第10話 自らの意思で

 気絶した黒髪の女を村に連れてきた。事情を尊重に話すと快く部屋を貸してくれた。この女どうやらクエストを先に受けたという冒険者だったようだ。ベットに女を寝かせてしばらく待つと目を覚ました。


「ここは…村か。お前たちが連れてきてくれたようだな。礼を言う。ありがとう」


「どういたしまして。だけどなんであんなことしてたのさ」


 目覚めた黒い髪の女の顔色は良かった。とくにケガも何もないようだ。


「あの竜の目的は村に花嫁を要求することだった。だから身代わりになったのだ」


「いや。そんなこといいから討伐しろよ」


 呆れてものが言えない。モンスターの言うことを真に受けていたらクエストにならないだろうに。こいつは真正のバカだ。


「で、あんたの名前は。俺はヴァンデルレイ・ナシメント。こっちはラエティティア・ルーレイロ」


「私か。私の名はカラスだ」


 ふざけた名前が出てきた。


「それ本名じゃないな。事情があるのか?」


「いや。私には記憶がなくてな、気がついたらこの世界にいた。とりあえずカラスが好きだからカラスと名乗ることにしたのだ」


 今なんか引っかかるようなことを言った。


「この世界にいた?まるで他所の世界から来たみたいな口ぶりだな」


「ああ。記憶はないが、私はこの世界の人間ではない。ちゃんと思い出せないのだが、この世界へは人探しに来たのだ」


 あれ?もしかしてこの女って異世界間を移動する方法知ってる?バーナードのやつマジでナイスアドバイスしてくれた?


「なあ俺も異世界から来たんだ。地球なんだけど、もしかしてお前の力で俺を地球に送れたりするか?」


「いや無理だ。やり方を思い出せない。うっすらと覚えているのは異界のゲートを通ったことだけだ。あと私も地球出身だ。どこの国だったかまでは思い出せないが」


 とんとん拍子とはいかないようだ。だがヒントらしきものは転がり込んできた。


「それよりもあの竜だ!この私をフった!ぶち殺してやりたい!」


「いちいちフラれたくらいで相手を殺してたらキリがないぞ」


「何を言うか!私の愛を拒んだのだ!死あるのみだ!地球にいたころからそうしていたはずだ!」


 ドン引きである。異世界でシリアルキラーに覚醒するならまあわかるけど、地球にいたころからそうだとするとマジもんのヤベェ女ってことになる。


「あの時うっすらと思い出した。そう。私は昔から愛した男に袖にされるんだ。私はこんなにも愛しているのに相手は逃げ出すんだ!わかるか!ヤリ捨てされる女の気持ちが!」


 わかんないです。俺の周りの女は自分の欲望に忠実で強かにそれを叶える権謀術数を駆使している。カラスの恋愛がうまくいかないのは多分性格の問題だろう。


「ねぇねぇハルトキ。とりあえずクエストっていうか、勇者の遺跡を探しに行かない?ここでぐだぐだ喪女の愚痴を聞いても仕方ないよ」


「確かにそうだな。探しに行くか」


「ちょっとまて!私を喪女と言ったか?!」


「「だってそうだし」」


「ぐはぁ!」


 カラスは身もだえている。よほど効いたらしい。


「正直にいうけど、俺は地球に帰還したい。あんたは記憶喪失らしいけど、地球への帰還方法を知っているんだろう」


「ああ。思い出せれば大丈夫なはずだ」


「なら俺たちと組まないか?あんたの人探しを手伝ってやるから、俺の地球への帰還の手掛かり探しに付き合ってほしい」


「ふむ。…なるほど…わるくない取引だ。いいだろう。お前のパーティーに加わってやろう」


 俺とカラスは握手をする。こうして旅の道連れが一人増えたのである。










 竜の帰還した先を目指して俺たちは森を歩いていた。


「男なんてどいつもこいつも私との約束をいつも踏みにじるんだ…」


「そっかー大変だったんだね!それは周りの男たちがくそだったんだよ!カラスは悪くない!」


「そうかわかってくれるか!男運が悪かっただけなんだ!そうに決まってる!」


 カラスは道中男への呪詛をぶつぶつと呟いていた。それをルーレイロは薄っぺらい言葉でいなしていた。


「全員ストップ。遺跡らしきものを見つけた」


 俺たちの前に朽ち果てたレンガ造りの小屋を見つけた。ライフルを構えて、ドアを蹴破り中へと入る。


「クリア。さてヒントを探そうか」


 俺たちは手分けしてヒントとなりうるものを探す。かつて勇者が使っていたであろう。アイテム類が置いてある。いずれも朽ちて使い物にはなりそうになかった。


「あったぞ。召喚陣だ」


 カラスが何かを見つけたらしい。彼女が指さす床に紋章が刻まれていた。


「これはこの世界からモンスターを召喚するのではなく、異世界から物を呼び出すタイプの魔方陣だ。とはいっても人間は呼べない。呼べるのはモンスターやアイテムの類だけだな」


