一一話 鉄壁の剣聖!③
タタタタ、初速から最高速を叩き出すチマは、攻撃する素振りだけ見せてはナツの脇をすり抜け、片腕を軸に地面を引っ掻き砂を巻き上げながら無理やりな転回をし、背面への一撃を試みる。
(獣の瞳、混血の夜眼族なのに獣性が高すぎるのではありませんか?)
チマから一歩距離を開けたナツは冷静にサーベルの一撃を受け止めては、回避するであろう方向へ刃を返し、相手が一歩退いたその瞬間、目にも止まらぬ一撃を叩き込んだ。
「うぐ、はぁっ!」
脇への一撃は護陣佩の防御があってもなお、衝撃が内臓を揺らし骨を軋ませるだけの威力を持ち、地面を転がったチマは揺れる視界の中でもナツから目を離さずに、ゆったりと起き上がった。
「はっきり言いますけど。アゲセンベ・チマ、貴女は十分に強い実力を持っていますわ。ですが、ですけどね、それでは私に届きませんの。なんてったってこの私、トゥルト・ナツはレベル36、そしてスキルに『剣聖』を所持しているのです。万が一にも勝ち目なんてありませんことよ」
普段であれば高笑いで嘲りそうなものだが、ここまで挑み続けたスキルなしに称賛を込め、片手を差し出しながら降伏を促していく。
「はぁ…はぁ…はぁ…、はぁっ…」
「体力も限界ではなくって?瞬間瞬間に力を割きすぎですわ」
(剣聖、…スキルなし。はぁ…)
「はぁ…はぁ…っ、そんな大層なスキルを持っているのなら、尚更諦められないわ。…貴女は大層な努力をしてレベルを上げ、剣術も身体に叩き込んでいる。それは理解できる、けれど、私だって努力はしてきたの!その証明に、諦めなんてしないわ!一矢だけでも報いてみせる!っはぁ…けほっ」
手足は
「いいですわ、受けて立ちましょう。好敵手として、対峙して差し上げます」
「どうも。―――」
「「「―――っ!?」」」
チマが返答を終えて口端を上げた瞬間に周囲の生徒、いや学校にいるチマ以外の総ての者が、身体が硬直し呼吸すら敵わない状況へと陥った。
(これってゲームのチマが使う)
(これは
((『
(防御回避不可の強制行動キャンセル技で、この後に続くのは)
いつものように屈み込んで駆け出したチマだが、足が地面を離れた瞬間に姿が消え去って、瞬く間に距離を半分進んでいる。
(二連『
(なっ!あの馬鹿女、気を失っていますわ!大口叩いたくせに有言不実行で、…このまま倒れたら間違いなく怪我をしてしまいますわ…、そしたらきっとデュロ殿下は悲しみますわ…。あぁ!もうっ!なんで私が恋敵の世話なんて焼かなくちゃいけないのよー!)
『絶界』『影歩』神聖スキルの頂に上り詰めた者が会得するといわれる技を、使用したチマは白目をむいて体勢を崩しており、そのままの勢いで進んでしまえば大怪我は免れない。
不本意そうなナツは底冷えのする絶界下で無理繰り身体を動かし、握る剣を放り捨てればチマの進路上に立ちはだかって彼女を受け止める準備を整えていく。
「むぎゃ!」
弾丸の様な体当たりを全身で受け止めては、地面を転がっていき目を回しながら上体を起こすと、完全に伸びているチマの姿がそこにあった。
「ブルード・リン!回復魔法持ちでしょ急いで回復なさい、早く!」
「はいッ!」「「お嬢様!!」」
呆気に取られていたリンたち血相を変えてチマの許へと駆け寄って、容態を確認していけば、転がった拍子での全身打撲や攻撃を受けた部位には腫れと思しき膨らみ、勿論のこと手足は襤褸々々で散々な有様だ。
「すみません!誰か医務室から医官の先生を読んできてください!シェオさんとビャスさんは、チマ様の身体を動かさないように日陰へ移動させて、風魔法で身体の熱を冷ませて上げてください!」
「「「はい!」」」
医務室に向かったのはリキュ。彼は身体能力強化を
(…あれは間違いなく絶界。私ですら会得できていないどころか、曾御祖父様以前の記録なんて、四〇〇年は
「なんか…ドッと疲れましたわ」
「ナツ様ご無事ですか?」
招喚した剣とサーベルを回収していけば、取り巻きの一人がポタポタと走ってきて、ナツの様子を伺っていく。
「ええ、無事よ。最初に蹴りを一発貰っただけだもの」
「それなら良かったです。然し、あれは何だったのでしょうか?呼吸すら止まってしまいましたぁ」
「…、さあ、何か特別なスキルでも持っているのでしょう。一点特化の厄介なものをね」
「なるほど。親が親ですから、チマ様も一筋縄ではいかないのです」
「そう、ですわね。…今回、私はアゲセンベ・チマに負けていませんが、勝ったとも言い切れませんので、彼女の周囲の者への嘲罵をしないことを宣言いたしますわ」
「律儀ですねナツ様」
「私の実力は示せましたし、慈愛に満ちている姿も一年の皆へ見せつけられましたから十分ですわ。ほほほほほっ」
取り巻きとともに遠目ながらチマの回復を伺いながら、記憶の整理を行っていくのであった。
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