一五話 遣らずの弾雨④
(このままの状況で宿に戻ったらかなりの被害を出しかねないわね…。第二第四の騎士たちが準備を整えるまでの時間を稼いで、…うーん)
「ラチェ騎士とゼラは大丈夫だろうけど、この魔物郡を引き連れて宿に戻るのは悪手だと思うのよ。市井に向かうなんてのは以ての外」
「グミー・ラチェ騎士とジェローズ・ゼラ騎士ってどれくらいのレベルなんです?」
「70超えのはず。そうじゃなければ王太子の護衛なんて務まらないわ」
ラチェは三〇代半ばくらいでありえなくないが、ゼラは二〇代にしか見えない容姿、規格外な護衛である。
「なら二人に協力を願えれば機会は有りそうですが」
「ここが
「そもそも協力を取り付けられると思わない方がいいし」
「デュロ殿下の護衛騎士ですからね…」
「第二第四もそう、彼らはデュロを護衛する序でに学校の生徒を守っているだけよ。相手の戦力の底が分からない以上、下手に他人は巻き込めない」
「なら此処で終わらせよう」
「「――!!」」
杖を振り被った
「
「
「???。どういう意味よ」
「『
「…。」
起き上がったチマは足元に転がる石を拾い上げてから、義憤を目掛けて投げつけるも、相手に届くことなく弾き飛ばされて、明後日の方向に転がっていく。
(ジェローズ騎士の魔法銃も弾いてたし、ビャスルートに現れる統魔族の耐性は健在)
「だけどッ!」
リンは
(ビャスルートに現れる、統魔族の支配下に置かれた人は、エピックランク以上の武器じゃないと攻撃が弾かれる持ち物検査仕様。だいたいビャスルートに到達する頃には
攻撃を受けた義憤はリンの攻撃を受け流すようになり、若干の煩わしさが表に出てくる。
(このまま戦ったところで勝ち目は無さそうだし、今の目的は統魔族を倒すことじゃないから)
リンは自身の位置を調整し、木が背になるように立ち回って、攻撃を受け流され金箍根を引いた瞬間に長さを際限無く伸ばしては義憤を無理繰り吹き飛ばし、大きな隙と時間を作り出したのである。
「逃げますよ、チマ様!」
「わかったわ!随分と強いじゃない!」
「こそこそと練習してたんで」
「けど逃げてばっかりじゃキリが無いわ」
「そうですね、領地防衛騎士でも到着してくれればいいんですが…」
(そこまで私とリンは持たないわね。共倒れするくらいなら何処かでリンを逃がしたいけど、聞いてくれなさそうだし。倒すのも無理そうよね…)
(チマ様は何が何でも守りたいけど、市街に出ていって被害を増やすことを絶対に望まない。…そうなると倒すか待つかだけど、どっちも厳しい。…………あたしが離れたらチマ様は長く持たないだろうし…)
自然公園を駆け抜ける二人を
「チマ様!伏せてッ!」
「っ!きゃあ!」
突如虚空から姿を現したかのように、攻撃を繰り出してきた義憤の攻撃を二人は回避したものの、チマは泥に足を取られて地面を転がっていく。
「袂を分つ者、邪魔立てするのであれば容赦はせん」
「ッ!!」
杖を振って繰り出された重い一撃に、金箍根を握るては痺れて、再度の一撃で大きく後方へと吹き飛ばされる。
はっきり言ってレベルが違いすぎるのだ。
年齢的な水準では高い方ではあるが、隠しであるビャスルートのラスボス水準が現れては、手も足も出ないとはこのこと。
(…きっつぅ)
リンが起き上がろうとすれば足元がグラつき少しの動きで石が後方に転がっていき、カランカランと音を立てて響き渡っては、ボチャンと水面へと吸い込まれていく。彼女は気が付かずにいたこの場所は、プーレット湖へと繋がる川の一本が遙か下に流れており、所謂渓谷と呼べる地形になっていた。
「はっ、はっ、はっ」
視点が合わなくなり、虹彩があちこっちに動き回り、呼吸が浅く、速くなる。
『ごめんね、ここで死んでほしいだ。自殺って形で』
記憶に蓋をして忘れていたかった言葉が、容器を抉じ開けて脊髄を爪を立てるも。
(そんな、場合じゃないの!!―――ッ!?」
勇み立ち上がった結果、踏んでいた足元が崩れ去り身体が後方へと傾いていったのだ。振り返れば一〇メートル二〇メートル先に岩の転がる河畔が広がっており、落下位置的に水を緩衝材にするのは難しいだろう。恐怖と心的外傷で視界が真っ白に染まっていく。
(あぁ…)
「バカ!諦めたような顔をしているんじゃないわよ!!」
歯牙を剥き出しリンの手を掴んだのはチマで、小柄な身体で体重を掛けては彼女を引き戻した。
「我を前に他所見とは、命を狙われている自覚が無いのか?」
「うぐっ!…、知ってるわよ
「―――あ、あぁ…」
護りたいと願った相手が、自身を護って到底助かると思えない場所から落ちていくその姿を目にしながら、リンは茫然自失な様子で崩れ落ちていく。
「可能性の芽は摘み取るべきであろう」
「くひっ、くひひひ」
「?。先程までの威勢を失い、終には壊れたか」
「いやぁ、壊れちゃいないさ。ちとばかし面白懐かしい雰囲気に誘われてやってきてみりゃ、何がどうやって
「成る程、『
普段とは異なる雰囲気を纏って立ち上がったリンは、顔を手で覆い義憤とは異なる仮面を作り出して、足元に落ちていた金箍根を蹴り上げて肩に担ぐ。
「御名答。
「これは
「やっぱお前さんたちには愛が足りないんだよ、ラブアンドラヴ。だぁかぁらぁ、
「言わせておけば!盲愛とて神威に味方し最後には奴らに封じられたではないか!」
「ちっちっち、俺っちは封印されてないの。だから此処にいるんじゃない、寝床で寝てただけ。愛しのアーダスちゃんに頼まれて、必要な瞬間まで待ってたのさ。…もう既に昇界からも去っちまったみたいだけど、限界までこっちに残ってたのかねぇ」
「…。」
「へぇ、そういうこと。この枝に留まったのは正解だったかも。琥珀の怠惰ちゃんに
盲愛と呼ばれた統魔族は、瞬く間に義憤へと距離を詰め、仮面を鷲掴みにしては力を込めて一息に砕いてしまった。
「裏切り、者め」
「裏切るも何も、最初から俺は統魔族を仲間だなんて思ってないよ。くひひ、だって
崩れ落ちた笹耳族の頭を踏み砕き、河畔へと蹴り落としてから盲愛は一息吐き出して、身体の支配をリンへと返していく。
(よっ!愛を知る枝葉ちゃん)
(え!?何!?何があったの!?)
(ちっとばかし身体を借りて義憤のクソヤローにお灸を据えてやったんだ、感謝はしてくれなくていいよ、くひひ)
(義憤、っ!チマ様は!?)
(チマサマ?あー、もしかして琥珀の怠惰ちゃんのこと?彼女なら運が良いみたいで、未だ生きているよ。川を下っていくといい)
(そう、なのですか!ありがとうございます、えっと)
(俺は統魔族の盲愛ちゃん、神族に味方した愛の求道者さ。まあ、正直言って君のことはちょっとばかし好みから外れててぇ、もう二度と会うことはないと思うから、覚えてくれなくていいよ。それじゃバーイ、琥珀の――ちゃん―――俺――に気が―――……)
心の内から響いてきた声は、遠ざかっていくように消えていき、リンは自身の身体への支配権が戻されたことを確認し、金箍根を片手にチマを探すべく川を下っていった。
「チマ様、無事でいてください!!」
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