24.烏丸ゴロウの悪魔的所業
24
――かちゃり、と。
絞られた引き金は、なにも撃ち出しはしない。
俺は微笑み、悪魔も微笑む。
「残念。きみの敗北っていうものを目に焼き付けたかったんだけどなぁ。はは。でもまあ、分かりきっていることでもある」
「負け惜しみ乙w」
「きみはこんな簡単には負けない。負けない
「中二病乙w」
「でも、いずれは必ず、負ける」
悪魔が
俺は弾倉を開く。
「てか俺、べつに負けなしの人生ってわけじゃないから」
「でもきみは、人生の重要なターニング・ポイントでは、必ず勝ってきたじゃないか。ボクの親友達との勝負で、一度も負けていないのが良い例だ」
そして俺は――悪魔には悟られないように、意識を、集中させる。
「どうでもいいことでは負けるよ。俺」
「知っているさ」
「勝手に理解するなあッ!」
「こわ。急に怒るなよ……」
俺は外した状態の弾倉を回す。からからからから。音は軽い。けれど回る感触はすこしだけ重い。なるほどこれが、回す感覚か。俺は何度でも弾倉を回す。回しながらに感覚というものを手に染みこませていく。
さらに――想定。
しかし、やはり、気取られてはいけない。
だから、意識を逸らすように、提案。
「悪魔」
「なんだい。それにしても悪魔、というのはつれない呼称だよね。あくちゃん、とか。そういう風に呼んだってボクは全然構わないぜ?」
「あくちゃん。今更ながら約束しないか?」
「契約ならしてもいいけど?」
俺は力の加減というものを完全に理解する。どのくらいの力で回せばどれだけ弾倉が回るのか。
「現状、俺はおまえに、単純な暴力という点では
「まあまあ。そうかもしれないね? きみのことだから、なにかとんでもない秘策でボクの度肝を抜いてきそうではあるけれど」
「この勝負、無茶苦茶な決着を迎える可能性もある。おまえの暴力によって」
「ボクはそんな無粋な真似をするつもりはないけど? これでも悪魔として
鼻で笑う。
「悪魔としての矜持なんて信頼できるわけないだろ」
「あはは! まあそうだね。いいとも。じゃあ、暴力はなしだ。このロシアン・ルーレットというゲームをしている最中、暴力の行使は、なし。これでいいかい?」
俺は頷くと同時に空の弾倉から指を抜く。
濃密な
当たり前に、俺は、殺すつもりだった。
悪魔が弾倉を確認する。
頷かれた。
弾倉を閉じる。その表面の凹凸に指を当てた。回すのは一瞬。なんでもないように。回転。
かららららちかちかちかちかち、かち、かち、かち、かち、かち、……かち……かち…………かち…。
銃の撃ち方は知っている。俺は姿勢を綺麗に保ったまま腕を伸ばす。銃口を悪魔の
「殺気というより、もはや殺意だねぇ。烏丸ゴロウ」
「俺は基本、魔物も悪魔も例外なく殺すつもりだから。もちろんあくちゃんも」
「はは。あはははっ! 本当に、天性の悪魔性だ。きみのような存在が人間として生まれてくるなんて、神様っていうのは愚かだよねぇ」
引き金に指を掛ける。
俺は――弾丸の位置を知っている。最初に
――違和感。
そして俺は勝利を確信しながらに違和感を覚えている。どうしようもなく、まるで靴底にこびりついてしまったガムのような違和感を覚えている。払拭することの出来ない違和感。正体不明の違和感。
「まあ、きみは天才だものね。烏丸ゴロウ」
悪魔は語る。
「音だろ? 弾倉が何度、回ったか。あはは。それくらいはするだろうさ。それくらいの、誰でも思いついて、でも誰も実行することの出来ない難しいことくらいは、容易に、こなすだろうさ。天才だから。……でも」
悪魔の瞳――黄みがかった瞳の奥が、落胆を、告げた。
「きみらしくない」
不発。
撃鉄は、なにも叩かない。
「きみらしくないよ。本当に。……六年前のきみであれば、そもそも暴力の行使を禁止する、なんて契約もしなかったはずだ。あのときの、悪魔的なきみなら」
「懐古厨乙w」
「ちなみにこの
「クソゲー乙w」
「これは単純に、ボクときみ、どちらが天運を持っているかの勝負だよ」
俺の手から
「思い出してくれないかい。悪魔よりも悪魔的だった、六年前以前の自分を」
弾倉が、閉じられた。
「きみの悪魔的所業について、語ることには尽きない」
「俺、意外と優しいって評判なんすよ」
「たとえば【
「いやでもあれはしょうがない! あいつめっちゃ強かったもん! あと金属バットはしょうがない! 漫画のせいだから! 俺のせいじゃないから! 不可抗力だから!」
「なら【
「覚えてる覚えてる。でもあれも、しょうがないから! 複数の相手で片方だけを狙うのは常套手段だから! それで戦意喪失させるのが攻略法だから! あと笑ってたのはほら、兄? の方がなんか最初にめっちゃ偉そうだったから、ギャップで!」
「そうそう。【
「いやそれもしょうがない! しょうがないんだ! それが攻略法なんだ! 弱体化させないとあいつ話にならなかったから! しょうがないじゃん異空間に肉体を置いてるんだから。しかもすぐ逃げようとするんだから! てかさ、命のやりとりをしててさ、自分がいざ負けそうになると簡単に許してくださいって、なんか、変じゃん? だって俺が泣いても絶対許してくれないじゃん? でしょ?」
「だから、残虐でも許されるのかい?」
「うん――徹底的に殺すよ。俺は」
「やっぱり、きみは悪魔だね!」
悪魔が満面の笑みを浮かべた。
「――この弾丸は必ず命中する。天運は、きみを悪魔と認めるさ」
0
「じゃ、救出に行くでござるかぁ。――テレサ殿」
そして、烏丸ゴロウが、かつて結成した、伝説のグループ。
「【
漆黒を纏った
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます