第二弾『炎鳥の女王は誠意を望む』

乙女炸裂、角矢の内情

「むふふっ……! やった、ついにやっちゃった! 集児くんの連絡先、手に入れちゃった!」



 私は──角矢三咲はついにチャンスを掴んだ! 

 ベッドの上で寝転びながらバタバタと両足を動かす。布団を叩く度に舞うホコリのことなんか気にしてなんかいられないよ。


 それくらい今の私は興奮している。

 だって好きな人の連絡先を聞けれたら誰だって嬉しいと思うはずだよ!


 スマホを起動して、連絡先に追加された新しい番号を眺める。

 これが……長年思い続けた人の連絡先。しかもSNSまで交換出来ちゃうなんて!


 今日はツいてたなぁ~……! そうしみじみ思う中、これまでの苦労が報われた気がした。


「ここまで長かったなぁ。ようやく苦労が芽吹いたって感じだ」


 苦節数年。集児くんと再開してから今日まで、接客の皮を被ったアプローチを何度も繰り返してきたけど、イマイチ近付けている実感は得られないままだった。


 鈍感というか何というか……。集児くんって基本的に落ち着いていて、好きな物事の前でもあまり騒いだりするイメージがない。


 つまり感情の起伏が薄い人ってことになる。

 積極的に近付いて話かけてみても、常に態度がフラット。


 分かった上で平常心でいるのか、それとも単純に気付いてないのかすら判断が難しいの。


 でもそれは昔からだった。

 学校じゃいつもどこか上の空というか、友達の前でもあまり騒いだりしない静かな男の子って感じで。


 落ち着きのないクラスの男子たちとは違って、どこか大人の雰囲気を当時の私は感じていた。


 勿論それだけが好きになった理由じゃないけど、成人した今でもそれは変わらない。

 何年経とうが私の想い人だ。


「でも……まさかあんな約束までしてくれるなんて。運が巡ってきたってレベルじゃないよ。ヤバいヤバい、ニヤけが止まらない……ふへへ」


 これまでの苦労を懐かしむのはさておき、つい数時間前に私は気が気じゃ無くなるくらいの大変な約束を結んでしまった。


 その時のことを思い返すだけで笑みが勝手に浮かんで、顔が熱くなる。

 もう、これじゃ普通にキモい人だ。でもしょうがないよね。


 だって集児くんが何でも言うこと聞いてくれる権利だよ?

 勿論限度はあるにしても、それを約束できてニヤけないなんて我慢できないでしょ!


 まさか口から出任せを言ったら、二つ返事でオッケーしてくれるだなんて普通思わないって。


 言ってみるもんだなぁ……。ありがとう神様。このチャンス、絶対モノにしてみせます!


「ふへへ、どんなことしてもらおうかなぁ……。か、彼氏になってとか……いや、それは流石にいきなり過ぎるか」


 ベッドの上を転がりながら特権の使用方法を考える至福の時。

 この貴重な機会、堂々告白も良いけれど相手のことも考えたい。


 となると、やっぱり自然とお付き合いに発展させるようにするのが大事だと思うんですよね。


 プライベートな付き合いを頻繁に行って、個人間の親睦を深めていくのが吉と見た。


「やっぱりデートが一番堅実なお願いだよね。さて、どこにするべきかな……?」


 その最初の一歩として、デートが最適解だと私は思う。

 そうなると次に浮かぶ問題はどこへ行くのかになる。ここは非常に重要なポイントだ。


「家? は流石に最初の選択肢としてぶっ飛びすぎてるか。それに何するかも大体予想つくし」


 うん、この案はまだ早すぎる。

 そもそも実家暮らしのこの身、親や弟もいるからいきなり連れ込むのは色々な意味でマズい。


 というか家に招待したところで、やることは多分ファミスピだけだろうし。


 そもそも私はプレイヤーで、集児くんはコレクター。カードに対する趣向もそれぞれ違う。


 なんの進展が無いまま終わっちゃうのは目に見えてる。お家デートの案はボツだ。


「やっぱ外出が一番無難かなぁ。でも行くとしたらどこだろう。カフェ、ゲームセンター、ファミレスって言ったら引かれちゃうかも。うう、でも何だかんだカドショ巡りに落ち着いてしまいそう……!!」


 方向性は決まっても苦悩は終わらない。

 デートスポットとして最適な場所をシチュエーション込みで思い浮かびはするけれど、一番無難な場所がカードショップ!


 私としては勿論、恐らく集児くんにとってもお互いに一番緊張せずにいられる場所はここだけ。

 ヤバい……私が納得できるデートスポットが思い浮かばない!


 彼氏いない歴=年齢の人間だってことを自覚してしまう!

 こうなるんだったら一回くらい誰かの告白を受けて交際経験を積んでおくべきだった。


 過去の私を叩きのめしたい。ファミスピで。


「あ、そういえば……。使うのに困ってた、まだ期限大丈夫かな?」


 苦悩する中でふとある物の存在を思い出し、机の引き出しに仕舞っていた二枚の紙きれを取り出す。


 これは以前、鳥場さんから誕生日プレゼントとしてもらった遊園地のチケットだ。


 ペアチケットであるこれは、プライベートで一緒に行ってくれる友達のいない私には使いにくい物だったけど──この際自分が使うのもアリなのでは?


 遊園地デート……おお、なんたる王道! これはアリだ!

 ちょっと恋人感が強くなるから、変に意識はしないようにしていたけど、これは間違いなく今使うべき選択肢カード


「よぉ~し、期限確認ヨシ! 鳥場さん、この切り札チケットの使い道を見出せました! ありがたく使わせてもらいます!」


 使用期限、余裕たっぷり残り半年!

 でもカードゲームにおいて確保したリソースを温存し続けるのは悪手、宝の持ち腐れに他ならない!


 来週の休みの日にこれを超動だ!

 ここにはいない常連客に感謝の意を示し、このチケットを使用する覚悟を決める。



「姉ちゃんうるさい!」



「うっ。ちょ、ちょっとくらいいいでしょ! 大好きなお姉ちゃんの恋路に水を差すのはよくないよ!」



「誰が大好きだよ!」



 少し騒がしくしたせいで隣の弟の部屋からクレームが。

 う、うるさいなぁ。ヘッドホンでも付けながら勉強でもしててよねっ!


 ま、まぁ? 私は大人だから? そういうの大丈夫ですけど?

 とにもかくにもプランは決まった。後はこれを実行に移すのみ。


 ……でも。



「ああああ、どうしよう。手が震えて文字打てないよ……!?」



 いざ集児くんに連絡しようとすると、中々お誘いの文章を打ち込めなかったのは言うまでもない。


 我ながら喪女っぷりが炸裂だぁ……。うーんこれはダサい!

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