一二話 陣を敷く!④
ここ最近、敬愛する
そしてそこに、チマの領域へ跳ね回りながら踏み込んできたの獲物がシュネであり、公式戦での試合記録を隅々まで
瞳を輝かせて卓に着くチマを見て、リンは記憶を掘り起こしていく。
『布陣札?あぁー…、たしか盤上遊戯の。あまりそういうのは詳しくなくって、機会があったら教えてほしいわ』
ゲーム内のチマを布陣札に誘う会話はあることにはある。だが、やんわりと断られて、それ以降は布陣札関連のイベントが発生することもなく、主要人物の中で唯一対戦を挑めない相手となっていた。
が、現在では「挑みたい」と一言言えば大喜びで時間を用意し、挑戦者を捻り潰していく。
(
件のチマは配られた札を全て記憶し、自身の山札を構築。手前六〇枚から相手に渡っている札を精査しながら、仮想山札を二つ三つ組み上げていた。
(シュネ先生に配られているカードを考慮すると、山札構築段階で私の微不利ね。最善手で山札を組まれていても勝てる範囲内だけど、確実に行きたいわね)
挑戦者であるシュネが後攻を選択したので、チマは一〇枚の中から明かしても問題ない札を切っていき構築を探っていく。
先攻側からすると、相手がこちらの手を見ながら局面対処してくるので、一戦目一回は半ら捨て試合であり、場に出された情報を拾いながら手を隠すくらいしかすることがない。
そういった例に洩れずチマも相手の盤面と、その相互作用を理解し何となくの構築が固まる。
(手札優位性はなし、ここで負けると残り五枚を確認出来ないから、確実に勝たないと)
(ここで一戦を落としてしまいたい、のですが引いた五枚はイマイチ。…そそくさと切り上げて、三回で確実に勝利を頂きましょう)
チマにとっては勝たなくてはならない場面なのだが、盤面に出される札の数々は控えめなもの。そうなるとシュネの脳裏に過る思考は。
(手札が事故っているか、勝利に急ぐ私を誘っているのか)
チマが多くの札を消費して、次の回に
(これをひっくり返すには、…最低二枚の消費。割に合いませんし、此方もアゲセンベ・チマ様の情報は欲しいので、負けていくのが無難でしょうね)
「布陣終了」
「なら私の勝利ね」
盤面の札を全て脇に避けていき、山札に残る残りの五枚をお互いに引ききって一戦目の三回が開始される。
先にシュネが負けているため後攻を選択。チマが札を一枚を増やした段階で、前回から残っている残留系カード『獅子金貨のコンソ』(得点2)諸共『春嵐』(得点0 相手の盤面にある札を全て裏側に変える。後攻一巡目にのみ使用可能)で盤面を更地にしていく。
こうして始まった三回目は大差がつき、一枚でひっくり返せない段階になったチマが布陣を終え、シュネが一勝することとなった。そしてチマは捨て札から配られた一〇枚を確認してから、山札の一枚と入れ替えて再編成を行う。
(想定よりもシュネ先生の構築が弱いわね。……、あら『ドゥルッチェのザラ』(得点2 『騎士』一枚につき得点1を加算)じゃない。ふふふっ、思った以上に
山札を審判たるデュロへ預けたチマは、一戦目にして方針を定めて確実にシュネを包囲するのであった。
それからの二戦、チマは後攻から開始したのにも変わらず限々のところで態と敗北を重ねて、二回の札交換を行っては堅実な構築を行っていた。
ただそれは、布陣札を始めたての生徒たちから見れば、シュネに追い込まれ窮しているようにしか見えず、大口を叩いた割に弱いじゃないかと鼻で笑われる要因ともなる。
布陣札を知っている者からすれば、同等前後の山札構築しか出来ていない相手から、勝ちの目を可能な限り
(珍しい手ではありませんが…一戦目で勝負に付き合って隙を晒したのが付け入られる要因となってしまいましたね。交換した札は今のところ公開されていませんが、三回も入れ替えたのであれば捨て場に置かれた強札の一枚二枚は持っていかれたでしょうね)
(ここから負ける理由もないでしょ。あとは捲くるだけよ)
後攻を選択したチマは烈火の如き勢いで攻め上げていき、4‐3と勝利に片足を掛けるのである。
(これが本物、あぁ…惚れ惚れしますね。こちらの入れ替える札も高確率で読まれており、次の一戦で私の首は落とされてしまう。……ですが、なんと甘美な時間か。これほど楽しい、全身の痺れる試合をしたのは何時以来か、…そして私は、まだ上を目指せます!感謝いたします、アゲセンベ・チマ様)
敗戦確実となっていたシュネは、ほんの僅かな時間だけ恍惚そうな笑みを浮かべてから、対戦相手のチマへ闘志の籠もった視線を突き刺して、華々しく散っていった。
三負けからの五勝、鼻で
そして。
(もしかしてアゲセンベ・チマ様って布陣札に於いてはめちゃくちゃ優秀なのでは?)(実技でも『剣聖』持ちのトゥルト・ナツに喰い付いていたよね)(そもそも入学時は首席だったし)(宰相が根回ししたんだと思っていたんだけど…)
とチマへの評価は少しずつ変化の兆しが見え始めていた。
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