一二話 陣を敷く!①

 昼時。チマたちがバーニャフレイダに野菜を潜らせて食べていれば、リキュとその友人らが目の前まで足を運び、失礼のないように一礼をしてから口を開く。

「チマ様にお頼みしたい事がございまして、お話を聞いてはいただけないでしょうか?」

「いいわよ、何かあったの?」

 座りなさいな、と促してみるも、流石にデュロと同席するには気が引けたようで、着席は辞退し頼み事とやらを告げる。

「最近、チマ様が太鼓判を押した布陣札ふじんさつが発売されたじゃないですか」

「太鼓判を?……、もしかしてタンユーエン商会の物かしら」

「はい、そうです」

褒状ほうじょうと指摘を送りはしたけれども、別に太鼓判は押してないのよねぇ。まあいいわ」

「アゲセンベ・チマ様が!という謳い文句ではなく、公爵令嬢が!とのことでしたが…」

「現在のドゥルッチェに公爵は叔父上一人しかいないから、ほぼ名指しだね」

「それならまあ、いいとしましょ。それで布陣札の話題を出したということは、私に対する挑戦かしら?」

「え、いえ、その自分たちでは未だチマ様の足元にも及ばない実力しかないので。それでですが、貴族界に布陣札の流行りが吹き始めまして、葡萄月8月末に初心者から熟練者まで誰でも参加できる、タンユーエン商会主催の交流戦が開催されることになったのです」

「へぇ!面白そうじゃない!」

 瞳を輝かせ、尻尾を揺らすチマは、大層嬉しそうで情報を集めるようにとシェオへ指示を出していた。

「そこでの催しなのですが、団体戦という三人一組で行う対戦方式があり、自分たちもそれに参加しようと考え、生徒会で最も強いチマ様から教えを賜りたいと参じた次第なのです」

「成る程、私にね!いいわよ、時間のある時に面倒を見てあげるわ!」

「ありがとうございます!」

「ついていけるのであれば、ある程度の実力を担保できるな」

「大丈夫大丈夫、順々に教えていくから。ふふっ、楽しみね!」

 デュロの言葉に一抹の不安を抱きながら、リキュたちはチマからの教えを賜ることになる。

「然し流行っているとはいえ唐突に興味を持ったものだね?」

「いやぁ、実は優勝者に神世技術オーパーツ武装ウエポンが贈られるとのことでして、勝てるかどうかは扨措き、挑戦してみるのも悪くないと決まったのです。チマ様から簡単なご享受でもいただければ、優勝に近づけるかなぁと」

「私が参加する可能性は考えなかったのね」

「うっ!だ、団体戦ですので」

 ふふっとチマは笑っては、どうしようかと考えていく。


「実際に遊んで覚えていくのが一番の近道よ」

 日を置いて生徒会の無い放課後、チマはリンとメレを呼び込んで、一年生徒会役員とリキュの友人二人の合計六人で、何度か布陣札で遊んでいく。

「てっきり、『全部の札を覚えることから始めるわ!』とか言うと思っていたのですが」

「物を覚えるには先ず、その物事を楽しめてないと始まらないわ。興味のない授業を楽しそうに受ける生徒なんていないじゃない」

「チマ様、…私は未経験で見ているばかりだったのですが、大丈夫なのでしょうか?」

「いい機会だし、ここで覚えて生徒会室でも遊べるようにしてもいいんじゃない?他の貴族にも流行っているみたいだし、布陣札を切っ掛けに良縁が舞い込むかもしれないわ」

「そういうことなら」

 意を決したようで、メレはチマからの基本指導チュートリアルを受けていく。

 シェオとリンが審判を務めて、リキュら三人に初心者のビャスを加えてみれば、中々にいい勝負をしていき、勝った負けたと賑やかである。

「…っあ、あの時、『胸甲騎兵』と『平原の王カオカオ』の連携、上手でしたっ」

「『胸甲騎兵』は一回目から手札に来ていて、ここぞという機会に『カオカオ』を引けたんだよ。試合を左右する神引きデスティニードローだった」

「………逆転されちゃって、す少し悔しいです」

「五分の試合だった。『カオカオ』を引くのが三回目であれば、こちらが負けていただろう。いい勝負をありがとう、ティラミ・ビャス」

「こここちらこそ、ありがとうございました。ドナツ・クルェ様」

 「男同士楽しく遊べていてなにより」とチマは頷いて、布陣札沼に三人を引きずり込めたと確信していく。

(頭から座学をしても取っつき難くなっちゃうものね、勝利から味わった快感を土台に学んでいかなくっちゃ)

 実際に札毎の組み合わせなんかを話し、戦略を考えている姿は楽しそうで、時折に「どういった組み合わせを作っていくのがいいのでしょうか?」とチマに頼る程度の指南が、彼らにとっては丁度いいのだろう。

「メレも覚えがいいじゃない。遊び方はもう十分覚えられているわよ」

「低レベルのですが『暗記』を持っていますし、生徒会室でも拝見していましたので…」

「ふふっ、じゃあ一回、そうね略式の試合で実践するわよ。相手は私が務めるから、頑張ってね!」

「はいぃぃ」

 戦々恐々なメレであるが、チマは手加減をしてくれるということで一安心。山札構築の際に、配られた札の右側のみを加えての、戦略性に欠ける破茶滅茶な山札を使用したうえで、敗北時の山札交換はなし。

 リキュら三人は流石に厳しいだろうと予想をしていく。

「わぁ、勝ちましたっ」

 勝利をしたのはメレなのだが、三先の試合で3-2と非常に良い勝負をしていたチマへ、三人は驚愕の表情を向けていた。

 それこそメレは、それなりにしっかりとした山札を構築しており、敗北時には良い札を捨て札から引き当て着実な強化をしたのにも関わらず、二回落としたのである。

 初心者ということを加味すれば不思議でもないのだが、チマの山札は恐ろしく不揃いで紙束と言って差し支えない代物だったのだから、彼らの驚きも当然であろう。

「流石に勝てなかったわね…」

「なんで勝ちに行ってるんですか…」

「露骨な手加減で勝ちを譲られても楽しくないでしょ、本気の相手に勝ってこその布陣札よ」

 シェオは呆れつつ、机上の道具を片付けていく。

「どう、初めての勝利の味は?これ以上ない病みつき必至の香辛料になったんじゃない?」

「はいっ、その、とても楽しい試合でしたし、勝てた喜びも堪能できました。これからも、みなさんで布陣札を遊ぶ際に呼んでいただければと思うくらいには…」

 控えめなメレの上目遣いに、リキュら三人はほんのり頬を上気させ。

「是非是非!」「大歓迎ですよ!」「うんうん!」

 と大喜びであった。

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