一三話 デートに虹を!②

「先ずは武具を見に行きましょうか!」

「…、武具、ですか?」

金箍根きんここんという魔法道具を仕入れているお店があると耳に挟みまして、是非とも購入しなければと思い立ったのが切っ掛けなんです」

(情報の元はレィエ宰相、よくご存知なことで)

「な、なるほど。…っですが、武具を購入するとなると持ち運びが不便になってしまう気が」

「その辺りは問題ないのですよ。着いてからのお楽しみということでっ!」

 さり気なくリンはビャスの手を取って歩みだし、二人は手を繋いだまま武具屋へと向かっていく。

 迷いなく到着すれば、そこそこに格式の高そうな佇まいで、手持ちの金子きんすで足りるのだろうかという疑問が頭によぎる。

「いらっしゃいませー」

 あまり愛想のいいとは言い切れない風貌の店員が二人に視線を向けてから、少しばかり考え込んで受付の抽斗ひきだしを漁る。

「金箍根が有ると聞いて足を運んだのですが、」

「待ってたよ。ほら、受けとんな」

 ひょい、と投げられたのは万年筆でも入っていそうな小さめで、高級感のある箱。到底武具が入っているとは思えないそれは軽く、そして特殊な紙で表面を封じられていた。

「そいつを開けられるんなら本人だ、好きに持ち帰ってくれて結構。開けられないんなら、こっちに渡して帰ってくんな」

「…。認証封刺にんしょうふうしですか」

「そういうこと、これを用意した者が定めた相手にしか開けらんないってわけ」

 大昔から用いられている魔法封印の一つで、店員の話した通り用意した者レィエが定めた相手以外が開けることは叶わず、無理やりに開こうものならば、手痛い反撃を食らう厄介な品。

 意を決したリンは認証封刺の端を摘み、勢いよく引っ剥がせば、後も残らず綺麗に剥げて、ほっと胸を撫で下ろす。

「やっぱり本人さんか」

 箱を開けば中には走り書きの成された紙と、一〇センチ程の棒が一本収まっており、リンは紙を手に取り裏返す。

『代金は支払い済みだから、これからの活動に役立てて欲しい。支援者より』

「支援者ねぇ…。お代は支払済とのことですが」

「ああ、もう受け取ってある、血解契約の費用も。随分と買われているお客さんだな」

「分かりました。では血解契約の段取りをお願いしたいのですが、契約を行ったことがなくて」

「別に難しいものじゃない。ちっとばかし痛いが血を流して、血解武具に吸わせれば終わりってだけ。俺が回復魔法を扱えるから痕も残らない」

(本当に至れり尽くせり。あたしがチマ様派閥へ正式に加わったこともあって、護衛の一人くらいに思っているのかな?…間違っちゃいないけど)

「回復は私もできるので大丈夫です。それじゃお願いします」

「はいよ」

 受付へ近づいていけば店員は奥へと向かって、金盥かなだらいと小振りな刃物を手に戻って来る。

「…っあの、け血解武具というのは?」

神代域有史以前に製造された神世技術オーパーツ武装ウェポンの一種でして、血液を吸わせることで使用者を限定し、燃料炭を使わないで特殊な力を発揮する武具なんです。物自体はピンからキリまでで、今回の金箍根は使用者の意思で自由に大きさを変えることができます」

(元ネタは西遊記さいゆうき如意金箍棒にょいきんこぼう。ゲームだと棒術と鈍器術の乗るエピッククラスのユニーク武器なんだよね)

「そ、そんなものもあるのですねっ!」

 少し変わった武器に、ビャスは瞳を輝かせるように店内を見回していく。

「なんだ少年も入り用かい?契約が終わったら相談にのるから待ってな」

「~っ!!」

 ざくりと掌を切りつけて、どくどくと流れ出る鮮血を金箍根に浴びせれば、見る見る内に吸われていき限界まで注ぎ込む。痛みに顔を顰めるリンに対して、ビャスは空いている手を握りしめ、言葉は出さずとも一度頷いて安心させる。

「よし、もう十分だ。回復が使えるならもういいぞ」

「カイラ!……はぁ~、普通に痛くて驚いちゃいました~」

「刃物で切りつけるんだから痛いのは当然だろうに…。これで名実ともにコイツはあんたの物だ、何か不調なんかがあったら持ってきてくれ。直せるようなら直してみるから」

「はーい。ビャスさん、ありがとね」

「どっ、どういたしまして…」

 照れ照れと顔を赤らめたビャスは手を離して、恥ずかしそうに半歩距離を置く。

「お熱いアベックだこと」

(アベックって…まあいいや、一旦試しをしてみないとね。………大きさ一八〇センチ)

 一度店の中央へ移動したリンは、手に持った金箍根へと脳内で指示を出すと、一〇センチ程だった棒切れば両端にたがが付いた品の良い長棍へと姿を変えた。

(重さ二〇キログラム。っと、よし。今度は軽く、)

「問題有りませんね、十分に扱えそうです」

「そいつは良かった。そいじゃ少年も武具を見ていくかい?」

「…っあまり金子の持ち合わせがなくてっ」

「見ていくなら無料たださ。たんまりと分厚い財布を拵えた時にでもきてくれりゃ、こっちは大喜びだからな」

 結構雑な説明をする店員だったが、ビャスは興味津々といった様子で話しに頷いていき、リンはその様子を笑みを浮かべて眺めていた。

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