第14話 ダンジョンのボスには威厳が欲しい。

 ダンジョンは公都から離れた樹海の近くにある。


「事前調査によると過去の勇者が宝を隠したという伝承が残っていた。最下層まで行ってそれを回収するのが今回のミッションだ」


 装備を整えて俺たち三人はダンジョンの前に立つ。そこはこんもりとした古墳のような小さな丘にある洞窟のような場所だった。


「墓荒らしみたいで気が進まないな」


 カラスはあまりやる気が感じられない。


「ダンジョンって初めて。ちょっと楽しみ」


 逆にラエティティアは少し楽しそう。


「さてじゃあ行くか」


 俺はライフルを構える。そして洞窟の中へと入った。





 ダンジョンの中はうっすらと明るかった。バーナードが言うようにここは入って遊ぶことが前提となっている場所なのだ。油断しなければそこまでの危険はないのだろう。俺を戦闘に通路を走る。事前に探索済みのルートは暗記しておいた。最短で未到達エリアを目指す。


「あ!モンスターだ!」


 ラエティティアが指さす方向に蝙蝠型のモンスターがいた。俺はそれを一匹づつ射殺していく。


「見事だな。なんだかんだとおまえの戦闘能力自体も高いのだな」


「勇者とかには敵わないけどね」


 それでもそこそこ戦える方だ。そして先を急ぐ。可能な限り消耗を抑えるために俺が率先してモンスターを射殺していった。そしてショートカットエリアを上手く利用して未踏破層まですぐに辿り着いた。


「ここからはデータがない。各自油断しないように。俺が先頭。カラスが後ろ。ラエティティアが真ん中。縦列ですすむ」


「了解した」


「りょうかーい!」


 二人とも俺の指示に素直に従ってくれる。ここからのモンスターはなかなか手ごわかった。俺のライフルだけでは火力不足になり、カラスの魔法攻撃やラエティティアの近接戦闘が必須となった。そしてとうとう未踏破エリアの最深部。ゴールにたどり着いた。そこにあったのはアイテムや宝剣などではなく、一つのガラスの棺だった。


「棺?中は男の子だね?」


 ラエティティアが覗き込む。そこには俺と同い年くらいの少年が横になっていた。顔立ちを見ると日本人っぽい気がする。


「ここは伝承と違って墓だったのか?」


 カラスは首を傾げている。


「だとすると無駄足かな。もう帰ろうか」


 さすがに墓荒らしはしたくない。帰ろうと思った時だった。


『ここまで辿り着いた勇気ある者たちよ。汝らの願いは今叶う』


 なんか声が聞こえ始めた。願いが叶うというならぜひとも叶えて欲しいのだが。


『汝らの望みである勇者の復活は今ここに果たされる!』


 そして棺がぴかーって光り、蓋が空いた。中から少年が出てくる。


「君たちが僕を起こしたんだね」


「いやとくにそんなつもりはないです」


 あーなんかめんどくさいなこれ。だいだい勇者にはいい思い出がない。


「いいよ。再び僕がこの世界を救ってあげよう!なにせ僕は勇者だからね!」


 なんか傲岸不遜に笑いだす。勇者ってこんなやつしかいないのかな?


