その柔らかさにおいて基本的にカードは無力
「おおー! 沢山カードが並んでます!」
「俺の知ってるカドショじゃ一番品揃えがいいからな。よっぽどの代物じゃない限りは大体あるんだ」
ストレージのコーナーへ行くと、そこの光景にラフラが驚愕。
長い棚の上にはそれぞれ色やカードタイプなどに分類されてケースに収納されているカードの束が沢山並べられている。
その数目視で見ても百個は堅い。俺の家のストレージも相当な数はあるが、宝屋のコーナーには流石に負けるぜ。
というか半数くらいこの店で取り扱っている商品を開けて集めたカードだから、実質ここの物と言っても大差ないくらいだ。
「でも今日中にここにあるカードを全部見れるんですか? お家の倍……それ以上あると思うんですけど」
「結論から言うと不可能だ。俺だって何年もここに通ってるけど、全部のカードを見たことないし」
「そんなにはっきり言い切っちゃうんですか!?」
驚きのあまり珍しくツッコむラフラ。だがそれも仕方ないこと。
カードショップのストレージを漁るという策には現実的に厳しい問題点がある。
それこそ時間と量。この二つはどうしようも無い。
まず量。補足するとこの大量のカードはほぼノーマルカード。
プレイ用は勿論コレクション用としても価値の低い物が大半を占める。悪い言い方をすると雑魚カードの山だ。
稀にレアなカードが紛れていて、見つければ低価格で入手できたりもするが、それをするくらいならショーケースのカードを買った方が早い。
ましてや見つけたレアカードが使える物とは限らない。保存状態だって保証できないしな。
趣旨が変わるから上記の長所短所は無視するとしても、膨大な枚数を全て見るのは物理的に困難だ。
「店の営業時間までにどれだけ見れるかって言えば、棚一つ半が限界。それにカードはバラ売りやボックス売りの物からカードガチャにもある。はっきり言って手作業で全部見るのは従業員でも無理だろうな」
次に時間。これが一番の問題点。
半日通してここのカードを漁るのは店側としても「何してんだコイツ」と見られるわけだ。普通に迷惑行為だし。
仮に許されたとしても、休憩や昼食、夕食を抜いてぶっ通せば確実に中盤から集中力が落ちてまともに見れなくなるのは確実。
全てにおいて店側のストレージを漁りきる手段は非現実的。
つーか時間の無駄遣い。社会人にとって休日は無駄に出来ない物なんだわ。
「そんな……!? じゃあどうすればいいんですか?」
「安心しろ。何も最初から全部見るつもりはねぇ。日数を掛ければいつかは全部確認できる。それが最も現実的な方法だ」
不安がるラフラだが、それは無用の心配だ。
昨日の夜に家のストレージをぶっ通しで漁ったせいで、ラフラには店のカードも一日で全部確認するって思ってるっぽい。
当然そんなことしないしする気もない。普通に時間をかけて一つ一つ見ていくのがベストだ。
その方が身体にも優しいし、無難な方法が一番なんだよ。
「取りあえず今日は一番上の棚のカードを見るぞ。まぁ……大体二時間くらいか? 昨日よりかは楽だろうよ」
「分かりました! 絶対に見つけ出しますよ!」
本日分の目標を定めて早速捜索に取りかかる。
昨日と同様に俺がカードを一枚一枚確認しながら、同時進行でラフラの
一つの収納ケースに入っているカードを見るのには五分から十分くらい掛かる計算だ。
地味だがこの単純作業は嫌いじゃない。
こうしてカードを無心で漁るのは心を落ち着かせるリラクゼーションだ。
……普段ならそうなんだけど。今は少し事情が違う。
「うーん、やっぱり気配らしき物は感じませんね」
「う、うん。そうだな……」
昨日は特に特筆すべきことが無かったから割愛したが、怪しいカードをふるい分けるにはラフラがカードに
それはつまり必然的にラフラとの距離が近くなることを意味しており、特に今は狭い通路で立っている状態だからほぼ密着する形で超接近しているわけ。
本当に息が掛かるレベルで近い。
何度も言うがラフラは俺の推しのカード。かつてはこの顔に恋をしていたんだ。
今でこそ子供っぽさに印象が変わりつつあるが、憧れがこれほどまでに近いと意識がそっちに向いてしまうというもの。
可愛いが近すぎて集中出来ねぇ……! こんな幸せな妨害があってもいいのか?
とはいえ我慢。端から見ればカードを漁りながら何故か恥ずかしがってる変な奴に見られるんだからな。
「あ、見てください。ここ全部同じカードで固まってますよ! どうして一カ所に束になっているんでしょう。不思議です」
「ぬぅ、うぉぉ……」
ここで不意に捲ったカード群がラフラの目を引いた。
ずいっと体を寄せたその瞬間、柔らかな双丘の間に俺の右腕がもにゅんと完全にジャストフィットしてしまう。
本当に……他の人に認識されなくて助かった。
そして俺だけにしか触れられないこと、そしてラフラが無邪気で無垢な性格をしていることにもな。
この時の俺はカードのことなどどうでもよくなっていた。
むしろ今まで目の前に向けていた集中力を右腕に集中せざるを得なくなっているまである。
他の誰にも見えない、柔らかな感触を堪能できるのはこの世で俺一人。そう考えると何だか物凄い優越感が……。
いやでもヤバい。我慢だ、耐えろ俺。こんなとこでニヤけたら、周りから怪訝な目で見られてしまう!
そして紳士になれ。推しの顔面と胸の近さに負けるな。ここで情欲に身を委ねてはならない……!
「んっ、ぶふっ……。あ、その、ラフラ。ちょっと近い……」
「あ、ごめんなさい。お邪魔になってしまったみたいですね」
欲を堪え、願望を噛み殺した俺は、静かに離れるよう告げる。
素直に聞いてくれるラフラは言われた通りに少しだけ離れてくれた。良い子だね、本当ね。
……その内表情筋を鍛えるトレーニングでもしようかな。
ポーカーフェイスはカードゲームにおいて有利に働くからな。決して邪な考えはないから。これも本当だよ。
†
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