観察、俺の推しカード
「ふむ……色々と分かってきたこともあるが、やっぱり不思議だ。一体どういう存在なんだろうな、ラフラは」
推しとの同棲生活から一週間が経過。
意志持つカードであるラフラと暮らしてきて、いくつか分かったことがある。
夕食の準備をするついでに脳内で考えを整理することにした。
『観察対象者:光の極竜賢 ラフィール・ラフランカ』
一週間ほど前に購入したカードに意志が宿っていた存在であり、実体化が可能な不思議な女性。
俺以外の存在や物体に触れることが出来ない特性を持つ。
あとカードからそれほど遠くまで離れることが出来ない。
正確な距離は分からないが、少なくとも住んでるアパートから出られるくらいには広い。
少なくとも元ネタ同様純粋な人間ではないのは確かだ。
「おぉ! 見てください、凄いですよこの動物! いつか本物を見てみたいなぁ……」
「流石にマダガスカルには連れてけないから、テレビでガマンな?」
推定年齢は18~20歳? ただしこれは見た目の話。
精神年齢は思いの外低く、好奇心がとても強い。最近は動物や自然系のドキュメンタリー番組などがお気に入りのよう。
「あ、お食事ですか? 今日は何を?」
「もやし」
「む~、またもやし。もしかして好きなんですか?」
「まぁ安いからな」
食事は不要。というか摂れない。
物体が身体をすり抜けるのもそうだが、そもそも食欲という欲求が薄いっぽい。
ただし好奇心の対象ではあるようで、このようにテレビや俺の夕食内容に興味を示しているように知識や情報に貪欲な一面を持つ。
この前なんか買い物に同行したいと駄々をこね、仕方なく連れて行ったら店内を爆走してどっかに行ったくらいだし。
無知の知を理解しているのか、とにかく未知へ首を突っ込みたがる性分のようだ。
総じて言えることは人間のように見えて人間ではない子供っぽい存在、ということ。
一つ屋根の下で暮らすことに対する不安感が最初はあったのだが、特性上食費が増えたり、騒がしいと苦情が入れられる心配がないと分かれば思いの外早く慣れるもんだな。
「……やっぱり設定通りなのかな」
「ん? 何か言いました?」
ここまで考えをまとめ、ぼそっと口こぼす。今食ってるもやしのことじゃないぞ。
これは俺の推測だが、ラフラはファミスピ側の設定にある程度遵守している可能性がある。
どういうことかと言うと、ラフラの特徴の一部はカードの方とほぼ同じだということだ。
ファミリア・スピリット・デュエリング。通称ファミスピ。
国内最大手のカードコンテンツであり、今年で発売から27周年を迎えた老舗カードゲームだ。
俺はこのTCGを集めるのを趣味としているコレクター。
一応プレイ出来ないことも無いが、諸事情あって回収勢として数年続けている。
まず始めに、このカードゲームは漫画やアニメなど複数のコミカライズとは別に、背景ストーリーと呼ばれるファミスピの世界観に沿った独自の物語がフレーバーテキストで展開されている。
大体2~3年周期でそのメインタイトルが入れ替わり、確かラフラの極竜賢シリーズが初登場したのは八年前の第13弾だったか。
本編を語ると長くなるから割愛するが、背景ストーリーのラフラは極竜賢というその手の分野に精通した竜の賢者として、主人公の一味を導いたり鍛えたりする師匠的存在の一人……いや一匹か?
フレテキによれば
それらは概ね今の俺の状況と合致している。
魔法が使える。好奇心が強い。振り回される……うん、多分同じだ。
ということはだ。最初の仮説を蒸し返すことにはなるが、本当にファミスピの世界から来た説が有力だと思うんだ。
無論分かってる。そんなものはありはしないことくらい。
でも事実、ラフラという存在が現れた以上、実在を疑わない方がおかしいだろ?
本当に俺が病気か何かの類いで、イマジナリーの人物を幻視していない限りはその線を疑うのは当然のこと。
これでもストーリー考察班も兼ねている身。目の前に列挙された情報は基本疑う性分なんだ。
「ラフラ。テレビ見終わったらでいいからさ、後で前の話の続きをしないか?」
「前の……ああ、分かりました。私に教えられることがあるのでしたら何でもお答えします!」
テレビの視聴に水を差されても、文句一つ言わず素直に聞いてくれるのは俺も見習うべきだろうな
そんなこんなで話し合いの約束を取り付けると、皿に残ったもやしの焼き肉タレ炒めを白米と一緒にかき込む。
話し合いの前に俺もやるべきことをやる。
もしかすれば長くなる可能性も否定は出来ない。そのケースに備え、まずは皿洗いを済ませるとするか。
†
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