「なー勇者様」


「なにかな?」


「俺も地球から来たんだけどさ、帰り方知らないか?」


「む?君も召喚されたのか?この世界に?」


「まあそうなんだけど」


 勇者はなにか考え込むような顔になった。


「なんで帰りたがっているんだい?」


「向こうには守らなきゃいけない人がいるんだ。ここでやってる魔王との戦争になんて付き合ってられない」


「…君はおかしい。転移者は使命を持ってこの世界で戦い栄光を掴むために来たのに?君は帰る気でいる?」


「あーそのようすだと帰る方法は知らないってことか?」


「いや知ろうとする必要がなかっただけだ。公国は帰すと約束していたが、魔王討伐後も残って欲しいと請われたしね」


 おっとヒントが出てきた。公国は過去に勇者を召喚していて、帰す技術も知っている可能性が出てきた。これは収穫だ。ここに来た甲斐がある。


「それより君だ。なぜ帰ろうとする。このせかいでならば僕らは英雄だぞ!なんで帰るんだ!そんなのおかしい!」


「理由ならさっき言ったでしょ。とにかく帰るんだよ」


「わからない。全く理解できない。それ以上に危険だ。帰る手段を探そうなどと。まさか僕にそれを使おうとしているのか?!」


 あ。なんかバカなこと言い出した。思い込みが激しそうだと思ったけど、やっぱりそうだった。将来のために復活する準備をしていたあたり英雄願望の塊みたいなやつだ。自分の世界に帰るのは嫌だろう。


「許せない。君は危険だ。ここで排除する!いでよ!最強の剣!グラム!」


 凄まじい力の奔流が勇者を中心に流れていくのを感じる。そしてその矛先は当然俺に向いている。このままあれを喰らえばゲームオーバー。だと思ったんですよ。


「All Hail My King♡」


 それはラエティティアが編み出した必殺の呪文。語尾がなんだかねっとりしていた気がするけどまあいい。ラエティティアが発した魔力の暴風が勇者を飲み込む。


「ぐああああああああああああああああああああああああああああああああああああああなんだこれは?!まおういじょうじゃないあかぁああああああああああ!!」


 その暴風のなかで幾千もの光の刃が勇者をズタズタどころかまさしくミンチにすりつぶしていく。そして風が止んだ時には勇者が持っていた剣グラムだけが残された。


「あーラエティティア。ナイス判断。奇襲は大事だよ。うん」


「わーい!」


 俺はラエティティアの頭を撫でる。あれ以上の対話は意味なかったとは言えども襲ってくるとは思わなんだ。つくづく勇者にまともなやつはいない。


「ヒントはあったな。あとこの剣。これは掘り出し物だぞ」


 カラスはグラムを手に取りその波紋を見ている。


「いい剣なの?鑑定とかできるんだっけ?」


「スキルなどではないよ。これは北欧神話に伝わるグラムそのものだ。まさかこの世界に流出していたとは思わなんだ」


「そんなすごい剣なの?!」


「まあ貰って行けばいい。何かの役には立つだろう」


 カラスは俺に剣を渡してくる。渡されても困る。俺はばりばりライフルとか出たかう近代兵装なのだ。剣とかいらねー。


「それよりも公国が転移者の返還を行う技術を持っていることについてだ。どうする?」


「そりゃもちろん決まっている。手に入れるさ。必ずね」


 次の目的が定まった。公国の中枢部から技術を手に入れること。俺たちは急ぎ足でダンジョンを後にした。


 そしてダンジョンを出た時だ。そこにエルフの女が1人いた。俺の顔をじーっと見詰めている。


「ソガ・ハルトキ様ですね」


 エルフの女は恭しく頭を下げた。


「エルフ族存亡の危機です。是非あなたさまのお力をお借りしたい。どうかご慈悲を」


 突然ふってわいた救助要請に俺は動揺を隠せなかった。



























 葉桐翔斗書簡


 ジェニファーへ


 イングランドおよびアイルランドにおける発掘は君の助言のお陰で順調だ。私の理論の正しさを裏付けるデータが日々集まってくれている。そのお礼と言っては何だが、君の願いであるヒエロガミーのための婿候補をリストアップした。ファイルはクラウドサーバーに置いておくので勝手に持って行って欲しい。個人的には私の孫を選んでくれたら嬉しい。とくにハルトキは美しさとその聡明さ故に本来はこちらの計画でも使おうと思っていたくらいの逸材だ。君も気に入ってくれると思う。まだ幼いが一度会ってみてくれないか?

追伸 熊と遭遇した。恐らくは警告だろう。君も重々気をつけて欲しい。

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