噂話は二つ隣の町から

「……ま、店とはいえそう簡単に見つかるわけないか」



 悶々としながらおよそ一時間半が経過。思いの外早く予定していた分のストレージを見終えた。


 結果は……まぁ、分かりきったものだ。


「ふぅ、疲れましたね。でも魔法スペルのトレーニングにもなるので一石二鳥です」

「ラフラみたいなカードでもトレーニングの概念はあるのね」


 当然のように目的のカードは見つからず、お互いに伸びをして身体をほぐす。


 さり気なく判明するラフラの変動要素は軽く流しておこう。そんなに重要なことでもなさそうだし。

 時間を見ればもうお昼時。今日はどっか外食にでも行こうか。


「午後はどうする。また続きするか?」

「そうですね。可能性がある以上は続けてみるべきではないでしょうか? ……あ、誰かが来ましたよ」


 午後の相談をしていると、ラフラが接近者に気付く。


「集児くん、どう? お目当てのカードは見つかった?」

「何だ角矢か。また鳥場さんか穴唐の奴が脅かしに来たかと」

「あの二人なら先お昼食べに行ったよ。それに集中してる人を邪魔しちゃ悪いからって、スルーしたみたいだし」


 来たのは角矢。時間的には休憩時間のはずだから、様子見に来たってところか。


 昼間は店長が担当を代わるから、看板娘が不在となったカードコーナーは少し静かになる。

 現金なやつらめ……。まぁ華はあった方がいいけどな。


 ちなみに今し方口にした鳥場さんと穴唐という人は、俺と同じく宝屋のカードコーナーの常連。

 さっきも卓でファミスピをしていたプレイヤーのことだ。


 勿論そっちとも顔なじみで、たまに飯を奢り奢られる関係にある気の良い友人たちである。

 まぁそいつらもラフラにはあとで教えておく。今は割愛割愛。


「それで、何を探してたの? もしかして旧枠のプロモ? それともエラーカード?」

「あー、いや。そうじゃないんだけど、それっぽい物をな。なんつーか……うーん、良い例えが分からない」


 話は戻って、角矢との会話へ。

 何か今日はやけにプロモカードを推すな……。興味は確かにあるが、別に今はそんなつもりじゃない。


 一瞬ラフラと目を合わせる。向こうは少し難しい顔をした。

 うーむ、これ言ってもいいのかな? 意志を持つカードを探してるって。


 でもなんというか多分駄目な気がする。

 言ったが最後、これまでの関係性に何かしらの支障をきたしそうでさ。


 角矢はカード担当だから、そういう物と遭遇していれば何かしら気付きはすると思うんだよ。

 あいつの審美眼は俺ほどではないが本物だ。カード査定も信頼できる。


 とはいえラフラが見えてない以上、前例は無いものの意志を持つカードの存在を認識しているとは思えない。


 言ってみなければ分からないこともあるだろうけど、詳しいことが分かるまではなるべく周囲には控えておきたいよなぁ……。


「じゃあ何を探してるのか当ててみる。えーっと、プロモじゃないとすれば……分かった、初弾の美品集め!」

「そういえば集めるみたいなこと前に言ったっけ? 全然見つからないから諦めてたわ」

「ちょおいコレクター! それ言ったの先々週だよ? 諦め早くない?」


 すると、勝手に始めた予想当てゲームで角矢の回答が炸裂。

 そこで俺はいつぞやに宣誓したコレクション収集目標を思い出した。


 確かそんなこと言ってたような気がする。思えば先週遠出したのも、それが目的だったかも。

 ラフラの発見でそれらが全部吹き飛んだんだ。憧れのカードパワーはすげぇや。


 絵に描いたようなツッコミをもらいつつ、角矢との話は続く。

 その間も、角矢に意志を持つカードをどう説明しようか頭を悩ませていた。


「そうだなぁ。例えばだけど……入荷してから変なことが起こった物とかカードってない?」

「何それ。あはは、特級呪物でも探してるの~? 闇を祓っちゃう感じ?」

「そんなこと言っても帳は下りないぞ」


 色々考えをひねり出して言葉にした説明は、案の定角矢に冗談として捉えられてしまった。


 まぁこれで理解しろっていうのが難しいか。

 誰かに何かを説明するって何気に難易度高いよなぁ。これコミュニケーションの中のバグだろ。


 それはそうと、やはり意志持つカードのことはどんな言い回しでも伝わらなさそうだ。

 他にどう説明するのが伝わりやすいか考える暇もないし、どうすれば……。


「まだ怪談を楽しむには時期尚早だけど、それっぽい話なら心当たりあるよ」

「え、マジ? 教えて教えて」


 が、ダメ元で言ってみたら情報が出てきた!

 とはいえこれはどう考えても俺たちの目的とは全然関係ない話だろうな。


 まぁ一応聞いておくけど……。心霊系の話は聞く分には好きだし。


「二つ隣の町に同系列店のリサイクルショップがあるの知ってるでしょ? 私、たまーにヘルプに行くんだけど。あそこ覚えてる?」

「ああ、最近はめっきり行ってないけど」


 情報通な角矢の語りにしっかり耳を傾ける。

 二つ隣の町にあるリサイクルショップ……、勿論知っている場所だ。確かここ宝屋と同じ名前の店だったはず。


 電車や車ならすぐ到着できる程度の距離だが、ここ最近は行ってなかったな。


「実はあそこ、何年か前から怪奇現象が起きているらしいの。何でも昼夜問わず鳥の鳴き声が店の中から聞こえるって」

「鳥の鳴き声?」

「そう。勿論カラスやスズメの仕業じゃないし、詳しい人に聞けば聞いたことの無い鳴き声だって。当然ペットを取り扱ってるわけじゃない。冬でも夏でもお構いなしに鳴るんだって」


 それはそれとして、俺が最近行かない間にあの店では変な現象が起こっているとのこと。

 鳥の鳴き声ねぇ……。ポルターガイスト的なのと思っていただけに、ちょっと拍子抜けだ。


 しかし、ちょっと気になることに変わりは無い。

 カードとは関係無さそうだけど、野次馬感覚で行くくらいはしてもいいかな?


「へぇ、なるほどな。ありがとう角矢。午後になったらちょっと行ってみる」

「あ、行くの? 気をつけてね。又聞きじゃ店内で鳥につつかれたって人もいたみたいだから。どこまでが本当か分からないけど」

「鳥のお化けってか? なら全然怖くないな」


 午後の予定が決まれば、後は行くのみ。

 角矢からの忠告をもらい受けて、俺とラフラは店を後にした。


 謎の鳥の声……果たしてどんな現象なんだろうか。

 行ったところで何か解決出来るわけではないけど、例のカード探しもついでにそこでやっておこうか。











お読みいただきありがとうございます。


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