【毎日投稿】一般TCGコレクター、訳アリカードを買ったら実体化した推しと暮らすことになった
角鹿冬斗
第一弾『光の賢竜と一般コレクター』
激安訳アリ、推しのカード
「そ、そんな……まさか、嘘だろオイ…………!?」
目の前に飛び込んできた物を見て、俺こと
ショーケースの中にはレアリティに準じた輝きを放つカードたちが展示されている。
まぁカード収集を趣味としている俺の目にしてみれば、現在の環境ではさほど役に立たない古いカードばかりなのだが。
でもそんな価値の低い群れの中に一際異彩を──否、凄まじいオーラを放つカードが存在しているのを俺は見逃さなかった。
「ひ、『
何度も目をこすり、自分の見間違えかと思って値段を再確認。
でも確かにお値段は変わらず5800円。ゼロが一つ少ないまま。
安い……安すぎる! 現実か? これは現実なのか!?
興奮冷め止まぬ俺の視界の先にあるのは、他とは一線を画すド派手なカード枠を持つ一枚。
そのカードの名は『光の極竜賢 ラフィール・ラフランカ』。プレイヤー間での愛称はラフラと呼ばれている。
国内最高峰のTCG『ファミリア・スピリット・デュエリング(通称ファミスピ)』の歴史に残る最強カードの一角だ。
その性能はここにある他のカードが全て時代遅れと言われてもなお、フィニッシャーとして現環境でも活躍するほど。
通常の再録版でも1000~3000円は堅い。美品であれば万は越えるカードである。
ではそのカードのシークレット版が存在していたら、それはいくらになるのか。
先に答えとして過去最高記録を叩き出した取引価格を教えよう。
その額──およそ100万円。
カードとして異常な価格。何故これがそんなに高いのか。
今後数年は使えると言わしめるほどの性能の高さもそう、収録パックが急遽生産中止になったなどのトラブルによる希少性の増加などが一因とされている。
しかし、高額になった最たる要因こそ──ファミスピ至上最高のイラストアドバンテージを持つことにある。
「シク版……これが初めて見たってわけじゃないけど、ヤバすぎんだろ……! 対象年齢小学生からのカードイラストじゃねぇってこれマジで」
誰かにキモいと言われても文句言えないレベルでガラス越しに存在するブツをじろじろと見つめる。
桜色よりも濃いピンクの髪。童顔美形の首から下は、豊満な胸と細い腰、魅力的な太ももが強調された長い足。
そんな抜群のスタイルを包む白いレオタード風の装いに、竜の翼の意匠を持つサイハイブーツを履いている。
このシークレットレア版は元のカードイラストを踏襲したリスペクトのある擬人化でありながら、歴代のどのヒロインカードにも負けない可愛さと美しさを兼ね備える至極の一枚。
刺激的で魅力の詰まったこのカード、過去に雑誌の一面を飾ったこともある。
それを思春期まっただ中の中学生が見れば、性癖をねじ曲げられないわけがない。
そう、俺はかつてこのカードに心を奪われ、心の底から渇望していたのだ。
「俺の初恋のカード……。ありがとう神様、俺の夢が今叶ったよ……!」
こいつに俺は中学から高校の間の青春を奪われている。
カードコレクターに舵を切ったのも、思えばラフラを当てるために全ての小遣いを投げ打ってパックを開封したことが始まり。
高校三年辺りで勉強のために一度ファミスピを離れるまで、その熱は続いていたんだ。
でもその時には半分諦めていて、大人になったらリベンジするって息巻いていたような気がする。
なんであれ、チャンスは巡ってきたんだ。
俺は迷わず購入を決意する。財布の紐なんて知るか!
「すすすす、すすすみません! ショーケースにあるカードが欲しいんですけど……!」
急ぎ慌てながらも俺は店員とカードコーナーへ。
ヤバい。もうすぐ憧れのカードが手に入るんだと考えると尋常じゃ無いくらい緊張する!
高額なカードを揃えるために大金を払った経験は数あれど、たった一枚……それも大した値段じゃないのにここまで手が震える感覚になるのは初めて。
俺の青春! 夢にまで見たカードの実物!
これを自分の物にすれば、もう人生に後悔は無い……多分!
「真ん中にあるカードなんですけど、アレを……」
「あー、これか。お客さん、ラフラのカードが欲しいんですよね?」
「え? あ、はい……」
震える指で購入を決意したカードを指差すと、店員の表情が僅かに変わる。
それを見て一瞬ドキッと緊張が走った。
いやだってそうだろう? ただカード買うだけなのに、何故にそんなことを聞き返す……? ちょっと怖いぞ。
「知ってますよ。本当は何万もするカードなのに、なんでこんなに安いのか。疑問に思ってるでしょ?」
「……やっぱり何か訳ありなんですか?」
店員は静かに頷く。
案の定ラフラの本当の価値を理解した上でこの値段にしているようだ。
やはりか……。興奮していた裏で、正直うっすらと怪しく感じていた。
最高落札価格が100万円になったこともあるカードが何故、ここまで安いのか、と。
まず美品でないことは分かる。ショーケース越しでも俺の審美眼はそれを誤魔化せない。
だが美品でなくともシークレット版ならば五〜六桁は堅いことも知っている。
だから俺は最初、58000円だと思い込んでしまったんだ。
「買おうとするお客さんに必ず伝えてるんですが、言うと皆買わないんです。それを聞いた上で購入を検討してくださいね」
そう言いながら店員はショーケースの鍵を開け、ラフラのカードを取り出す。
この時の俺は、店員の注意事項を深く考えていなかった。
色々考えたところで目の前にあるラフラは本物。元々シークレットはプレイよりコレクション重視の存在。
綺麗であることは重要だが、多少の折れや白欠けは気にしないつもりでいる。所謂妥協ってやつだ。
「どうぞ。見ればすぐ分かりますよ」
「これは……」
そして店員はショーケースから取り出されたラフラのカードを俺に手渡しして確認を求める。
一見すると状態は普通に見える。美品ではないが、思っていたような傷や曲がりはない。
……だが、これが激安である理由は店員の言う通りすぐに判明する。
激レアカードなのに誰もが購入を躊躇う訳を。
†
「…………そりゃ誰も買うの止めるよな」
自宅へ帰り、俺は戦利品を適当に置いて布団の上で寝転がる。
今日はまぁ充実した一日だった。映画鑑賞、外食。そして趣味のカードショップ巡り……。
一介のカードゲームを愛するオタクにしては陽キャっぽい休日だったが、まぁたまにはこういうことをしたいってだけ。
本分はカード探しだ。ちょっと遠出して普段行かないカードショップで珍しい物がないかを探す。それが俺の休日の過ごし方。
だが適当に見つけた店に入ってみれば、あんなカードがあったなんて……これぞ正しく青天の霹靂ってやつだな。
先ほどの出来事を思い出す。この手に持つカードを、俺は顔の前に持ってくる。
「裏面にこんなでかい剥がれ傷があるなんて、スリーブ付けるとしても買うの躊躇うよなぁ……」
買ったラフラのカードを裏返すと、そこには裏面全体の三分の一を占める剥がした痕が付いていた。
激安の理由はこれ。この尋常では無い傷が付いているからだ。
俺も正直驚いたわ。これほどの傷は普通に使っても付かないからな。どうやって付いたのかマジで分からない。
一コレクターとして前の持ち主は何やってんだと雷を落としてやりたいところが……まぁいい。
経緯や状態はどうであれ中坊の頃から望んでいた念願のカードが手に入ったんだ。
前の持ち主、そして購入を諦めた奴ら様々だぜ。
「でも俺は違うぞ、ラフラ。お前を手に入れるためにカードゲーム始めたと言っても過言じゃないんだ。どんな傷があろうとも俺が最後まで大事にしてやる。コレクターとしてな」
一人暮らしの部屋でそう格好付ける。
うわ恥っず……。実家じゃ言えないな、こんなこと。
手に持つラフラのカードは三重スリーブにカードローダーという厳重体勢で保管している。
傷物でも関係ない。この厳重さがラフラへの愛の形だ。
「さ、明日は仕事だし寝るか。こんな嬉しいことがあったんだ。きっと仕事も捗るな」
月曜日が近付いていても今の俺にはどうということはない。
ちょっと嫌なことが起きても「家にラフラのカードがあるしな」ってなるし、クソ客に当たっても「そんな口していいのか? 俺は最高買取価格100万円のカード(実際の購入価格は5800円)を所持してる身だぞ」ってなれる。
継続力を求められる現代社会において環境で活躍するカードの高額シークレット版と同棲するのは有効だ。
そんな優越感に浸りながら就寝準備をする。
寝る前にラフラのカードにおやすみのチュー。うん、流石にキモいなこれは。
机の上にラフラを置き、目覚まし時計をセッティング。
晴れやかな気持ちで俺は眠りにつくのだった。そして────
「ん……、もう起きたか?」
目を覚ましたのはアラームよりもやや早い時間になる。
昨日の出来事に身体が興奮しっぱなしだからなのか、予定より早起きしてしまった。
アラームより早く起きるなんて滅多に無い。
二度寝をしたい欲を噛み殺し、余裕を持った朝を迎えようと布団から起き上がろうとした時────
ふにゅん、と柔らかいモノの感触が左手に伝わる。
「ん……? 何だこれ。枕か?」
まだ寝起きすぐの俺には触れた物の正体が分からず枕と勘違いするが、すぐに違うことが気付く。
ぺちぺちと続けて触ってみると、ただ柔らかいだけでなくそれなりの大きさがあり、弾力も結構あることが分かる。
あと暖かい。湯たんぽ……いや、人肌のぬくもりに近いな。
なんだァ~これはァ~~? 寝る前にこんなの用意したっけ?
眠気より疑問が勝った俺は、上体を起こして謎の柔らか暖かな何かの正体を視認。
「…………は?」
だがそれを見て、俺は身体が固まった。
同時に眠気が吹き飛ぶのを実感する。
「……んにゃむ。うーん……」
布団の端を文鎮さながら横になる見知らぬ女性……いや違う。
桜色よりも濃いピンクの髪。
寝息を立てる童顔美形の下は、豊満な胸と細い腰、魅力的な太ももを強調する長い足。
その抜群のスタイルを包むのは白いレオタード風の服。
竜の翼の意匠を持つサイハイブーツ……。
これは、俺の推しカード『光の竜極賢 ラフィール・ラフランカ』……!?
そのシークレットレア版の姿格好をした女性が、俺の布団の横で眠り込んでいたんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます