第12話 王の力
トカゲの待つ湖にやってきた。すぐに竜は空から飛んできて咆哮を上げる。
「約束通り花嫁は連れてきたようだな。よかろう。おまえらに我らの結婚式を見届ける権利を与えよう」
ドラゴンさんが何か宣っているけど、こっちとしてはどうでもいいことだ。ラエティティアはすでにドラゴンの毒の効果を受けてはいないのだから。
「トカゲさん!わたしはあなたと結婚しません!」
ラエティティアは一歩前に出てそう宣言した。
「なにぃ!だがそうなれば呪いが…あれ…消えてる?」
ドラゴンさんも自分がかけた呪いが消えたことに気づいたようだ。酷く動揺しているように見える。
「わたしは昨日この人に。ううん。わたしの王様に女にしてもらったの。だから他の誰かと交わるなんて絶対に嫌!」
「うがぁああああああああああああああああああああああああああ!!花嫁が穢されただとおおおおおおおおおおお」
「見せてあげるよトカゲさん。わたしが得た力の片鱗を。王に賜りし宝剣をここに!!」
ラエティティアは天に向かって手を伸ばす。すると手が光り輝いて剣の形になっていく。そしてラエティティアが剣を振り下ろすとそこには大きなソードブレイカーが握られていた。
「トカゲさん。あなたの爪も牙も全部折ってあげるよ」
「こしゃくなぁあああああ!」
ドラゴンはラエティティアに突っ込んでくる。大きな牙を立ててかみ砕こうとしている。だが。
「狙い通り!」
ラエティティは相手の牙をソードブレイカーの峰の凸凹に挟み込み思い切りひねってへし折った。
「ぎゃああああああ!!!」
「まだまだだよ!」
ラエティティアは翼と尻尾を出して飛び上がりドラゴンを追撃する。背中に剣を突き刺しながら頭の方まで飛んでいき、峰の凸凹に相手の角を挟み込んでへし折る。
「うあぁ!うあああああああ!!」
ドラゴンはラエティティアによって一方的に弄られている。
「滅茶苦茶つえぇな」
「お前が抱いた影響だな。公妾としてお前の
「そのリソースって有限だよな?」
「有限だがお前が王として成長すれば増えるはずだ。今は臣下がラエティティアしかいないから彼女が独占して使用している。戦闘力だけならこの世界でもおそらくは上位に来るはずだ」
トンデモ能力をラエティティアは身に着けたようだ。
「くうぅ!ならば最終形態になるしかあるまい!ぐあああああああ!!」
ドラゴンが光だして、人型形態になる。両手にかぎづめを装備した屈強そうな戦士に見える。だけどラエティティは笑みを崩さなかった。
「そんな程度なの?そんなんじゃわたしがあじわった破瓜の痛みさえも越えられない程度の傷さえつけられないよ。でもね。トカゲさんも本気だし、わたしも本気出してあげるね」
ラエティティアを中心に魔方陣が展開する。
「我臣、王より明衣賜らん!恩賜凱旋!公妾甲冑展開せよ!」
するとラエティティアの身体が光り輝き始める。そして周囲現れた胸当てや小手、拗ね当てなどが彼女の身体を包んでいく。そして光が収まるとそこには煌びやかな鎧姿のラエティティアがいた。だけど鎧姿というには露出が激しい。下半身なんてハイレグだし、胸の谷間は見えてるし両脇だって曝している。足の方はニーソックスで逆にハイレグと作る絶対領域がなんかエロい。
「カラスさんや。なにあれ?」
「お前が彼女の与えたものの一つだ」
「あげた覚えがない…」
「だが彼女を抱いただろう。その時に彼女が受け取ったイメージがあれを作り出したのだ」
とにかく俺のせいらしい。
「さあトカゲさん。この世にバイバイする準備はいいかな。まあ準備がなくてももう間に合わないけどね」
ラエティティアは両手で剣を持ち上げる。周囲の魔力が彼女を中心に嵐のように渦巻き虹色の光を放ち始める。魔力同士がこすれてバチバチと火花が散り始める。
「まさか?!魔力子同士が干渉しあうほどの高密度魔力流だというのか?!おのれぇええええ!」
ドラゴンは果敢に彼女に向かって体当たりをかましに行く。だが彼女の前に張られた薄い結界に阻まれてそれ以上先に進めなかった。そしてラエティティアは最後の呪文を唱えた。
