これは明晰夢なのか?
「な、え……!?」
朝目を覚ましたら、横に俺の推しの姿をした女が寝転んでいた。
何を言っているのか分からないと思うが、俺もマジで分からない。
何? 何故? どうして?
突然の出来事に混乱する頭は、今の状況をどうやっても理解することができない。
まさかコスプレイヤー? まさか俺が寝ている間に部屋を間違えてやってきて、そのまま寝落ちしたとかか?
いやいやいやバカか。そんなの100パーあり得ないって。
部屋の戸締まりはしっかりしてるし、第一近隣の住人にこんな美人は住んでいない。
素人の考えるラブコメ物でももうちょいマシな出会い方を考えるぞ。そんな犯罪同然の出会いとか嫌だぜ俺は!
「あー、慌てるな。落ち着け束上集児。これは夢だ。そう、俺が昨日の出来事に興奮し過ぎているが故の内容だろう」
そうだ。それで違いない。
俺とてカードオタクである前に大人だ。そう易々と信じてがっかりするようなことはしない。
夢にしては自分の意識ははっきりしているが、これは所謂明晰夢って奴だろう。夢の内容を俺の意志一つで自由に出来るアレだ。
ははっ、どうやら俺は夢を叶えたあまりこんな特殊能力に目覚めてしまったらしい。
推しが横で寝てるなんて、最高の始まりだな!
「…………」
どうせ目が覚めればいつものカードだらけの部屋に一人ぽつんといることになる。
それならば、夢なら夢で────確認、したくなるじゃん?
改めてその肢体を一瞥。俺の想像力と願望が生み出したラフラと触れ合える明晰夢。
多少のイタズラ程度、何ら問題ないはず。やることは一つ、そう触ってみることだ。
「す、すげぇ。太ももでっか……生足かこれ? 柔らけっ……」
まず最初に触れた太ももに改めてタッチ。
これは……なんということだ。めちゃくちゃ柔らかくて暖かい。それでいてハリのある肌はずっと触っていたくなる新感覚。
とはいえ非モテの俺でも異性の肌が男より柔らかくデリケートなことくらい知っている。
その知識がこの柔らかさを捻出したようだ。流石俺、キモい。
さすさすと撫でれば、皮膚の下から感じ取れる筋肉の弾力。
マジで本物みたいだ。本物がどんなもんか知らんけど。
「……夢だからもう少し上の方を触ってもいいよな? うん、いいよ。ありがとう。それじゃ失礼して……」
我ながら気色悪い一人芝居で許可を下ろすと、太ももから腰へ手をスライド移動。
これが雑誌の一面を飾ったファミスピ最高峰の鼠径部か……。
レオタード風の衣装なだけに角度が結構えぐい。しかもリブ生地っぽいときた。
「……夢、これは夢だからセーフ。セーフだから……」
ふと出来心で、脚の付け根部分の布地をつまみ上げる。
俺だって男の子、普段は表に出すことは滅多に無いが、そういうことにはそれなりに関心はある。
ましてやその相手が推しのキャラであれば尚更。
推しに
ちょっとずつ布を引っ張って鼠径部の空間を広げる。
あー、やべ。なんだこの犯罪臭。心が悪に染まっていく気分。闇落ちってこんな感じなのかな。
夢の中の自分に気持ち悪さを感じて絶望しつつも、手の進撃は止まらない。
もう少しで推しの秘部を拝める……そんな希望が見えた瞬間。
──ジリリリリリリリリッ!
「はっ!?」
突如として鳴り響くこれは……アラーム音!?
その眠気も吹き飛ぶ猛烈な音に驚いた俺の邪手は硬直。脚の付け根の布はパチンと音を立てて元の位置へ戻る。
な、何でアラームが鳴った? 明晰夢とはいえそこまでリアルに家の状況を再現しなくてもいいってのよ!
お楽しみを邪魔された恨みも込めて、急いでアラームを止める。
一瞬焦ったがこれで良し……なんてことにはならない。俺はここである予想を立ててしまう。
まさかとは思うが……これは夢ではない?
いーや、でも信じられないね。何しろ目の前には
今の音も明晰夢による再現のはず……そう思いたかった。
「ん、うぅん……、ふあぁぁ……」
「あっ、やべ……」
不意に動き出すラフラ。まさかアラームの音に反応した!?
もぞもぞと蠢きながら寝相を変え、仰向けの姿勢になったところでゆっくりを身体を起こす。
昨日に引き続き再びドキッとする。
ベクトルは違うが、二日連続で緊張が走る出来事に遭遇してしまうとは。
そのまま傍観に徹するしかない俺は、真横の……今し方イタズラをしようとした女性の様子を見るだけだ。
「……あ、もしかして寝ちゃってましたか? ううん……」
目覚めた推しは、慌てる素振りもなくさも平然としている。
でも不可解だ。これが本当に明晰夢なのだとすれば、ここまで内容をコントロール出来ないのはあり得ないのでは?
いやまさか、もしかしてこれは……夢ではないのか? だとすれば、何でこんな……。
「あ、やっぱり起きてたんですね。おはようございます。よく眠れましたか?」
俺の存在に気付いたのか、ラフラの姿をした女性は驚くどころか当然のごとく朝の挨拶をしてくれる。
もはや驚きの連続に感情が付いていかない。
先ほどまで身体を突き動かしていた邪な考えも、眠気と同じ場所へ遠く追いやられてしまっていた。
「へ……? あ、俺……に言ってるの?」
「うん? あなた以外にどなたかいるんですか? ともあれ昨日は私を買っていただいて本当にありがとうございます。おかげでこうして身体を実体化させられたんですから!」
……駄目だ。マジで何も分からないわ。
目の前にいる推しの姿をした女性の言うことを、俺は何一つ理解出来ずにいた。
†
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