「昔の勇者のチートの跡ってことか」


 俺はカメラを取り出して魔方陣を撮影する。これ単体では役に立たなくても他の技術と組み合わせれば帰還するための魔術を作ることが出来るかもしれない。


「この魔方陣で召喚したものを制御することもできるようだ。ふうう。ふん!」


 カラスが魔方陣に触れた。すると魔方陣が輝きだした。


「おい!お前何やってんの?!」


「あの竜をここに呼びよせた。リターンマッチだ。ひき肉にしてやる」


「このあほ!そんな脳筋だからすぐにフラれるんだよばーかーばーかー!!」


 そして竜のいななきが響き渡る。俺たちはすぐに小屋の外に出る。上空にあの竜が飛んでいた。


『私を呼びつけるということは花嫁の準備がととのったということか?』


 そんなつもりは毛頭ないんだよねぇ。はぁ。気が重い。本来ならねぐらを特定して爆弾仕掛けて葬り去るつもりだったのに。竜は俺たちの目の前に降り立つ。その威容は間違いなくチート級の強さを誇っているのがわかる。


『ほう。銀髪に赤い瞳、そして美しく豊満な体。サキュバスでありながらまだ清らかな乙女を保っておる。よいだろう。我が花嫁として認めよう』


「え?普通にいやなんだけど!」


 ルーレイロは嫌そうな顔をしている。そりゃいきなり爬虫類の花嫁とか嫌すぎるでしょ。無理もない。


「あいにくだが花嫁を連れてきたわけではない。私たちはお前をぶち殺しに来たのだ。くそ爬虫類」


 カラスは右手に槍を左手に剣を構えて臨戦態勢となる。


『ふん!お前のような汚れた女に用はない。花嫁を渡すつもりがないのならばお前らを殺して奪うのみ!GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!』


 竜は吠える。そして羽ばたいて地面から飛び上がった。戦闘開始である。


「飛んだ程度でなんだ!とう!」


 カラスはジャンプして竜の高さまで飛び上がった。そして槍に魔力を込めて竜を突き刺す。だがそれは竜の張ったシールドに阻まれる。


『ぐうううう。その槍。まさか神話級なのか?!』


「さあな。だが槍だけではないぞ!」


 カラスは左手の剣でシールドを切り裂きそのまま竜に肉薄する。そして思い切りケリを入れた。


『ぐおおおおおお!!』


 竜は地面までぶっ飛ばされて木々をなぎ倒して転がっていく。


「カラスすごくつよいね」


「あいつひとりでなんとかなりそうかな?」


 さらにカラスは竜へと追撃を始める。竜が火を吹けば槍を振り回してこれをかき消して、竜が爪で斬ってくれば、剣でそれを捌く。そして着実に竜に対してダメージを積み重ねていく。時間はかかりそうだけど、地力では竜よりもカラスの方が圧倒的に上のようだ。しばらくたつと竜はあちらこちらから血を流してボロボロになっていた。


