問うたれ、背景ストーリー!

「それじゃあ、自分以外の竜極賢で苦手な奴は?」

「うーん、好きや苦手以前に私以外の竜極賢に会ったことはないので何とも……」

「そ、そっか。他の竜極賢のこと、知らないのか……」



 ラフラから本物のファミスピ世界の情報を得られるのでは?

 そう思った俺は第13弾のカードを集めたファイルを手にラフラへ質問を繰り返していく。


 第13弾の主人公の名前、本編の物語の顛末、得意な魔法スペル、そして同族のこと──色々訊ねてみた。


 どれもフレテキや超全集に物語答えが記載されている。

 俺の推測が正しければ、ラフラの回答はそれらに準じた物になるはずだ。


 そして、その結果はと言うと……。



「マジか。想像してた以上に何も得られないとは……」



 結論、ラフラは背景ストーリーファミスピ世界のことをほとんど知らない様子だった。


 一応竜極賢自体を知らないわけではなさそうだったが、まるで本を流し読んで名前を知っただけって感じで、イマイチはっきりとしない。


 得意な魔法に関しては、光の極竜賢らしく魔法は大体全部得意という原作通りながらも曖昧な返答をいただいている。



 …………あれ? なんか思ってたのと違う。



 もっとこう好奇心に突き動かされてこっちの世界に来たとか、そういうファンタジックな返答が来るもんだとばかり……。


「本当に何も知らないのか? 仮にもファミスピのキャラなのにファミスピ世界のことを何も知らないなんて」

「そう言われましても……。私自身、私に関連する情報は実際に経験して得たものではなく、初めから覚えていたとしか。それに今し方お話してくれた物語を私が当事者として見ていたなんて、初めて知りましたし」


 問い直してもラフラから出てくるのはドライというかリアルな回答ばかり。

 あれれ~……? も、もしかしてラフラはラフラであっても、ラフラ本人では無い……のか?


 あの反応、どう見ても初見のそれ。

 本当に第13弾の物語及びそれらに関するキャラクターのことを知らない様である。


 例えるなら……そう、原作は知らないけどSNSなどからネタを拾って使っていたら、ファンからの猛烈な早口語りを食らってついて行けてないミーハーの如く!


 流石に突飛な例えだろうが、その雰囲気を感じる。

 うわ、なんか急に恥ずかしくなってきた。俺、こういう早口オタクムーブをしないよう気をつけて生きてきてるのに……。


 とはいえ、最初から分かりきっていたことか。

 ファミスピの世界なんて開発元の脚本家が手がけた創作物だってことくらい分かってたはず。


 もし仮に存在していたとしても、数年ごとに戦いの場が切り替わり続ける過酷な世界に変わりないし。


 俺は一体何に期待していたんだ……?

 その現実に気付いたせいか、先ほどまでの考えが全てバカバカしくなってしまった。


「そ、その……大丈夫ですか?」

「大丈夫。ただの致命傷だ……精神的にな」


 がっくし、と肩を落とさざるを得ない。

 とっくに大人になっていたと俺自身そう思っていた。だが人のことを幼いと言える立場ではなかったようだ。


 どうやら俺はまだ架空の物語を現実に夢見ている子供らしい。

 まぁ20歳過ぎてカードゲームやってるんだから元々そうだったか。ウッ、心身にしみるつらさだ……。


「そうか、俺ぁまだ子供だったか……」


 こんな惨めな気持ちになったのは俺が大会で勝ち抜くことすら出来ないほどの弱小プレイヤーだと気付いた時以来だ。


 すごすごとカードファイルを棚に戻すと、普段使いの座椅子に腰掛ける。

 でも、そんな時でも不意のヒラメキとは起こりうるもんだ。


 俺はふと口走った言葉で、あることに気付いてしまう。



「じゃあラフラってこの世界で生まれた存在ってことでいいんだよな?」

「うーん、もしかしたらそうかもしれません。シュージさんが言う本来の私が経験した記憶が無く、情報だけあるのは違和感ですからね。それがどうかしました?」

「ということは……ラフラのケースがあるんなら、他にも同じようなカードが存在する可能性って考えられないか?」



 そう──俺は気付いてしまった。

 ラフラがファミスピ世界から来た説が不立証となった今、別の視点を見れば新たな可能性を見つけ出せる根拠になる。


 本編の記憶が無いのは、そもそもファミスピ世界の存在ではないから……つまり発生ルーツは今いるこの世界だと推測できる。


 それすなわち、俺ら人間が必ずこの世界で生まれるように、ラフラと同じ意志を持つカードもこの世界のどこかにあるという可能性もまた捨てきれないと!


「なるほど、確かにその可能性は否定出来ませんね。私という揺るがない証拠がありますし」

「だろ? そうすれば、もしかしたら他のカードから新しい情報が得られるんじゃないか?」

「それも十分考えられますね。私以外の同じカードかぁ……一体どんな方なんでしょう。出会えたらいいなぁ」


 と、俺の推測にラフラも興味が湧いているようだ。

 はは、そうこなくっちゃな! それでこそ極竜賢、竜の賢者よ。


「じゃあまずは、俺の部屋にあるカードを漁ってみよう。こういうのは大体身近にあるもんなんだ」

「灯台もと暗しというやつですね! 知ってますよ! 私もお手伝いします!」


 今後の方針は決まった。ラフラと同じ意志を持つカードを見つけ出して、何かしらの情報を得るぞ!


 というわけで、早速俺たちはカード部屋へ。

 ここで一枚でも見つけられればラッキーという気兼ねで金曜の午後八時、数千枚あるストレージから捜索に挑むのだった。











お読みいただきありがとうございます。


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