名に相応しい。


 安全だと分かっていても本能的に固定具にしがみ付いてしまう。

 なるほど、これがジェットコースターか! ある程度予想は出来ていたが、苦手な奴が少なくないわけだ!



『うわああああああああああっっっ!?』



 そしてこの暴走列車にはもう一名、誰にも聞こえない叫び声を上げる人物がいる。そうラフラだ。


 スペルの効果で俺が感じるジェットコースターの威力を同期しているようだが……ほ、本当に大丈夫か?


 くっ……、非常に心配だが気にしてやれる余裕が無い! 悪いけどこのまま耐えてくれよ!



「ひゃっはー! 気持ちぃ~!」



 こいつはこいつで何故に平気でいられるんだ! そっちも久々なんじゃないのかよ!


 駄目だ。角矢とは耐性のレベルが違う。

 うん、素直に認めよう。俺はジェットコースター苦手だわ。



『いやああああああ──……』


「ぐうぅ……! ラフラ? 声が聞こえなく──ううぉっ!?」



 と、二度目の螺旋状のコースを走ったタイミングでラフラの絶叫が突如途絶えた。


 俺にとってはすぐ耳元で聞こえていた悲鳴。

 やかましいながらも心配していた人物の声がいきなり消えたことにはすぐに気付くが、とはいえやはり状況が状況だ。


 螺旋回転から解き放たれると、今度は大車輪さながら宙に大きく弧を描いたコースへ突入する!



「うぐぅおおお……!?」


「うぉお──! これ良いぃ~!」



 マジでラフラに考えを割いてやる余裕が奪われていく!

 耐えるだけで精一杯な俺だが、隣の女傑は俺とはまるで正反対の様相で楽しんでいるとは……同じ人類とは思えない。


 うーむ、後悔先に立たずか。遊園地に来て最初がこれになったのは最悪としか言い様がないな!




 それからしばらくの走行……と言っても、あの大車輪コースがジェットコースターの最後だったようだ。


 内蔵を揺るがすような回転の後、大トリを飾ったコースを過ぎると緩やかに動きを遅らせていく。


 最後に車体は静かに元の位置へと戻る。

 数分間にも及んだ地獄のようなアトラクションは、思いの外呆気なく終幕した。


 初めての絶叫系アトラクションに呆然とする俺。

 次の乗客のために皆が席から下りていく中、一つの誓いを立てていた。


「もう二度と乗らねえ……」


 それは、金輪際ジェットコースターに乗らないという絶対的な意志を固めることだった……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る