第11話 朝チュンを律義に待ってる喪女

 朝起きると裸のラエティティアが隣にいた。起こさないようにするつもりだったが彼女も目を覚まして俺にキスをしてくる。


「おはよう。ハルトキ」


「ああ、おはよう」


 女と共に朝を迎えるなんて何度もやってきたはずなのになんか新鮮な恥ずかしさを覚えたのだった。


「ところでなんか忘れてる気がするんだけど…」


「あ、やべぇ!!カラスぅ!」


 俺はズボンだけ着てすぐに家の外へ出た。カラスはドアの傍の壁に背をつけて眠っていた。


「す、すまんカラス。気をつかわせたな」


「かまわない。どうせ私は喪女。むしろ若い二人がラブラブエッチする助けになったのならこの身も浮かばれよう…」


 メッチャ涙目だ。なんかすごく申し訳なさを感じる。彼女の言われたとおりにやった結果ラエティティアは全快したわけだし、命の恩人なわけだ。


「アリがとーからすー!おかげでこんなにげんきだよー!わーんん!」


 ラエティティアがギャン泣きでカラスに抱き着く。カラスはどこか誇らしげに彼女の頭を撫でた。いやほんと夜中に放置プレイしてほんとすんませんでした。







 簡単な朝食をとりながらあの竜をどうぶち殺すのか相談していた。


「ラエティティア一人で十分だ」


 カラスはおにぎりを頬張ってそう言った。


「いやあの竜メッチャ強いでしょ。作戦必要だと思うんだけど」


「そんなもの要らん。ラエティティアはお前の臣下の一人に転生した。トカゲごときに煩うわけがない」


「大臣に転生って何さ?」


「ステータスを開けラエティティア」


 カラスがラエティティアにそう指示すると彼女はステータスを開いた。するとラエティティアは目を見開いて驚いていた。


「え?背景色が黒から紫色になってるんだけど!それにジョブが【公妾】になってる!なにこれ?!」


 どういうことなのか。だけどカラスは答えを知っているのだろう。


「お前はこの世界のステータスシステムの制約から解き放たれて、ヴァンデルレイのステータスシステム王国の隷属化になったのだ。そりゃ背景色くらい変わるさ」


「カラス。ちょっと聞きたいんだが、ステータスシステムはやっぱり誰かが意図的に敷いているものなのか?」


「ああそうだ。この世界では誰がステータスシステムを運営しているかは知らないが、これは人民を支配するためのシステムだ。こんなのの数字や称号に一喜一憂していては支配者の思うつぼだよ。奴隷の鎖自慢と一緒だ」


 ステータスシステムが人為的に供給されているインフラだとすると納得がいくことも多い。


「なあ魔王もステータスを持っていると思うか?」


「当たり前だろう。この世界に存在するすべてがステータスシステムの支配対象だ」


「じゃあ勇者と魔王の戦いなんてステータスシステムを施行している側からすれば」


「出来レースだ。まあ何のためにそれをしたいのかはわからないがね」


 どこかの誰かが俺たちを掌で転がしている。忌々しい。その傲慢が許せない。


「ラエティティアはヴァンデルレイに抱かれて王の愛人となった。そしてヴァンデルレイの提供するステータスシステムのジョブである公妾を獲得した」


「俺の提供するステータスシステム…オープン。…何も出てこないぞ」


「お前はもはやステータス地位に縛られる存在ではない。ステータスを与える側だ。画面なんて出てこないよ。代わりにレジスターをオープンしろ」


「レジスターオープン」


 俺がそう呟くと、画面が宙に現れた。顔写真付きでラエティティアの名前だけが表示されている。


「お前のスタータスシステムに登録された者のリストがそこに出てくるようになる。またそれぞれの状況居場所なども把握可能だ。新たにスキルを与えたり逆に封印したり奪ったりもできる」


「おい。まさか生殺与奪の権が俺にあるってことか?」


「その通りだ。王が命じれば臣下は死を賜る。王が死ねば殉死もする。それがステータスシステム」


「なあ現時点でこの世界のステータスシステムに入ってる人間はみんなそうなのか?」


「ああ。管理者の指一本で死ぬ。逆に寵愛を得ればいくらでも強くなれる。すべては王の所有物でしかないのだから」


 頭が痛い。


「なあ俺自信のステータスシステムが表示されなくなったのは、俺もその軛から外れたからか?」


「ああ。お前は王の自覚を得た。それ故にこの世界のステータスシステムから離れた。代わりに自分がステータスシステムを運用する側になったのだがな」


「カラスのステータスシステムはどうなっているんだ?この世界のものなのか?」


「私はどこのステータスシステムに属していない。私はこの世界の管理者側がはから見ると正規の手順でこの世界にやってきていないようだな。ステータスシステムを付与されていないようだ」


 密入国者にIDが付与されていないようなものか。


「さて。そろそろ話を戻そう。ラエティティアは公妾というジョブを得た。これで竜に対抗できる」


「だけど戦いに向くジョブに見えないんだけど」


「一見すればそうだ。だがね公妾は王者の宮殿の代表者たる存在だ。その力は絶大だよ。…たぶん」


「たぶん?たぶんといったか」


「だがね。それでも十分だよ。ラエティティア。お前はお前の男のために頑張りたい?ちがうかな?」


 カラスがラエティティアを真剣な眼差しで見詰める。ラエティティアはそれに力強く頷いた。


「うん。わたしがんばるよ。ハルトキのためなら何でもする!なんだってできる!!」


「そうか。なら大丈夫だな」


 カラスもふっと微笑む。そして俺の肩に手を当てて。


「やる気になった女の子はやってくれるものだよ。まあ見守ろうじゃないか」


 俺は一抹の不安を抱えながらもカラスの作戦に乗っかることにした。俺は見極めなければならない。新しく得た力とその摂理を。


















 父を殺された私は王城に招かれて国王陛下より慰めの言葉を頂いた。父と国王は本当に仲の良い親友同士だったようだ。


「マージョリー。必ず我らはソガ・ハルトキを殺す。それまで待っていてくれ」


 国王は報復を誓ってくれたけど、私の心は晴れなかった。私は王宮の一室を与えられて逗留を許された。国王の心遣いには感謝する。だけど満たされない。ここでハルトキが死ぬのを待ち続けるなんてじかんのむだではないだろうか?


