第13話 モテない奴ほどモテ自慢する

 公都のヴァルトブルクに辿り着き、俺たちはまず宿をとった。


「悪いが三人部屋はないぞ」


 宿屋の店主にそう言われた。


「シングルの部屋とツインの部屋で」


「了解。これがカギだ」


 俺はこの時点では女子部屋がツイン、男子がシングルのつもりだった。だがカラスが言った。


「シングルは私が使う」


「はぁ?なんで?女子同士でツイン部屋使えよ」


「お前はラエティティを抱く義務がある。サキュバスの上に交妾ミストレスのジョブ持ちのラエティティアは定期的にお前が抱かないとステータスが低下するぞ」


「ええ…そうなの…?」


「それに一度は抱いた女を放っておくなんて男らしくないことだ。愛は深く大きく注ぐものだよ」


 そう言ってカラスはシングルの部屋に入ってしまった。俺とラエティティアはツインの部屋に入る。個人的にはセックスがいまだに好きにはなれない。快感は感じる。だけど心の奥底に抵抗感はあるのだ。


「ハルトキ…」


 ラエティティアはベットに座って目を瞑って両手を広げている。俺はその誘導にしたがって彼女にキスをして押し倒す。そのまま夜が深くなるまで彼女を抱き続けた。








 朝になって三人で食堂にやってきた。朝食を食べながら今後の方針を確認する。


「過去の勇者の遺物の調査は必須だけど、カラスの記憶を取り戻すことや探している人についてもちゃんと聞いておきたい」


 カラスは顎に手を当てて考え込む。


「そうだなぁ。記憶か。たしか私は既婚者だったはずだ」


「へぇカラスって結婚してたんだ」


 ラエティティアがなんかちょっと驚いている。俺もあの喪女ッぷりを見ているとなんか信じられない気持ちになる。


「子供もいたし、ペットとかもいた」


「そっかー。しあわせだったんだねぇ」


 ラエティティアはほっこりとした笑顔を浮かべる。


「それと愛人も」


「おい。ちょっと待て」


「なんだ」


「愛人ってどういうことだよ」


「愛人は愛人だ。私も過去の自分の考えていることはわからんがいたことは間違いないはずだ。私は恋多き女だったようだな」


 なぜかドヤァって顔をしているけど、俺もラエティティアもドン引きである。


「恋人とか旦那さん以外の男作るのってどうかと思うよ」


 ラエティティアは少し軽蔑の眼差しをカラスに向けている。


「確かに世間ではそうなのだろう。だが私とてきっと事情はあったはずなのだ。多分一途に愛するだけの価値のある男に出会えなかったとか」


「それはカラスが喪女だからじゃないの?ていうかなんか不倫自慢とかモテる女はやらないと思う。だってモテる女の子はいい男をゲットしてるから」


 そう言って、ラエティティアは俺の腕に絡まってくる。それを見てカラスは顔を真っ青にしていた。


「そう…なのか…?!」


「そうだよー」


 カラスは衝撃を受けているようだ。プルプルと体を震わせている。


「あーとりあえず過去はもういいよ。カラスが今探している人ってのはどんな人なんだ?」


 俺は話題を変える。このまま過去の恋愛トークなんてさせても埒があかない。


「大切な…大切な人だ…。彼がいなければ私は私でなくなってしまう。愛おしい憎い好きで嫌いででも必要なんだ…」


 なんとも言い難い顔をカラスはしていた。愛憎入り乱れて混乱している。そんな印象。


「特徴とかは?」


「特徴…?…強くて誰もの模範となりうる礼節を持った騎士だった。ああ。今でもあの眩さだけは覚えている」


「名前は思い出せる?」


「すまない。名前は思い出せない。だがこの剣がヒントになるはずだ。この剣は彼の佩刀だったんだ」


 カラスは手元に剣を召喚した。それは片刃の煌びやかな衣装を施された剣だった。


「鑑定とか出来ればヒントになるんだろうけど」


 そんなスキルは持ってない。美術学とかの知識は多少あるけど、西洋系くらいしかわからない。


「一応この剣の特徴なのだがな!光るんだ!」


 カラスが剣を持ち上げるとぴかーって剣が光り輝いた。


「眩しい!」


「ちょっと!カラス!まだおきたばかりなんだけど!目が眩んじゃう!」


 はた迷惑な機能だ。てか光ることになんか意味あるの?


「ああ。すまない。だが綺麗だろう?」


 カラスは剣を消して収納した。


「そうだね。ハルトキとエッチするとき貸してよ。ロマンチックだと思う」


「ラブホのライト扱いしてあげるのはやめてくれ!」


 カラスは半分涙目だ。なんかすごい剣を持った騎士さんが探している人らしい。だが地球人だろ?それだけでは探すのが難しそうだ。なんらかの探査魔法やスキルを積極的に取っていくことも考えておこう。












 公都のギルドにやってきた。なお女子二人は市場で必要なものの買い出しに出かけた。


「このダンジョンかな。未踏破で奥に勇者の秘宝が眠ってるって噂だしな」


 ギルドの冒険者たちから情報収集した結果、公都の郊外にあるダンジョンが最有力候補となった。だけど解せない。


「ダンジョンってなんだよ」


「いい疑問点だね」


 俺のひとり言を拾った奴がいた。声の主には心当たりがあった。


「バーナードか」


「やぁ。元気みたいだね」


 以前会ったバーナードと再会した。というかこいつ俺のことを待っていた感じがするな。


「まあ。そう疑わないでよ。君の疑問に一つ答えてあげたい」


「ダンジョンのことか」


「そう。ダンジョン。不思議な存在だよね。迷宮というにはなにかシステマティックな存在だ。入るものを試すような。いいや。ちょっと危険なアトラクションのような場所だ」


「俺はあれを人為的な何かだと思ってるんだけど」


「うん。そうだよ。正解はこの世界の管理者がステータスシステムと共に置いたアトラクションの一種さ。ダンジョン内から手に入るアイテム類とうは経済活動を回しているが、例えば金が無尽蔵に出るなんていう無茶は起きない。経済が破綻しないように常に出現するアイテム類はコントロールされているんだ」


「きめ細やかな気遣いだな」


「管理者は目的を持ってこの世界を運営しているからね。庭の手入れには慎重にもなるさ」


 その目的がわからない。そもそも世界を一つ管理するという存在自体が俺の想像の範疇の外側にある。それは神なのか悪魔なのか。


「その目的ってのは?」


「さあね。僕もそれの詳細は断言できないね。だけど一つ言えることがある。管理者は果てしない力の持ち主だ。君はその試練に耐えうるために力を蓄えねばならない」


「俺はその管理者の試練に興味はないんだけど」


「逃げられるなんて思わない方がいいよ。君はもう王様になってしまった。繫栄か破滅か。そのどちらかだ。そしてその栄枯盛衰は多くの人を撒き沿いにするものだよ」


「選ぶ余地なんてなかったのに」


「勘違いしているよ。王とは選んでなるものではなく、選ばれてなるものだ。君は選ばれた。そこに自由な意思はない」


 理不尽極まりない話だ。なりたくもない王様になってやりたくない戦争をしなきゃいけない。その現実にくらくらしてくる。


「ではまた近いうちに会おう」


 バーナードはそう言って去っていった。そして俺はダンジョン探査のクエストを受けてギルドを後にした。








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