一四話 河畔で釣りを!①

 ガヤガヤと賑やかしくドゥルッチェ縦断鉄道の新王都しんおうと中央駅セントラル・ステーションに集まり来るのは、王立第一高等教育学校の生徒たちである。本日から伝統の催しの一つである、『夏の野営会サマーキャンプ』の開幕であり、初参加である一年生は特に騒々しく燥いでいた。

 そんな中で、チマはといえば退屈そうにうんざりとした表情をして…はおらず楽しげに尻尾を揺らして、どこか落ち着きのない様子。人生初の旅行に前日からワクワク頻り。両親や使用人らは微笑ましい姿に何度微笑みをこぼしたことか。

(あたしは転生っていう人生最大の旅行をしているんで、これくらいじゃ羽目を外しすぎたりはしないよ。ふっ)

 なんて自虐的なノリで内心格好つけているリンも、前日は寝付くのに苦労をしたようで、精神年齢というには肉体に引っ張られやすいのだろう。

「結構、騎士団の方々が多く見られますね」

「デュロと私がいるから当然よ。王族が通っていなければ学校側の警護のみみたいだし、今年来年は特に力の入った人員配置になるんじゃないかしら」

「再来年も、と言ってほしいんですけど…」

「私達が三年の時は二五〇〇周年の式典と被るから、多くの催しは中止になると思うわ」

「あー…、それもそうですね」

「必然的に人の往来も増え、それに乗じた悪徒あくとも言わずもがな、騎士団は本業を全うしなくてはならないの。つまり!」

「つまり?」

「一回少ない分、私達は『夏の野営会』を須らく満喫すべし!今から巨大パンケーキが楽しみよ」

生徒会の方わたしたちで沢山のシロップや飾りを用意しましたからねっ」

「せ、選定は大変でしたぁ…」

「どもっ!チマ様!へへっ、巨大パンケーキ会、私も楽しみにしていますよ!」

 そそそっと表れたのはメレと、その友人であるヴァーロワン・ロア。

「予行練習では上手く出来ていたし、本番もきっと大丈夫よ。失敗して形が崩れたところで味が落ちるわけではないから、それはそれで楽しみましょ」

「いいっすね、そういう理解があるところ!」

 やや控えめなメレと違って、ロアは非常に気安く誰とでも仲良く出来る女生徒で、男女問わずに隠れた人気を誇っている。彼女もマシュマーロン領の出身で、メレとは幼馴染。寮も同室で親友同士とのこと。

「あっそうだ、実は私、メレにから教わって布陣札ふじんさつを出来るようにしたんすよ!野営会中は時間もあると思うんで、いっちょ揉んでもらってもいいですか?」

「挑戦は拒まない主義なの。何度だって受けて立つわ!」

「イケてるとこ見せちゃうんで、楽しみにしててください!」

 ここ最近、教室でも顔を合わせ、一緒に行動することが多くなった四人は、時間になるまで四方山話よもやまばなしに興じていく。

(ビャス、昨日にも言いましたが、お嬢様たちが催しを堪能できるよう、我々は全力を以て護衛職を全うしなくてはなりません。警戒は密にお願いします)

(っしょ、承知ですっ!)

「アゲセンベ家の護衛殿、少しばかりお時間をよろしいでしょうか」

 シェオとビャスの二人に声をかけるのは第二騎士団の騎士で。

「はい、なんでしょうか?」

「お二人はアゲセンベ・チマ様の護衛として登録なされていますが、緊急時における動きの詰め合わせを行いたく、お声をかけさせていただきました」

「畏まりました。ではチマ様、我々は一旦離れますが」

「移動せずに待っているわ。行ってらっしゃい」

「お時間は取らせませんのでご安心ください」

 騎士は慇懃に礼をしては、シェオたちと場を離れていった。

 それと同時に今回チマら乗車する貸切の蒸気機関車が姿を見せ停車していくのだが、前回から次回までの三年間は王太子であるデュロが在籍するため、王族専用の客車が用意されており、一部の生徒たちが賑やかしくしている。

「アレに乗れるなんて約得ですね〜!」

「伯父様のご公務以外でも出すのね」

 なんて呑気に構えていれば、学校の生徒以外にもお召し列車を見ようと押しかけていて、手には高価な映写機があり列車熱狂者マニアなのだろう。

「お嬢様、戻りました」

「おかえり、案外に早かったじゃない」

「本当に緊急時の動きを確認するだけでしたので」

「それじゃあ列車に乗り込んで腰を落ち着けちゃいましょ」

 返答をする三人を引き連れて教師に意向を伝えれば、チマ一行の座席位置を記してある紙面を手渡され、場所を確認しながら乗車する。

「やあチマ、待っていたよ」

「おはよう、デュロ。一緒の客車に配置されてるのね」

「おはよう、皆もね」

「「「おはようございます、デュロ殿下」」」

「警備の観点からも一緒の方が楽なんだろうね。チマたちの席はあっちだけど、この一号客車は私たちだけの貸切だから、気楽にやろうじゃないか」

 座席から顔を見せたのはポピィとプファ、そしてもう一人の役員に護衛たち。チマからすれば気を使わなくても良い相手であるのだが、役員でもないロアはやや緊張した面持ちを露わに、頑張って笑顔を作っていた。

「始めまして、マシュマーロン領出身のヴァーロワン・ロアと申します」

 二年生の一同はロアに対して自己紹介をし、和やかな四人の態度にホッと胸をなでおろしていた。彼女は爵士家の出ということもあり、立場的にやや気が引けてしまっているのだろう。

「心配しなくても大丈夫よ、四人とも気のいい人たちだから」

「ははっ…やはり気後れしてしまいまして」

「マシュマーロン領から二人と…、ならば来年の夏の野営会はマシュマーロン領にするのもありだな」

「っ!マシュマーロン領うちの領地にしていただけるのですか殿下!?」

 勢いよく立ち上がったメレは、少し恥ずかしそうに頬を染めて、怖ず怖ずと腰を下ろす。

「通例として生徒会役員が出身とする領地から選定するのが習わし、今の二年は三人とも王都が出身となっているからな。来年度はマシュマーロン領とするのが最適だろうとね」

「いいわよねぇ海の幸、夏場なら帆立貝が採れるはずでしょ?採れたてを刺し身で食べてみたいのよ」

「魚介の生食!私も賛成です!」

「そういえばリンは魚介が好きだったわね」

「はいっ、ぜん…アゲセンベ家でカルパッチョを食べてからもう病みつきで!」

 キャッキャと盛り上がる二人を目に、メレは申し訳無さそうな表情を露わにして口をハクハクと開閉している。

「そのぉー、チマ様の言った帆立貝は北の領地が主でして、マシュマーロンじゃあ殆ど扱ってないんすよ」

「そうなの?」

「そうなんす。ああでも!他にも色々な海産物が上げられてまして、そっすね…カンパチなんかが絶品です!だよねえ、メレ?」

「はいっ!お、美味しい海産物ならばマシュマーロンは何処にも負けない自身があります!」

 自領を盛り上げようと必至に、ロアとメレは言葉を紡ぎ夏の野営会の誘致を行う。こういったわかりやすく、次世代の舵を握れる者を呼び込めて、良い記憶を残せることが領地発展の一歩となり得るので、領主の娘、そしてその親友としては勝負どころなのだろう。

「いいんじゃない?魚介ならなんでも大歓迎よ」

「とりあえず第一候補として据え置こう。来年の話だから、この野営会が終わってからしないとね」

 デュロは優し気な表情をメレとロアへ向けては、自分の座席に腰を下ろしてく。

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