「気分がすぐれませんか?マージョリー?」


「いえ。そのようなことは」


 私は王宮の庭園で王妃様たちとお茶会をしていた。王妃様も私のことを心配してくださっている。よく聞かれた。ハルトキがイーズリー領にいたときのことを。彼女はそれを楽し気に聞いてくれた。あれ?楽し気に?私はどうしてハルトキのことを楽し気に話しているんだろう?


「ねぇマージョリー。初恋は叶わないという言葉の意味を考えたことはありますか?」


「それは…。初めての恋はやっぱりやり方が上手くわからないから失敗しちゃうとかそういうことだと思います」


「そうね。それもあるのでしょう。でもわたくしは思うのですわ。初めて好きになった男が本当に自分にふさわしいのかわからないから終わらせるべきなのではないかと」


 自分にふさわしい男?そんなこと考えたこともなかった。


「ちょっとついてきてくださいな。貴女に見せたいものがありますの」


 王妃様は立ち上がり、城に向かって歩いていく。私はそのうしろをついていく。王妃様は階段で地下へと降りていく。その深さはまるで地獄へと続いているかのようにさえ錯覚された。そして辿り着いたのはとても涼しい部屋だった。息が白くなるほどに。馬車よりも大きい棺のようなものがいくつも並んでいた。それらからうぃーーんという何かのうめき声のような音が響いていた。


「これは一体なんですか王妃様?巨人の棺ですか?」


「サーバーですわ。まあ概念を説明しても理解はできないでしょうからあえて説明はいたしませんけどね」


 王妃様は棺の間を歩いていく。そして部屋の中心にたどり着いた。棺たちはここを起点に円状に並んでいるようだった。そして中心に置かれた棺には剣が刺さっていた。


「復讐は何も生まない。復讐は意味のない行為。復讐は悲しみの連鎖を続ける愚行」


 王妃様は部屋の中心の棺の上に乗って足を組んで座った。貴婦人としてははしたない行為。だけど同じ女としてみたときに、それはとてもセクシーなものに見えた。棺に刺さる剣の柄にヒールのソールを置いて、王妃様は嗤った。


「ですがそれは復讐を諦めたものたちの戯言に過ぎませんわ。復讐は甘美なる焔。それがかつて愛したものであればあるほどに身を熱く焦がす」


 ハルトキのことだろうか。今でも彼が父上を殺した理由が私にはわからない。彼はとてもやさしい人だと私は知っている。この世の不正を憎み、それを正す力を持った義の人だった。そして同時に美しくて甘い人でもあった。あの瞳に今でも私は囚われている。


「取り戻しなさい。すべてを」


 王妃様はそう言った。


「復讐を成して、手に入れるはずだったものを手に入れなさい。それ以外にあなたに救われる道はありませんわ」


「でも王妃様!私はまだハルトキが…彼が好きなんです…」


 私はその場でしゃがみこんでしまう。復讐なんて出来る気がしなかった。ハルトキを殺すことなんて想像もできない。


「わたくしはあなたにハルトキ様を殺せとは申しておりませんのよ」


 王妃様は優し気に微笑みかけてきた。


「貴女が成すべきは復讐です。それはハルトキ様をあのような悲劇。貴女から父上を奪い去るような悲劇を起こさせた原因をこの世界から消し去ることです。まさかあなたはあの優しいハルトキ様が好きであなたの御父上を殺したと思っているのですか?」


「そんなこと。そんなことけっしてありません」


「ではあのとき。どうして彼はあなたの父上を殺したのですか?よく思い出して」


 私はあの時のことを思い出す。父が銀髪の奴隷女をハルトキにプレゼントしようとした。ハルトキは何かをぶつぶつと呟いていた。ハルトキは奴隷の拘束を解いた。そして父を殺したのだ。


「ああ。王妃様。いました。ハルトキを唆した者が。ハルトキにあんなひどいことをさせたものが」


「ではどうするべきかもうお分かりですわね?」


 私は目の前のサーバーと呼ばれる棺から剣を抜く。剣を通して力が全身にみなぎってくるのを感じた。


「王妃様。私は復讐を完遂いたします」


「ええ。それでけっこう。期待しておりますわよ」


 私は王妃様に一礼して、剣を持ったまま早足で部屋を去っていった。私は必ず復讐を遂げる。そしてハルトキを取り戻すのだ。





































「いいわねぇ。恋に狂った娘は扱いやすくて。ふふふ。あははははは!!」





























------作者のひとり言-----


お久しぶりです。


なんか書けたのでアップしました。


カタコンベの様にサーバーが並ぶ部屋の真ん中にあるサーバーに剣が突き刺さっているという妄想がこの物語の始まりの一つです。


はやくジェニファー様とハルトキの再会の時が書きたいなぁ。


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