「All Hail My King」
そして彼女を中心に光の嵐が大爆発を起こす。その光の奔流にドラゴンは飲み込まれた。絶叫さえ許さない。圧倒的暴力。そして辺り一帯は焦土と化した。空には一羽の白い雁だけが飛んでいた。こうして戦闘は終了した。
ドラゴン討伐の証拠は切り落としていた角で代用することにした。
「しかしラエティティア強かったな」
「うん!でも全部ハルトキのお陰だよ!」
「そうか。よくがんばったね」
俺はラエティティアの肩を抱いて彼女の頭を撫でる。カラスはそれを見てふっとニヒルに笑っていた。
「さてそれを換金した後はどうする。ここにはこれ以上過去の勇者の痕跡はないだろう」
カラスが俺を試すような目で見ている。
「公都と目指そうと思う。まずはこの国の勇者の遺産について最も情報が集まるだろう場所に行くのが先決だ。なにはともかく情報だよ」
「なるほど。私が言わなくてもわかっているようで安心したよ」
俺たちは公都を目指すことになった。そこになら何かしらのヒントがあるだろう。戦力も増えた今冒険の不安の多くはなくなってくれた。前途は洋々。そう言ってもいいのかもしれない。俺たちはギルドで換金後公都行きの馬車に乗ったのだった。
最近の父上と母上の様子はおかしい。父上は何かに怯えているように見えた。逆に母上は何かを待っているかのように物憂げに空を見ることが多くなった。
「母上。勇者がハルトキを殺したと自慢気に吹聴しております」
「ええ。まあ失敗したみたいですけどね」
「彼は我が国の至宝キャリバーンを持っています。どういうことなのですか?」
母上は茶を飲みながら本を読んでいる。娘のわたしに視線一つ寄こさない。
「勇者様ではハルトキ様には勝てません。せめて勇者様が生き残れるようにキャリバーンを託しただけですわ」
「私には逆にしか思えません!ハルトキを殺すために勇者にキャリバーンを渡したのではないですか!」
母上は一向に顔色を変えない。本を捲る音だけが私たちの間に響く。
「マージョリーもそうです。何かの宝剣を持って旅立ちました。証言によればハルトキを唆した者を退治すると言っているとか」
「そうですか。ハルトキ様は誰かに唆されるような弱い男ではないのですがね。まあ年頃の女の子です。視野が狭いのは許してあげなさいな」
「マージョリーもそうなのでしょう!母上が唆した!いったい何をしようとしているのですか?!ハルトキに何をしたのですか?!だいたいおかしいでしょう!母上のお気に入りだったハルトキが追放されるなんて在り得ない。なぜ追放なさったのですか…」
私がそう言うと母上は本をぱたんととじて私に振り向いた。その顔には穏やかでありながらなにか狂気にも似た恐ろし気な雰囲気を感じて私の身体を震わせた。
「モノミスですよ」
「はぁ?なんですかそれは…?」
「モノミスです。ここにいては彼は完成しない。ハルトキ様は英雄ですわ」
「ええ。彼は英雄です。だからこそ手放すべきじゃなかった」
「だからこそ旅立たねばならなかったのです。ハルトキ様は英雄。このわたくしが見初めた英雄。だから彼は旅立たねばならなかった。英雄は旅の果てに得るのです。大いなる恵みを。そして世界を変革するのですわ」
うっとりと熱を帯びたように語る母の顔は今まで見たことがない程に「女」に見えた。わたしにはそれがいやでいやでたまらなかった。
「なんでそんな顔をするのですか。気持ち悪い」
「うふふ。やっとあなたもそういうことに気づくようになりましたか。気づいていますか?あなたがハルトキ様について語るときに瞳が濡れていることに」
「そ、そんなこと!」
わたしは目をぬぐう。だけど確かに手の甲にはほんの少し水滴がついていた。母は嗤っている私のことを淫靡に艶やかに。私はそれ以上何も口にすることができなかったのだ。
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