「勝負あったかな」


『いいやまだだ!』


 竜は突然光輝き始める。するとその姿は徐々に小さくなり、人間と同じくらいになった。その姿はトカゲ人間とでもいうべきものだった。第二形態ってやつだろう。


『喪女に構っていられるか!花嫁は貰っていく!』


 トカゲ人間はまっすぐにルーレイロの方へと走ってくる。


「ええ?!」


 ルーレイロは突然のことに備えができていなかった。俺は彼女を庇うためにルーレイロの前に立つ。


『処女の隣に男はいらぬ!』


「くそ!?」


 トカゲのバカ力で殴られて俺は吹っ飛ばされる。カラスが受け止めてくれたけど、血を吐いてしまった。結構重症のようだ。


「カラス!俺はいい!すぐにルーレイロを守ってくれ!」


「わかった!」


 カラスはルーレイロのもとへと走る。だがトカゲ人間の方が早かった。


『はなよめぇえええええええ!!!お前は我のものだぁあああ!!』


 トカゲ人間はルーレイロを爪で斬ろうと迫る。ルーレイロはとっさに体をひねったためその爪痕は左肩だけで済んだ。


「女の肌に傷をつけるな!」


『ぐうううう』


 カラスはルーレイロを傷つけたトカゲ人間の手を剣で切り落とす。トカゲ人間はすぐにカラスから距離を取った。


「あぁあああがぁぐあああぁあああいやぁああ!!」


 ルーレイロが左肩を抑えてのたうち回っている。


「ルーレイロ!今手当てする!」


 俺はポーションを傷口にかける。この程度の傷ならば跡も残さずに治るはず。確かに傷跡は消えた。だが苦しむ様子はまだ消えていない。


『くくく。その女はもう我の花嫁だ。特製の毒を盛ってやった。解毒したければ我に渡せ』


「渡さなきゃ死ぬのか?本末転倒だろう?」


 カラスがトカゲ人間を睨んでいる。


『わがものにならぬ乙女ならば死ねばよい。死なせたくなければ明日湖に連れてこい。そこでお前たちに我らの婚姻の儀に参列する栄誉をあたえてやろう。ふはははははは!』


 トカゲ人間は羽をばたつかせて空へと飛び去って行き、あっという間に姿が見えなくなった。


「ルーレイロ!解毒剤だ!飲め!」


 市販の解毒剤を飲ませる。だけど効いた様子がない。あのトカゲ人間が言っていることはどうやら本当のようだ。


「くそ打つ手なしなのか?!」


 死なせないためには竜にルーレイロを引き渡す必要がある。だがそれではだめだ。この子の面倒は俺が見ると決めたのだ。そんな無責任なことは出来ない。


「ヴァンデルレイ。方法ならある」


 カラスが俺の傍にきて言った。


「あるのか解毒方法が?!」


「ああ。とりあえず小屋の中へ入れよう」


 俺たちは小屋の中に入る。ルーレイロをベットに寝かせる。荒い息遣いがとても哀れに見える。


「方法ってなんだ」


「簡単だ。お前は王だろう。力を下賜しろ。それだけで十分だ」


「はぁ?何言ってんだ?俺は王じゃない」


「いや。緊急事態だ。隠したい事情はわかるがお前の王の力を使えばすぐに良くなる」


「だから俺は王なんかじゃない!」


 カラスは首を傾げている。そしてぽんと手を叩いた。


「ああ。お前自分の本性に気づいていないのか?私は出会ったときにすぐに気づいたのだが」


「意味がわからない。俺は初級の魔術と兵士のジョブくらいしか持ってない。あとはこの斧くらいしか能力はないんだよ」


 俺は斧を召喚する。相も変わらず使い方がわからない。ステータスシステムにも表示されない謎のスキル。使い道が全くない。


「斧だと…?!もっとも原初の源流に近い王権の象徴を持っているのか?!」


「カラス。お前この斧について知っているのか?!」


「ああ。記憶にうっすらとある。斧はもっとも古い王権のシンボル。それは神代よりも以前からあるヒトの力の結晶。そして文明を熾した火に匹敵する発明、人類最初の■■を行った者が手にした人民の祷り」


 抽象的過ぎて意味がわからない。それに聞き取れなかった単語もあった。だがカラスは何かルーレイロを助ける術を知っているのだが。そこに縋るしかない。


「カラス。俺はどうすればいいんだ。教えてくれ」


「王に策謀を伝える。まるで魔女のような役割だな。いや。私はもともと…いまはいいか。簡単だ。抱け」


「は?」


「ラエティティアを抱け。そしてお前のモノにするんだ。そうすればあの竜がつけた所有の呪いはたちどころに解ける」


「いやいや抱くって。それはいくらなんでも」


「理性が拒むか?だがお前の本能はどう叫んでいる?その美しい女をどうしたがっている?」


「そういうもんだいじゃないだろう。ルーレイロだってこんな状況で抱かれるなんて」


「お前は女を抱くときにいちいち相手の許可を取るのか?それは男が成すことの中で最も卑怯な行為の一つだと心得よ。女に口にさせるのか?抱いてくださいと。それがどれほど女のプライドを踏みにじるのかわかっていないのか?」


 no means yes.それが女の処世術だ。


「今からラエティティアに苦しみを和らげる施術を行う。あとはお前次第だ。だが王様・・。女を失望させるな」


 カラスはラエティティアに何か魔術をかけた。ルーレイロの顔色が少し良くなった。そしてカラスは小屋から出ていった。俺はルーレイロの横たわるベットに座る。


「ルーレイロ。いやラエティティア」


「…ああ。初めて名前で呼んでくれたねハルトキ。嬉しいよ」


 ルーレイロは微かに笑みを浮かべる。俺はこの子を旅の途中で放り出そうと考えていた。安全さえ与えてやればそれでいいと思っていた。それはいまでも間違っていないと思う。だけど。


「ラエティティア。俺はね。自分に正直になることにするよ。だからね」


 俺はルーレイロにキスをする。ルーレイロは驚いていたけど、拒絶することはしなかった。


「ラエティティア。お前は俺の女だ」


 俺はルーレイロに覆いかぶさる。


「っあ…ハルトキ…そんな…だめだよぅ。あ…ん…」


 俺はルーレイロの唇を激しく奪う。舌を深く絡めて彼女の両手を押さえつける。だけどルーレイロは抵抗しない。むしろ両手の指を深く絡めてくる。そして俺は彼女の服を脱がせ、自分も服を脱いで。見つめ合いながら深く交わった。











-------作者のひとり言-------



ハルトキ君が本当の意味で自分の意思で女の人とやるのは今回が初めてですね。

そういう意味では本当の童貞をゲットしたのはラエティティアちゃんです。


なお筆者はカラスさんのバカ喪女ッぷりが好きです。

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