一五話 遣らずの弾雨⑤

「はぁー…、思った以上に手古摺てこずりました。一匹逃がしてしまいましたが、ゼラたちは上手く殿下でんかを逃がせましたかね」

枝族しぞくの…分際で、」

「未だ話せるのですね、中々のしぶとさ」

 所々に被弾の跡が見えるものの、怪我を負っている様子のないラチェは、足元に転がる四肢を切り落とされ虫の息となった笹耳族ささのみぞく、いや義憤ぎふんの残り二人を見下してから、どうしたものかと考え込む。

 殿しんがりというていで襲撃地点に残ったラチェは単身で義憤二人と山程のショウビを討伐しきっていた。

「私も王太子をお護りする騎士の一人、少しばかりよくわからない魔法を使うだけの、笹耳族とショウビ程度には遅れはとりませんよ。さて、息のある内に答えてください、誰の差し金ですか?」

「…我は義憤、我は我の意思で琥珀こはく夜眼やがんを討つため動いたのみ」

「まあ吐き出す心算つもりがないならそれでもいいです、どっちにしろ…ドゥルッチェの王族を狙った以上は死が確約されているのですから」

(チマ姫様を狙うということはトゥルト辺りの手先と考えるのが無難でしょうが、トゥルトのご令嬢はそこまで愚かではありません。というより、チマ姫様が関わらなければ懸命な判断をなさる方。…色恋で彼是あれこれ困った事をする方でもありますけど…有り得ませんね。トゥルト伯の可能性は大いに有り得ますが…、殿下を危険に晒す可能性は今現在なし。別の派閥か国外勢力か。―――なんにせよ)

「この穢遺地はどうやって発生させたのですか?消し方も吐くのであれば、一思いに苦しみを絶ってあげましょう」

「………………。これらは我ら統魔の力、そして時を置かずに消えゆくであろうことを伝えよう」

「統魔、統魔族ですか?」

「…。」

「必要以上に語りませんか、ならば」

 ラチェは義憤二人の首を落として剣の血糊を払い、鞘に納めては宿へと向かって走り出す。太っちょな彼からは想像もつかない速度で。

 グミー・ラチェ。レベル109。保有スキル、剣聖けんせい【1/1】、剣術【45/48】、身体能力強化【45/51】、敵性察知【15/15】、舞踏【1/9】、手芸【1/14】。他。

(然し統魔族とは、面倒極まりない名を聞いてしまいましたね…。…、第六騎士団の設立による中央戦力の強化、国内の対穢遺地へ対策に財源を多く用いての安定化、そして今回の野営会へ同行する騎士の増援。必要以上に戦力の水準を上げたがっていたレィエ宰相は、今回の事件と統魔族の復活を予見していた?……幼少からの行動に不審なものがあったと父から聞きましたが、なるほど『予見』なり『予知』を持っていると見たほうが良さそうですね)


「グミー・ラチェ、只今戻りまし…どういう状況ですか?」

「グミー騎士が来ましたから、私達はお嬢様を追うために此処を出ます!良いですかデュロ殿下!?」

「チマが心配なのは分かるが、せめてマフィ領防衛騎士団の到着を待ち同行するべきだと言っている、お前たちにもしものことがあったらチマに対して示しが付かないといっているだろう!」

「分からず屋ですね!今正にお嬢様の危機、私共にはそれがわかるんですよ!!」

 デュロとシェオが怒りの形相を露わに、口論をしている現場にラチェは眉を曇らせて手頃な騎士に状況を問う。

 チマが自身を囮にデュロ逃がした事を聞いては、苦虫を噛み潰した表情をラチェは見せ。何かしらのスキルかは不明だが、シェオとビャスがチマの危機を訴えて、それをデュロが棄却してを繰り返していると説明を受けた。

「落ち着いてくださいお二人共。特にキャラメ・シェオ、君が声を荒らげればそれだけチマ姫様の地位を下げることに繋がりかねない事実を理解するべきです」

「――ッ!…。」

「理解してもらえたようで何より。それでは」

「お待たせしました、チマ姫様を救いに出ましょう」

 ラチェの言葉を遮って現れたのは、撤退中に使用したものよりも大型の魔法銃を背負ったゼラの姿。その手には暇乞の書簡が握られており、真っ直ぐにデュロへと手渡される。

「どういう心算だ、ゼラ」

「釣友…ではなくドゥルッチェ王族の一人であるアゲセンベ・チマ様救出任務を自分に課しましたので、それを実行するため暇乞を用意しました」

「普段は週に一度、一単語でも聞けばよく喋る方なのに、何なんだお前は…。…ラチェ、判断を任せる」

「…、はぁぁぁぁあ。先ず一つ、暇乞は受理しません。二つ目、三人いた内の一人は逃しています。三つ目、護衛の人員を割くことはできません。四つ目、チマ姫様がご帰還なさった際、悲しむような結末にならないよう立ち回ること。最後に、ジェローズ・ゼラ、キャラメ・シェオ、ティラミ・ビャス、以上三名は野営会終了後二日以内に始末書を提出すること」

「「「はいっ!」」」

「では急げ、チマ姫様を救出して戻って来なさい」

 勢いよく部屋を飛び出した三人へ呆れた瞳を向けてから、これ以上無く疲れた相貌でラチェは肩を竦めた。

「もっと話せば容姿と相まって人気が出ると思っていたが…」

「ゼラは話さない方が花があるのですよ…」

「はぁ…、ラチェ、報告を頼む」

「はい。―――」

 人払いをしたラチェはデュロに統魔族のことまで含めた報告を行って、デュロと共に頭を悩ませていく。

「反叔父上派閥だと思っていたが、統魔族と。穢遺地を作り出してはいたが…」

「抜け落ちている情報が多く、私共では判断ができません。陛下と、レィエ宰相を交えて会談を行うのが無難でしょう」

「そうだな。然し…統魔族だとして、何故にチマを」

「そこは全く以て不明ですね」

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