第4話 異世界観月

「なぁ、月って美味そうじゃないか?」

「はぁ? 初めて聞いたけど」


 触手の森で、纏わり付く触手を慣れたように切り刻みながらイケメンが言う。僕は落ちてビチビチしている触手を拾う係だ。

 働かざる者食うべからず、ということで、僕たちの主食となっている触手を調達しにやってきたのだ。

 この世界に転生して早半年。ようやく触手が主食でゲテモノ食いの人々に囲まれて暮らすことにも慣れてきた。主に僕の周りにいるのは、転生直後に触手エンドとなるところを救ってくれたこのイケメンと、ド派手なお姉さんの二人だ。


 僕の中身は成年男子だが、見た目は非力な少年でなんのスキルも持ち合わせていない。魔力もそこそこで、戦闘なんてまるっきりダメだ。今のところ、自分にできることを探しながら、二人に世話を焼いてもらい生きている。もちろん、できる事はやるタイプだから料理を率先して担当しているんだけれど、未だに提供される食材が何なのかさっぱりだ。それでも、前世の知識をフル活用してなんとか食べられるものを作っているので良しとしてもらいたい。というか、イケメンの舌は信用できるけれど作る料理が雑すぎて、僕が作ったほうが数千倍マシという話なんだけれど。


 そんな料理に関してセンスの欠片もなく、味にしか興味のなさそうだったイケメンが、月が美味しそうだなんて。明日は槍が降るのか、なんてことを思ったりしたけれど、何で急に興味を持ったのかが気になる。


「ねぇ、なんで急に月が美味しそうって思ったの?」


 話を聞いてみると、前に僕が作った料理に原因があったようだ。

 以前、断末魔の悲鳴が死をもたらすと言われている、前世の生物で言うところのニワトリに似た鳥の卵をイケメンが持って帰ってきたときに目玉焼きにしてみたのだ。シンプルで簡単な目玉焼きすら初めて見るというイケメンは、その料理を覚えていたのだろう。たまたま月を見たときに思い出したらしい。

 それを思い出して美味しそうって考えるのは、目玉焼きがよほど美味しかったからに違いない。ちょうど明日は満月だし、前世では月がきれいに見える頃になると店には月にちなんだメニューが溢れていた。


「よし、月見でもするか……」


 僕の呟きに首を傾げているイケメンを横目に、今日は間に合わないので明日の献立として考える。目玉焼きが月見メニューになるとして、他に何を添えるかだ。


「前にとってきてくれた卵、明日調達できる?」

「あぁ」

「じゃぁ、本物の月は食べられないから、明日は月にちなんだ料理にするね」


 そう伝えると、イケメンの表情が輝く。そんなに嬉しいのか。いつも食べ物とは思えない見た目のゲテモノを食べて満足してたのに、僕の料理で美意識が正常に戻ってきたのかもしれない。これで僕の努力も報われる。

 しかし、元から輝いてるのに笑顔が眩しすぎる。イケメン狡い。とても悔しいので残念イケメンは、毎日自分の顔を見て己の美意識を取り戻して欲しい。

 落ちた触手をせっせと拾いながら、もちっとした食感になる粉を団子にして、餡のとろみは触手の粘液で、なんてことを考える。異世界での料理も慣れたものだ。

 明日の食事の話をした途端、活き活きと触手採取をし始めたイケメンを笑いながら、僕も明日の月見を楽しみに計画を練るのだった。

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