一四話 河畔で釣りを!④
(さて)
宿に荷物を下ろしたリンは、
(
物語的には序盤ということもあり、ボスへの推奨レベルも高くない。が、ゲーム内と違ってリンとデュロ、バァナに万全と言えるだけの装備はなく、チマとビャスという本来の進行には存在しない二人までいる。
(とはいえ、護衛のラチェ騎士に加えて第二騎士団の面々も加わっていることを考えれば、問題はなさそうに思えるんだけど。…セーブもリトライもないし、戦闘不能は死に直結するんだから失敗できない。チマ様と来年を迎える為にも、仲良くなった皆と楽しく過ごせる為にあたしは止まれないっ!)
本来発生する三日目のボス戦、そしてそれが前倒しで発生しても良いように、リンは覚悟を決めて笑顔を作る。
「何か忘れ物でもしたの?」
「え!?」
「さっきから表情が硬いわ。足りないものがあったらなんでもいいなさいな、シェオを走らせて準備させるから」
「大丈夫ですよチマ様、それなりに大きな会食なので、作法を忘れていないか確かめていただけなので」
「それならいいけど」
(チマ様って結構鈍感だけど、視点自体は悪くないんだよね…)
(なにか隠しているわね。言いたくないなら詮索はしないけど、いざという時には助けられるようにしっかり見ててあげないと。…ビャスとは一緒に買物に行くくらいに仲がいいのだから、一言伝えておこうかしら)
こうして四人は昼食の会場へと向かってのんびりと歩いていく。
初日の
食べ盛りな男生徒などは給仕に追加の旨を伝えて、昼餉を食んでいる。
チマは川で魚を釣ろうと意気込んでいることと、そこまで食が太いわけでないこともあり、簡単に食事を終えてデュロらとの合流場所へと向かっていく。
自然公園の散策と川遊びということもあって、チマたち四人娘は動きやすさを重視しつつも洒落っ気を忘れていない。チマは流行色である薄桃色を基調とし、無駄な装飾を避けた簡素な衣服ながら、決して貧相に思えない上品な衣服を纏っている。そして尾の付け根には可愛らしいリボンが揺れていた。
リンらは水着なんかも用意しているのだが、チマは体毛が全身を覆っている都合上、川に入ってしまうと乾燥と手入れが大変だと水着の用意はない。湯浴みだけで手一杯だとか。
ちなみに体毛に覆われている都合上、直射日光に対して肌があまり強くないチマは、入念に日焼け止めを散布し帽子被って日傘をシェオにさしてもらっている。
長袖にしてしまうのも手なのだが、体温調節の都合から手足は露出させての活動とあいなった。
「待たせたわね」
「問題ないさ」
チマ御一行が到着したことで、バァナとその友人たる二人、二年の生徒会四人、チマたち四人、教師であり一応の護衛を務めるシュネに、護衛が複数人付いた一団が完成する。他の班と比べて大所帯であり、行動範囲が限られてしまうものの、王族二人を抱えている以上は仕方ないことであろう。
ゲーム上のチマは生徒会に属しておらず独自の取り巻きと共に、リン達とは別行動をしていた。
「はははっ、今年は華々しくて素晴らしいっ!」
「三年生の役員とは別行動なのね」
「各々が小派閥を持っているから、独自独自の班を構築して動いているのですよ。私的には女性陣と一緒に行動したかったのですが、昨年は特にむさ苦して」
バァナは昨年もデュロと行動しており、デュロ含め二年の役員は全員男子。寄ってくる女生徒も多くはいたが、流石に加えるわけにもいかずバァナはしょぼくれていたのだとか。
「卒業前にいい思いができて良かったわね」
「ええ、この三日間は人生に於いて忘れられぬ時となるでしょう。では、お美しい皆様、私が自然公園を案内いましますので、楽しいひと時をお過ごしください」
プーレット湖の自然公園はマフィ領にとって重要な観光地の一つ、何一つとっても遜色のない自然豊かな風景と、景観を崩さないよう入念に手入れをされた散策道、そして数多くの野鳥が姿を見せている。
「すごいわねぇ。あっ!あの色鮮やかな鳥が
「ええ、そうですとも。この自然公園周辺で多く見られる野鳥の一種、錦絹羽根です」
光沢のある色鮮やかな羽根が特徴のそれは、チマたちの大所帯へ視線を向けてから、何処かへ飛び立ってしまう。
「自然公園は当然のこと、マフィ領全域が錦絹羽根の禁猟地となっており、背くようであればマフィ領の裁量でもって裁くことの出来ます。ですので、極力近づく事のないよう遠くから眺めていただければ、マフィ家の一員である私としても嬉しい限りです」
「そのための双眼鏡ということね」
「はい。野鳥観察は明日行う予定なので、本日は触り程度に散策を行いましょう」
「わかったわ」
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